北海道栗山町議会での議会基本条例制定から10年。この間、700を超える数の議会基本条例が制定され、議会改革の取組が進んでいます。議会改革は今や第2ステージに突入したといわれる一方で、議会改革にこれから取り組むといった議会も全体の半数を数える状況です。取組が先行している議会も、これからの議会も、今後の議会改革をさらに進めていく上で、議会・議員を支える事務局職員の存在は不可欠です。栗山町議会で議会改革を裏から支えた、元議会事務局長の中尾修さん(東京財団研究員/早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員)にお話を伺いました。
議会基本条例制定の背景にあった、活発な議論をする風土
――栗山町は、全国に先駆けて議会改革をいち早く進め、議会基本条例を制定した自治体として有名になりました。こういった先進的な取組が実現できた背景は何だったのでしょうか。
私論ですが、これには栗山町の歴史的な経緯が関係していると思います。北海道はアメリカのようにいろいろな地域の人たちが入植してきたことにより開拓されてきた土地柄です。つまり、バックグラウンドを異にする人々の間でのルールの擦り合わせが必要で、その際に様々な議論がなされてきたということがあります。
そのような経緯に加え、栗山町は農業を基幹産業としながらも、商工業、サラリーマン勤労層とバランスのとれた構成にありました。一方、1次産業が主力産業である、あるいは、有名なメーカーの企業城下町であるといった、産業が一本化されているような自治体では、住民の大多数が同じ方向を向いており利害も一致しているため、調整も少ないのです。これが栗山町の場合には、様々な分野の利益代表が集まって、議会を形成していました。このため、議論をしないと物事が決まらないという状況にあったのが実態です。
これらが今でいう議会改革の要素である「議員間の自由討議」や「住民の参加」、そして結果としての議会基本条例を制定する土壌となったのだと考えています。
――中尾さんご自身のことをお聞きします。自治体に就職され、議会事務局でのお仕事に就かれるまでというのは、どういった内容のお仕事をされていたのですか?
採用されてからの2年間は、議会とは全く関係のない予防接種や成人病予防など保健関係の業務を担当していました。当時は、役所ではこんな仕事もするものなのかと驚きもありましたね。その後は、税務や健康保険関係、支所の業務を経験しました。
私が役場に入庁した頃は、議会が開かれる前の職員、特に管理職の緊張感は相当なものでしたよ。議員からどのような質問が出てくるのか、どこまで追及されるものかと。 議員の質問は、執行部職員を鍛えます。こういった首長と議会(議員)の緊張関係は、自治体運営にとって非常に健全だと感じますね。私自身は、昭和61年に議会事務局に異動となりました。
――議会事務局での仕事では、それまでの執行部での仕事と違いを感じるようなことはありましたか?
議会事務局では議事係長に就き、6年間仕事をしました。議事運営は当然ですが、出張の手配など議員の方のお世話をすることも多かったと思います。それまでの執行部での仕事とは全く違いました。ただ、それぞれの議員との信頼関係をつくるという意味でも、そういった事務局の裏方の仕事はとても大事と考え、熱心に取り組んだのを覚えています。
また、議員が24名おり(編集部注:現在は12名)、議員それぞれが大変個性豊かな方々でした。当時の地方議員というのは、良い意味でも悪い意味でも地域代表的な要素が強く、各地域の利益配分をどのように調整していくのかといった議論が多かったように思います。
こうして議会事務局に6年間勤務した後、9年間のインターバルがあり、その後また議会事務局に戻ることになりました。
――1回目の着任と2回目の着任とで議会事務局での仕事には変化がありましたか?
