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2016.07.11 政策研究

第1回 「データ」と「理論」に基づく政策づくり

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早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員 米山知宏

1 はじめに

 政策をいかにつくっていくか、というのは古くて新しいテーマである。たとえば公共政策学が学問として宣言されたのは第二次世界大戦後からといわれるが(1)、情報化社会の進展など社会状況の変化に合わせて、今も自らのあるべき姿を模索し続けている。
 昨今の大きな動きは、公共政策においてデータを活用することの重要性が共通認識となってきたことである。データは「21世紀の石油」ともいわれるように、ビジネスでは富の源泉となっている。企業にとっては、いかに消費者のパーソナルデータを得るかということが非常に重要なテーマである。たとえば、スマホアプリを無料で使うことができるのも、それと引き換えに利用者のパーソナルデータが企業側に提供されているからであるが、企業からすれば、そこまでしてでも欲しいのが消費者に関するデータなのである。
 データの重要性は国や自治体でも同様である。地域の状況を適切に把握できていなければ、正しい政策を立案することはできない。行政はもちろんのこと、自治体の予算、条例、総合計画(2)の議決機関である地方議会においてもデータを活用することは今や不可欠であるし、そのことは、議会不信が高まる中で、議会の意思決定の正当性・正統性を獲得していくためにこそ重要なことである。
 そこで、本連載では、3回に分けて地方議会におけるデータ活用について考えてみたい。特に、地方創生を目的として国が2015年4月から提供しているRESAS(地域経済分析システム)の使い方を中心に、データを活用した政策立案について整理したい。第1回は理論編として、「政策とは何か」、「データとは何か」というところを入り口に、政策立案におけるデータ活用の意味について考えたい。

2 政策とは何か

 議会は、地方公共団体全体として質の高い政策が実行されるように政策立案や行政監視を行う存在であるが、そもそも「政策」とは何だろうか。まずは「政策」というものの特性について確認したい。

2.1 政策の3つの特性
 「政策」とは、一言でいえば「理想と現実の関係を繋げる手段」(3)であるが、その特性として、①目的―手段体系であること、②仮説であること、③客観的・中立的なものではなく、価値判断と政治的プロセスを通じてつくられるものであること、の3点を指摘できる。
 まず、政策が目的―手段体系であるということは、各種の政策を「関係」として捉える必要があるということである。政策は、一般的には「政策―施策―事務事業」の体系として捉えられるものであるが、たとえば施策は、政策という目的を達成するための手段であると同時に、事業を実施する目的でもある。データを活用して政策立案を行うということは、この「関係」をデータで考えていく必要があるということである。
 次に、政策とは、あくまでも「仮説」であることを認識する必要がある。つまり、目的―手段体系としての政策体系は、「こうすれば、ああなるであろう」という仮説群であり、「ああなる」ことが約束されたものではないのである。いわゆる政策評価(検証)が求められるのは、行政の説明責任という側面もあるが、何より政策の仮説性によるのである。そして、政策が「こうすれば、ああなるであろう」という仮説である以上、その検証は、ある単一のKPI(重要業績評価指標)が想定目標を達成したかどうかということだけではなく、目的―手段の関係において「手段の妥当性」が検証されなければならない。
 最後に、政策は決して客観的・中立的に導かれるものではなく、価値判断と政治的プロセスを通じてつくられるものだということである。確かに、データを活用した政策立案は、「客観的・中立的な政策意思決定」(4)と指摘されるように、価値判断と政治性を可能な限り排除することを志向してはいるものの、実際は価値判断や政治性とは無関係ではいられない。

2.2 正しい政策とは何か
 政策は当然のことながら、各地域において「正しい政策」となることを企図して組み立てられるわけであるが、その「正しさ」には「正当性」と「正統性」がある。これらは、データの活用の仕方を考える上で欠かせない視点であるので、簡単に述べておきたい。
 「正当性」と「正統性」という2種類の正しさを理解するために、ここでは、大屋雄裕氏が例示する行政訴訟のケースを引用したい(5)。こんな状況を想像してほしい。敗訴判決を受けた原告側弁護士が、裁判所の決定を「不当」であると考えているような状況である。敗訴した原告側弁護士は、裁判所の決定を「正しくない」と考えているが、そこには「否定されている『正しさ』と否定されていない『正しさ』」がある。前者は「この事例において納得のいく結論を与えているかどうか」という問題(=「正当性:justness」)であるが、後者は「具体的な決定が『正しい』権限に由来しているのか、『正しい』手続きによって形成されたか」という問題(=「正統性:legitimacy」)である。原告側が訴訟を起こしたということは裁判所の権威を認めているということであるが、その点を踏まえれば、今回の決定は原告側から見れば「正当ではない(納得のいく結論ではない)が、正統(正しい権限・手続きによって行われたものであり、その結論は認めざるをえないもの)である」ということになる。
 この2つの正しさについては政策についてもあてはまる。理想的には「正当」かつ「正統」な政策が望ましいが、場合によっては「正統であるが、正当ではない」もしくは「正当であるが、正統ではない」というケースが起こりうる。政策を考えるにあたっては、この2つの正しさを分けて認識する必要がある。

