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2020.04.27 政策研究

第1回 登攀ルート

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之

 このたび、「議員のための自治体行政学」と銘打って、連載を開始することにした。主な読者は、自治体議員を想定している。これまで、本ウェブマガジンにおいて自治体議会・議員に関する連載「新・ギカイ解体新書」を連載してきた。自治体議会とはいかなる存在なのかを検討するものであった。しかし、自治体議員は、自治体行政を民主的に統制するための代表である。それゆえ、議会・議員のこと(=自分のこと)だけでなく、行政のこと(=相手のこと)も知るべきである。このような観点から、「議員のための自治体行政学」を始めようと思う。
 もっとも、自治体行政を知るべきは、自治体議員だけではない。まずもって、自治体の主人公である住民・民衆こそが知るべきであろう。また、自治体行政を担う首長も、行政職員も、自分のこととして知っておくべきであろう。その意味で、本連載は、必ずしも自治体議員だけを読者とするものではない。広く自治体行政に関心のある関係者に、読んでいただければと思う。

自治体行政へのアプローチ方法

 地方自治に接近するには、主に、法律学、経済学、政治学からのアプローチがある。
 法律学からのアプローチは、地方自治法学又は自治体法学ということになるが、主として行政法(公法)からのアプローチが普通である。自治体職員が法律を学ぶというときは、通常、行政法的な意味での地方自治法や関連法(憲法、地方公務員法、国家賠償法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、公職選挙法、地方税法、地方財政法、公営企業法、地方公共団体の財政の健全化に関する法律など)である。しかし、法律学には民事法・刑事法からのアプローチも重要である。自治体も法人として、様々な経済取引や債権債務関係に入るので、民事法的な知識も実は重要である。自治体職員は、民事法的なアプローチが弱いとしばしばいわれている。逆に、弁護士は行政法的なアプローチが弱いといわれている。
 経済学からのアプローチは、財政学(地方財政学・公共経済学)が基本となる。自治体は、企業のように市場セクター・営利セクターの存在ではなく、非営利・公益的に公権力を行使する政府セクターの存在である。自治体は経済活動をするとしても、その行動原理は営利企業と異なっているからである。しかし、同時に、自治体は企業のように経営体的な側面を持つ。効率的に組織を経営管理(マネジメント)しなければならない。さらに、自治体という法人の経営だけではなく、地域社会全体を視野に入れて、地域振興や地域経済活性化や地域持続性を目指す地域経営の側面を持つのである。
 政治学からのアプローチは、地方政治学・自治体政治学であり、古くは市政学と呼ばれていた。もっとも、日本の学界の伝統では、政治学は「天下国家」や世界・国際関係を論じるという気宇壮大な「大志」、「大望」を持つことが多かったので、地方自治や自治体を政治学の主流派が対象とすることは少なかった。そのため、結果的には、政治学の一分野である行政学が、地方自治論を同時に兼担してきたのである。行政学者である筆者が、行政というよりも、政治そのものである自治体議会を論じることも多いのは、こうした分業の伝統に従ったものである。つまり、地方自治論の枠内で、政治学と行政学の双方を含んでいることが普通である。
 しかし、国政では政治学と行政学は相対的に分離している。政治学は、首相・内閣・政権、国会、政党、選挙、世論、利益集団、マスメディアなどに主たる関心を集める。これに対して、行政学は、行政組織、官僚制・公務員制、行政職員、組織管理などに関心を集める。地方自治に対して行政学からアプローチするのが、自治体行政学である。本連載は、自治体に対して、広い意味では政治学から、狭い意味では行政学から、アプローチするものである。

金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学))

この記事の著者

金井利之(東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学))

東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。 東京都立大学助教授、オランダ国立ライデン大学社会科学部行政学科客員研究員、東京大学助教授を経て、06年より現職。 専門は自治体行政学・行政学。主な著書に『自治制度』(2008年度公共政策学会賞受賞)、『原発と自治体』(2013年度自治体学会賞受賞)等。

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