私自身の議会事務局での仕事に変化があったかというと、そこまでの大きな変化ということではなかったですが、やはり議会基本条例の検討・制定前と後では、いろいろな面で議会全体に大きな変化がありました。
議会基本条例ができるまでの議会は、どうしても執行部の追認機関という要素が強かったように思います。ある特定の議案について感情的な対立から首長とぶつかるようなことはまれにあっても、議案の修正をしたり、議会側から政策提案を積極的に行ったりというような雰囲気はなかったといえます。
それが、議会基本条例の制定後には、議会提案条例も出てくるようになりましたし、様々な変化がありました。例えば研修のことでいえば、それまでは系統議長会(編集部注:町村議会にとっては全国町村議会議長会、市議会にとっては全国市議会議長会、都道府県議会にとっては全国都道府県議長会)の研修を受けるだけだったところが、公的なもの、民間主催のもの含め様々な研修を受けて研さんを積むようになりました。
また、多くの自治体から栗山町への視察が増えました。以前は、県―町、県―市など、別系統の自治体がクロスして視察に行き来するようなことは全くなかったのですが、そういった状況が変わり、自治体の規模や市町村に関係なく、良いものを取り入れるといった風潮に変わりました。
あとは、民間シンクタンクや大学、学会などがこぞって地方議会を研究対象としてスポットライトを当て始めることになったのも、議会基本条例制定の影響によるものだと思いますね。
潮目が変わったきっかけは、地方分権改革と小泉行政改革だった
――栗山町議会にとって、そういった議会改革の方向に舵(かじ)を切っていく、潮目が変わった要因というのは何であったとお考えでしょうか?
大きくは2つあると考えています。ひとつは、地方分権改革により国と地方とが対等・協力の関係と位置付けられたこと。もうひとつは、小泉行政改革により官から民への流れが加速したことが挙げられます。地方交付税が大幅に減額され、こうした財政的なショックからも市町村合併が進みました。議会が国の施策と向き合わざるを得ない状況に置かれたということがいえると思います。取り組む姿勢がおのずと変わりました。
例えば、栗山町では平成20年に合併のための議会側説明会が、5回にわたって実施されました。このときは、執行側と議会側とが別々に説明会を開くような状況があったのです。一見すると違いが分からないように思えるかもしれませんが、二元代表制のもと積極的に合併を推進する執行側と合併推進・慎重の両方の住民の意見を聴こうとする議会がそれぞれ住民と向き合いました。当時、説明会に参加した住民の方からは、双方の意見が聴けて傾聴に値するものだったと評価をいただいたのが印象に残っています。議会の役割や意義を実感した出来事でもありました。
――議会や議員が、より活発に活動するようになっていったのですね。
そうです。しかし、活発に活動するようになったといっても、議員の質問・質疑が的外れでかみ合っていないものではまずいのです。町の台所事情が分かっていない中で将来の話を皆で議論することはできません。やはり長期行政計画や財政の分野についてはひととおり知っておかないと議論にはならない。その意味で、議論の土台となるような事項についてはきちんとご理解いただけるように、議長や議会運営委員長の指示により議会事務局としても腐心をしましたね。
当時の議長は、中長期の町の財政状況を全議員で検証し認識する特別委員会を設置することを提案しました。それまで行政側が当たり前のように行っていた守備範囲にどこまで議会が手を出すのか、正直なところ行政側も議会がそこまでやるのかと驚いたようです。
ただ、そのような取組があって、ようやく議会は住民の前に自信を持って出ることができるようになったといえます。
議会事務局はどのように改革にコミットできるのか
――議会改革においては、議会事務局の役割も大きかったのではないかと思うのですが。
当時、栗山町では議会事務局は3名体制でした。決して多い人員ではないのですが、議員向けに研修の機会を多く持てるようにしていました。時には、講師として財政課から人を呼んだりもしました。行政側の人は根拠のある数字を持ってきてくれるので、非常に精緻な情報が得られ勉強になるのです。
議会事務局の仕事で大事なことは、常にアンテナを高くして、地方自治の現場での様々な取組をしっかり集めて、必要に応じて議会に提示できるようにしておくことだと考えています。議会が判断するための材料を集めること、ともいえます。