3 政策プロセス

 以上の議論を踏まえれば、政策立案は「正当性ある目的―手段体系(仮説群)を正統性ある形で構築することを目的としたプロセス」といえるが、政策立案も含めた一連の政策プロセスを示すと図1のようになる。

図1 政策プロセス図1 政策プロセス

 この図を示したのは、各プロセスによってデータを見る視点、活用方法が異なってくるからである。たとえば「①課題認識」であれば、データは経年や他地域との比較などを通じて確認され、課題として認識されていく。また「②政策立案」では、政策が「こうすれば、ああなるであろう」という仮説である以上、あるデータ(政策)とあるデータ(結果)の関係性・因果関係を確認することが必要になる。そして、最後の「④評価」では、目標値を達成しているかどうかをデータで確認するとともに、政策と結果の関係性・因果関係から仮説の正しさを検証することになる。このように、データの活用にあたっては、漠然とデータを扱うのではなく、目的に合わせた使い方をしなければならない。以上が「正当性」に関わる視点である。
 一方の「正統性」を獲得するためにはどうすればよいか。そこにはいくつかの視点がある。1つ目は、政策が立案されるプロセスを公開し、「透明性を確保」していくことである。2つ目は、政策立案プロセスへの市民参加を行うことであるが、パブリックコメントを通じた意見提出のようなものだけでなく、「意思決定に必要なデータ・情報づくりへの関わり(例:スマホアプリを通じた地域課題の可視化等)」や、それこそRESASを活用した政策ワークショップや政策コンテストのようなものもある。様々な方法を用いて、市民と議会とのコミュニケーション回路を築いていく必要がある。そして、何より、議会・議員自身がデータを積極的に活用して、可能な限り客観的な政策立案を行っていくことが重要である。議会・議員が積極的にデータを活用するというスタンスは、政策の正しさ(正当性)以前に、政策決定プロセスの正統性を高めるものである。

4 データとは何か

 次に、政策をつくる上での素材・資源となる「データ」について考えてみたい。そもそも「データ」とは何だろうか。たとえば、国勢調査などの統計はデータであるように思われるが、アンケート結果はデータなのだろうか。アンケート結果の生データはその名前のとおりデータのように感じられるが、では、自由回答の文章がデータかといわれると、それはデータというより情報といった方が正しいようにも思える。データと情報は何が違うのだろうか。ここで参考になるのが、G. Bellingerによって提唱された「データ・情報・知識・知恵」の階層モデル(DIKWモデル)である(6)

図2 DIKWモデル図2 DIKWモデル

 G. Bellingerが提示するこのDIKWモデルは、「データ」と、それを抽象化したものとしての「情報」や「知識」との関係性をモデル化したものであるが、そのモデルでは、〈データ:data〉は「それ自体では意味を持たないシンボル」であって、「データを集合にして意味づけしたもの」である〈情報:information〉とは区別される。さらに、その〈情報:information〉も、「情報の集合を構造化、または他の情報と関連付けることで得られる事実」である〈知識:knowledge〉や、「知識を基に『なぜ』を考えることで得られる、出来事を判断するための価値や理由」である〈知恵:wisdom〉とも区別されている(7)
 さて、しばしば「データを活用した政策立案」という言い方がなされるが、政策立案で活用すべきものは、上記の図2における〈データ〉だけであろうか。そうではないだろう。「データを活用した政策立案」が意味するものは、本来「正しい情報や知識を活用した政策立案」ということであって、それは〈データ〉だけを活用するというものではないはずである。公共政策においても、これまでの研究から、ある程度正しいと判断される「理論」が存在している(例1:人口密度と生産性との相関関係、例2:基盤産業(域外市場産業)と非基盤産業(域内市場産業)との就業者数の比率)。もちろん、理論がその地域に適用可能かどうかは検証されるべきであるが、このような理論を政策立案に活用していくことも、〈データ〉の活用と同様に重要である。そもそも、〈データ〉というものは、解釈・分析を通して、抽象化・理論化されなければ、実際に適用できる知にはならないものでもある。
 以降では、「データ」という単語を使用する場合には図2における〈データ〉を意味するものとして、〈知識〉や〈知恵〉などの抽象的・理論的な情報とは分けて整理したい。

5 データ・情報はどこに?

