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2016.11.10 仕事術

第4回 「専門知」と「実践知」の相互循環プロセスを通じて、政策の質を高めよう―「議会・行政主導の協働」から「民間主導の協働」へ―

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早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員 米山知宏

1 はじめに

 データを活用した科学的な政策立案をいかに実現するか、という問題意識は昨今に始まったものではない。地方自治体においても、1970年代には「庁内での計画策定や政策形成等の意思決定支援のためのコンピュータ・システム(PIAS)=Planning Information Analysis System」が検討されていたが(1)、それは今でもなお、検討すべき課題として存在し続けている。昨今のオープンデータ・ビッグデータ・統計データ、そしてそれらの各種データをもとにした「RESAS」などのアプリケーションが話題になっていることがその証左であるが、現在の動きと1970年代の動きには決定的な違いがある。従来の政策立案は行政内部におけるデータ活用が議論されていたのであるが、現在は、政策に関するデータやアプリケーションが行政以外の民間・市民に対してもオープンになり、民間が政策立案に関わりうる可能性が高まってきたのである。
 政策に関するデータやアプリケーションなどの「政策素材」が議会や行政の中で独占するものでなくなったということは、政策立案において議会や行政が意識すべきことが連載の第2回・第3回で整理したような「データの扱い方」だけではなくなる。「データの扱い方」に加えて、議会の最終的な意思決定を含む政策立案プロセス全体の質を高めていくために、市民や行政との関係構築も含めて、議会はどう振る舞うべきかということをも考える必要がある。つまり、政策の「科学性」のみならず、政策の「政治性」の質が改めて問われているのである。
 その観点で重要となるのが、「Open Government(オープンガバメント)」や「Open Policy Making(オープンポリシーメイキング)」などの市民協働型の政策立案を志向する概念である。連載の最終回では、これら市民協働型の政策立案の意義と、そこにおける議会の役割について検討したい。結論を先に述べるならば、政策の質を高めるためには「政策や政策立案に関する知としての『専門知』」と「協働や政治の知としての『実践知』」の相互循環プロセスが必要であり、そのためには、「議会・行政主導の協働」から「民間主導の協働」へ転換していく必要があるということである。

2 変化する市民参加・協働の形

 地方自治体において、市民参加や協働に対する認識は一見高まってきたかのように見える。NPO法人公共政策研究所によれば、市民参加や自治の質の向上を目的とした条例である市民参加条例や自治基本条例を策定している自治体は352自治体(2016年10月時点)となり(2)、また、議会への市民参加などについて規定している議会基本条例は、その2倍程度の議会で制定されている(3)。しかしながら、それらに対しては「市民参加条例が十分に機能していない」、「市民参加という形は確保されているが、その中身が形骸化している」(4)という指摘に代表されるように、理念と実態の乖離(かいり)が指摘されることも少なくない。これらは結局、自治体(議会・行政)と住民との関係性が成熟しておらず、自治体と市民がイメージする「参加」、「協働」というものにギャップがあることの表れである。自治体と市民とが信頼関係を構築していくためには、多様なコミュニケーション回路を構築し、結論ありきの意思決定、形式的な参加・協働をしないこと、つまり良い意味で関係性・コミュニケーション形態を「ファジー(曖昧さ・余白がある状態)」にしていく必要があるが、昨今提唱されている「Open Government」、「Open Policy Making」はそれを志向しているものである。

2.1 Open Government
 Open Governmentとは、2009年にアメリカのオバマ大統領が提唱した概念である。それは、テクノロジーを積極的に活用して民主主義の質を高めることを目的としたものであり、以下(表1)の事項がオバマのOpen Governmentの3原則として知られているものである。しかし、これら3つの概念は決して新しいものではなく、透明性・参加・協働の重要性は従来の市民参加論においても指摘されていたことである。この3原則で特徴的なのは、これらの原則を実現していく上で「テクノロジー」の活用が強調されたことである。そのことは、すでに日本においても多くの事例が見られるように、透明性の確保や参加・協働を促すものとしての「オープンデータ」、「アプリケーション」(ウェブやスマートフォン)の普及につながっている。

表1 オバマのOpen Governmentの3原則表1 オバマのOpen Governmentの3原則

2.2 Open Policy Making
 一方のOpen Policy Makingは、イギリス政府が提唱している政策立案に関する概念であるが、その原則として以下(表2)の3つを定義している(5)

表2 Open Policy Makingの3原則表2 Open Policy Makingの3原則

 つまり、政府と市民との協働的な関係により、データ・エビデンス・テクノロジーを活用した政策立案を行うこと、そして、立案された政策は迅速にテストと改善を行い、複雑で変化の速い市民ニーズに対応できるようにすること、というものである。
 では、以上の原則を条件とする政策立案を行っていくために、どのような人材が求められるのだろうか。イギリス政府は、上記の3原則とともに、Open Policy Makingを行う人材の条件として以下の7つを挙げている。

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米山知宏(早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員)

この記事の著者

米山知宏(早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員)

早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員。東京工業大学大学院社会工学専攻修了。株式会社三菱総合研究所、東京大学公共政策大学院(客員研究員)を経て現職。日本公共政策学会会員。関心は、オープンガバメント、市民参加、公共政策。
e-mail:kedamatti@gmail.com
Facebook:tomohiro.yoneyama.71

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