実際のところ、栗山町議会では平成17年に宮城県の旧元吉町(現気仙沼町)に続いて議会報告会を行いました。すると、この報告会を制度として確立してほしいという意見が各会場の住民から出まして、そこでこの議会報告会を実施する条例をどのようにすべきかと考えていたときに、札幌市職員の渡辺三省氏が考えた議会基本条例要綱(試案)が『北海道自治研究』に掲載され、求めているものに非常にマッチするということで、栗山町の活動に合わせたものへと修正をし、平成18年に制定しました。
このように、各自治体や議会での取組をしっかり調査・収集し、議員が検討をするに当たって必要に応じて類似の先行事例の提示をするのも議会事務局の役割のひとつだと感じています。
栗山町での議会改革がだんだんと進み、議会が本来の役割をきちんと果たせるようになってきたことで、住民の議会を見る目も変化が生じてきました。議会も役所も、住民にとっては違いが分かりにくいものだと思いますが、それが変わっていきました。例えば、栗山町の住民にとって議会報告会はお祭りのような年中行事と同じものといった感覚が出てきて、報告会に出るのが当たり前になってきました。また住民からも積極的に提案がなされるようになりましたし、前述の合併の報告会にもたくさんの人が集まりました。この意味で、地方議会改革は結果的に住民自治を推し進めることにつながるのだと、強く感じます。
――なるほど。ところで、案件によって積極的な議員とそうでもない議員がいるような場合、特定の積極的な議員の方に向き合う時間が多くなりそうですが、そういうものなのでしょうか。
議会事務局が、議員に対してどのように情報を発信していくかということはとても重要で、まず全体に対して公平性を保って接していくことが求められると考えます。政治はきれいごとではなく権力闘争の場ですからね。議会事務局としてもどこまでコミットしていくべきなのかは難しいところです。
議会として最も重要な事項は情報伝達です。議員同士の間での情報伝達のスピードに差が生じるようなことは絶対に避けなければなりません。合議体の場においては、感情的な部分に左右されるような形で、伝えるべき情報に漏れがあったり一部の議員への情報伝達が遅くなったりするのは問題になります。政治的な対立や熱のある議論は大いになされるべきであり、その議論が成り立つよう、その前提条件として議員に伝える情報に違いがあってはいけないのです。この情報の伝達について、事務局職員は非常に神経を使うべきです。
議会と議会事務局こそが、車の両輪になれる
――事務局職員として、議会運営における議員のサポートなど、ご苦労はありましたか。
議会の運営には法律で規定されるようなルールはあまりないんですよ。地方自治法上にも何も規定はないので、あくまで前例の積み重ねによって成り立っている部分が大きい。いわば“文化”と表現した方がよいようなものです。各議会が、それぞれの文化を持ってやっているわけですが、同時に、文化を変えていくことだってあったっていいと思っています。
よく、首長と議会を車の両輪と表現しますが、そうではないと思います。首長と議会はやはり二元代表として緊張関係を持って対峙(たいじ)しなければならない。つまり、車の両輪のように同じ方向を向くわけにはいかないのです。一方、議員と議会事務局こそが両輪となる関係だと思います。議員には、そう、議員になろうというくらいなので、あふれるようなPASSION(情熱)がみなぎっている。そのような前に進みたいというエネルギーを発揮できるような体制を議会事務局側がサポートしていく関係が求められているのです。
――サポートの内容をもう少し伺ってもよいですか。
選挙で選ばれた議員と試験を受けて採用された職員との間には、やはり一定の壁が存在しています。両者がどこまで関わるかが問題なんですね。議案審議の過程で抜け漏れた論点はなかったかを事務局に確認するようなルールがあってもよいのかなと思います。審議(委員会)の前の論点整理や終わり際での議論の抜け漏れの確認などは、冷静に見られる議会事務局が担える部分でもありますね。
一方で、議会事務局の職員はやはり、選挙で選ばれた議員とは違います。表決権のある議員の持ち場で侵してはならない領域があることは確かです。議会事務局職員は、議会運営や議会改革をリードするような存在であってはならないと考えます。改革を進めるのは議員です。職員は、あくまでも議員が判断するための情報を出すような存在であるべきだと思います。
議会事務局で働くことは宝くじに当たるようなもの