 それでは、政策立案で使うべきデータや情報にはどのようなものがあるだろうか。以下では代表的なものについて紹介したい。

5.1 RESAS(地域経済分析システム)
 まずはRESASである。RESASは、国が地方創生事業の一環で提供しているアプリケーションで、人口・産業・観光などに関するデータを地図やグラフで確認することができる。名称に「地域経済分析」とあるように、特に「地域経済」に関するデータが充実しており、地域全体としてのお金の流れ、産業の強み・弱みなどを簡単に把握することができる。その意味では、RESASは、「データ」を提供するものであるとともに、「情報」や「知識」なども提供するものであるといえる。

図3 RESASで表示できるマップの例(上図は流動人口についてのもの)図3 RESASで表示できるマップの例(上図は流動人口についてのもの)

5.2 jSTATMAP(地図による小地域分析)
 jSTATMAPは、市区町村を細分化した小地域(町丁目)を単位に統計データを地図上に重ね合わせて表示するアプリケーションである。機能的には、RESASに類似したものであるが、より詳細な地域を対象に国勢調査や経済センサス等のデータを確認することができるのが特徴である。RESASで様々なデータを広範囲に把握しながらも、小地域を対象に詳細な分析をしたい場合にはjSTATMAPを使うことで、補完的な分析が可能である。なお、同様のツールを自治体が公開するケースもある(8)

5.3 地域の産業・雇用創造チャート
 地域の産業・雇用創造チャートは、当該地域のある産業が「基盤産業(地域の外から稼いでいる産業)」かどうかを把握することができるチャートである。横軸に「稼ぐ力」(=基盤産業かどうか)を、縦軸に「雇用力」(=従業者数の割合)をとり、その2軸で各産業の特性を明らかにするものである。地域の人口を維持するためには、地域の外から稼ぐことができる「基盤産業」の労働者数の維持が不可欠であると指摘されており(9)、地方創生を考えていく上では欠かせない情報である。

図4 地域の産業・雇用創造チャート図4 地域の産業・雇用創造チャート

5.4 e-Stat(政府統計の総合窓口)
 e-Statは、政府統計のポータルサイトである。国勢調査をはじめとした様々な分野の統計データを確認することができる。前述のRESASは国勢調査、経済センサス、商業統計、農林業センサスなどのデータを活用してマップやグラフを提供しているが、その元データやより詳細なデータはe-Statから確認することができる。

5.5 オープンデータポータルサイト
 オープンデータとは、「機械判読に適したデータ形式で、二次利用が可能な利用ルールで公開されたデータ」である。日本でも、「電子行政オープンデータ戦略」が平成24年に策定され、オープンデータに関する取組が進められている。オープンデータポータルサイトは、オープンデータを公開するためのサイトで、国及び自治体で設置されている(10)。たとえば、福井県の鯖江市は「データシティ鯖江ポータルサイト」で様々なデータを公開しているが、先ほどのe-Statが公開しているような統計データ以外に、避難所などの位置情報を公開していることが特徴的である。位置情報などの統計以外のデータも、政策を具体的に考えていく上では今や不可欠のものである。

図5 国のデータカタログサイト図5 国のデータカタログサイト

6 第1回のまとめ

 以上、連載の第1回として「データを活用した政策立案」というものについて検討してきた。ごく簡単にまとめれば、政策立案は「正当性ある目的―手段体系(仮説群)を正統性ある形で構築することを目的としたプロセス」であるが、重要なのは、「適切な情報」を「適切なコストの範囲」で活用していくことである。データのみならず、抽象化された理論も政策を立案する上で大きなヒントになるものであり、「データから理論をつくる」とともに「理論をデータで検証していく」という「データ」と「理論」の相互循環プロセスの中で政策は立案されなければならない。本連載のタイトルを「『データ』と『理論』に基づく政策づくり」としているのは、そのためである。次回は、RESASを題材に「データ」と「理論」を活用した政策立案について考えたい。


(1) 秋吉貴雄=伊藤修一郎=北山俊哉『公共政策学の基礎』有斐閣(2010年)ⅰ頁。
(2) 総合計画条例で、議会の議決事件として定められている場合。
(3) 宮脇淳「『公共政策とは何か』―(1)政策とは何か」PHP政策研究レポートVol.8 No.91(2005年)2頁。
(4) まち・ひと・しごと創生本部「RESAS(地域経済分析システム)とは」(2015年4月21日)9頁(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/resas/pdf/h27-10-13-what-resas.pdf)。
(5) 大屋雄裕「正当性と正統性」SYNODOS(2011年)(http://synodos.jp/politics/1645)。
(6) G. Bellinger, Data, Information, Knowledge, and Wisdom(2004).
(7) 三菱総合研究所「消費データの戦略的活用の促進に関する調査報告書」(2014年3月)54頁。
(8) 横浜市統計GISなど。
(9) 中村良平「地域産業構造の見方、捉え方」(「http://www.stat.go.jp/info/kouhou/chiiki/pdf/siryou.pdf)。
(10) なお、自治体でオープンデータを公開しているのは、http://fukuno.jig.jp/2013/opendatamapによれば200都市を超えている(2016年6月26日時点)。

米山知宏(早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員)

この記事の著者

米山知宏(早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員)

早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員。東京工業大学大学院社会工学専攻修了。株式会社三菱総合研究所、東京大学公共政策大学院(客員研究員)を経て現職。日本公共政策学会会員。関心は、オープンガバメント、市民参加、公共政策。
e-mail:kedamatti@gmail.com
Facebook:tomohiro.yoneyama.71

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