都留市議会議員 清水絹代
2度の挑戦と落選
市政に目を向けるきっかけとなったのは、1992年の市長選挙で市政の変革を期待して支援した候補者がまさかの落選となり、相変わらずの「甲州選挙」への怒りと「男性任せの政治でよいのか。女性も声を出せねば…」の思いの女性有志が集まり、勉強会グループを設立したことにある。その後「女性を議会に送ろう」の機運が高まり、1999年、思いがけなく市議会議員選挙への立候補をすることとなった。夫の「出ればいいじゃないか」の一言も大きな後押しになった。
立候補を決意した多くの女性の前に立ちはだかる壁は、夫や家族の不理解という例が多いと聞く。友人の他市議員が義父から言われた「俺たちの飯はどうなるんだ!」という言葉は典型的。これは、「政治は男がするもの」、「家事・育児は女がするもの」などのステレオタイプから脱却できないためであろう。
支援組織はなく、友人・家族を巻き込んだささやかな選挙活動は実にお粗末なものだった。街頭演説で市政への思いや女性議員の必要性を訴え、共感も得た。しかし、クリーン選挙は通用せず落選。直後の夫の言葉「悔しかったら次もやれ」で2回目挑戦も、同様の条件で落選。
地方自治の学びと同志との出会い、3度目の挑戦
落選をきっかけに、山梨県主催の男女共同参画講座を受講し、仲間と「やまなし女と男ネットワーク」を設立し推進活動を始めた。さらに、政治をきちんと学びたいと思い、「市川房枝記念会女性と政治センター」に通い、地方自治を学んだ。そこで全国の現職女性議員・政治家志望の方々と出会い、地方議会の実態や女性議員たちの活動状況を知り、多くの学びと気づきを得た。これらの経験が議員となった今、大きな力となっており、活動のよりどころとなっている。
2回目の出馬より4年後、唯一の女性議員の退陣表明で、「今が出馬のチャンス。出馬すべき」の声をいただいた。3度の落選を考え迷ったが「誰かがやらねばならぬ。私がやらねば誰がやるのか」を自問自答し立候補を決意した。退陣した女性議員はじめ、思いがけず支援の輪が広がり、18人中7位での当選。ようやく市政への思いやクリーンな選挙が通じたと強く感じ、また、市民の意識変革が進んできたことが何よりうれしかった。
議会≒異次元の世界??
さて、いざ議会へ…。そこでまず感じたことは、「異次元の世界へ来てしまった」である。「議員同士で政策研究論議をし、政策提言・執行機関の監視・予算/決算の審査を議員全員でするもの」と思っていたが、これが全く違っていた。私が描いていた議会活動や資質と現実のあまりの乖離に戸惑いを感じた。
その後、多くの地方議会が同様な状況であることや、地方議会や議員力への警鐘が鳴らされていることを次第に知ることとなる。さらに、どぶ板活動が議員活動と勘違いしている議員(得票につながる)・市民意識(よく働く議員の評価)にも、小さなまちではその兼ね合いが悩ましいところでもある。
1期当選時、自治体職員から受けた「お手柔らかに…」や「職員や議員とうまくやった方がいいよ」などの言葉に違和感を持った。長年の住民活動・行政委員等での発言・行動から「一体何を追及してくるのか…」と内心恐れをなしていたのかもしれない。この言葉のお返しに、「執行機関へのチェック機能を果たしているとは思えない緊張感のない議会では、あなた方は少しも緊張せず楽でしょ」と問いかけた私に、当時の総務部長たちは苦笑いをしていた。
前市長の典型的な「長期政権のゆがみ政策」に対する監視発言へのやじは、質問がしづらいほどしつように続いた。同時に政策提言もしているのだが…。しかし、このような議会のあり方への疑問、やじや意地悪は、全国の女性議員の研修会では多くの同様経験が聞かれ、落ち込んだ心も少しは癒やされる。
大好評! 議会活動報告「みずなだより」
住民への情報共有として「議会活動報告」を発行している。不透明な市政・議会の変革のために、当選したら「女性の視点・市民の目線」で政治に関心を持っていただけるような分かりやすい内容の報告を必ず発行しようと思っていた。当選後、議会活動報告「みずなだより」を新聞折り込みで(1万1,000部)全戸配付を始めた。市民から「みずなだより楽しみにしています」など、好評を得ている。
ちなみに「みずな」は豊かな富士の湧水と雪の中で育てる当地特産の大変おいしい冬野菜「水掛け菜」の呼称。この報告の1コーナー「議会・行政不思議発見」では市民目線で議会・行政の不思議を分かりやすく掲載している。市民には評価されているが、議会では「けしからん」と何度もきつい追及をされたことがある。ストレスの原因だが、女性議員仲間の合い言葉「しなやかに、したたかに」で対応。
議会改革の仲間を得て
議会録画放映(CATV)への関心も高く、理解ある職員や多くの市民からの支援の声に信念を曲げず活動してきたが、個人の発言の限界も感じていた。
そこに2013年11月、改革派市長が誕生し、同時に市議補選で当選した同じ議会改革派3人と会派を結成し、同系会派と連携し自主研修・政策論議ができるようになった。不公正・不公平の疑念があった公共事業請負問題の解決のために、かねてから提言していた「議員政治倫理条例」が同志のおかげで策定小委員会委員長として草案策定にこぎ着けたことは大きく、ようやく積もった思いが解消されつつある。
さらに、予想しなかった副議長職に就き、多忙ではあるが、政策提言に直接関わる機会となり、本来理想としていた議員活動や議会改革ができつつある。トップの交代を機に市政全体の変革ができる重要な時期であると実感している。来年4月の改選時には全員当選し、さらに研修を重ね、議会改革・政策提言できる議会を目指そうと語り合っている。
議員の資質向上や市民の意識改革には、政治教育が不可欠である。毎年1度、都留文科大学のジェンダー研究論講座で、「政治とジェンダー」のテーマで女性議員と地方議会の現状について、外部講師として講義させていただく機会を得ている。受講後の学生アンケートから、講義が政治への関心のきっかけとなっていることを感じ、担当教授とともに政治家の生の声を聞く機会の重要性を実感している。