――それでは、少し話題を変えますが、議会事務局の職員とはズバリどのような職種でしょうか。これまでのご経験の中で感じることを教えていただければと思います。
私はこの手の話の中ではいつもいうことなのですが、“議会事務局で働くことは宝くじに当たるようなもの”であると表現をしています。住民福祉の向上が行政職員としての最大の目的であるところ、まさにその部分にガッツリと関わって市民感覚で仕事ができる、議会はそんなところです。このような機会は、そう多くの職員には巡ってこないものなのです。だからこそ、議会事務局の職員には、議会に配置されたことに対して心意気を持って仕事に取り組んでほしいと思っています。
――議会はクリエイティブな仕事でしょうか。
役人はどうしても前例に縛られ、変化を好まない思考に陥ります。新しいことをするとその分の責任も伴うため、なかなか新しいことにチャレンジするような方向には向いていかないように思いますね。これに対して、議会基本条例が制定されて以降は特にですが、議会事務局は能動的に動き出してきたなと。いろいろと手さぐりでも新しいことに取り組んでいくことが重要です。
――議会改革が進む一方で、従来どおりの活動を続けているという議会も少なくないと思います。そんな議会の事務局職員に対してアドバイスをいただけますか。
議会改革が進み、また、ICT等の情報伝達技術も進み、以前に比べ情報がたくさん入るようになってきました。それまではなかなか分からなかった隣町の状況も見えてくるようになっています。こうしたことから、議会改革が進んでいないという議会の議員でも、感じているところは多いと私は思っています。議員自身も、これから様々な案件に取り組んでいかなければならないことを実感していると思います。ただし、どこからやっていいのか、迷う部分も多いのだと思います。そんなとき、議会事務局職員は先にお話ししたように、いろいろな情報を集めて議員に提示することですね。いろいろな選択肢が提示されることで、議会改革に向けてのハードルが乗り越えやすくなります。
また、人口減少が進んでいる中、必要に迫られている課題は増えています。大変なので手をつけたくないなという感覚には陥りますが、議会改革に取り組まないわけにはいかないという事実が突きつけられているのです。
人口減少時代、議会が果たすべきは合意形成の場としての役割
――人口減少は、やはり議会にも影響がありますか。
人口規模の縮小に伴い自治体は、長期的に見てインフラの整備・維持や行政サービスの縮小の判断を迫られることになります。限られた財政の中でできることはおのずと決まってくる一方、これまで提供してきたサービスをどう整理するのかといったところで、住民の不安・不平も出てくることになります。その際の合意形成において、自治体議会が果たすべき役割は非常に大きいです。もともと、議会は合意形成・利害調整の場ですからね。議会が議会らしいことをしなければならない時代になってきています。
何らかの判断を下すことによって住民には相応の負担を強いることもあるでしょう。そんなとき、その判断がどのようになされたものなのかについて、議会・議員は住民に対してきちんと説明ができなければなりません。議員も楽ではないと思いますね。
議会事務局としては、議員の定数が削減される状況にあっても議会力が低下しないよう、迫っている課題についての先行事例を視察・研究したり、必要なデータを収集したりすることに取り組まなければならないと思っています。
――少子高齢化もますます進むでしょうし、地方が抱える問題は切実だと感じますね。
そうですね。このような時代であるからこそ、議会が命がけで議論をして結論を導き出すことが重要で、その過程において住民自らもモノがいえるような状態であることが望ましい。まさに議会基本条例の制定はその点に意義があります。情報公開と透明性の確保により、それまでは執行部との間で取引をして進められてきたような物事の決定方法は通用しない、住民監視の中での討議と決定がなされる風土になってきたのです。このような議会運営は議員、そして行政職員を大いに鍛えます。また、同時に住民自治を醸成することにもつながっていくのです。
――最後に議会事務局職員に向けたメッセージをいただけますか。
議会事務局職員は議会運営において議員と両輪をなす働きが求められているのは先にお話ししたとおりです。議会事務局で働く自分は期間限定商品だと思ってください。市民目線で働ける機会や期間は大変貴重なものです。ぜひそれを有意義なものにしていただけるよう、前例にとらわれることなく仕事に全力で取り組むようにしていただければと思います。

