山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭
2016年3月16日、第31次地方制度調査会の答申(「人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に関する答申」)が出ました。地方議会制度や監査委員制度、従来の議会改革との関連や地方自治法の今後の改正動向等につき、江藤俊昭山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授にご寄稿いただきました。2回に分けて掲載します。
目次
(上)
1 31次地制調答申をめぐる評価
2 諮問と答申の構図
3 答申に含まれている議会改革の到達点Ⅰ
――三議長会からの提案に関する答申の制度改革――
(下)
4 答申に含まれている議会改革の到達点Ⅱ
5 議会と監査委員制度改革
6 地方制度調査会のもう一歩
4 答申に含まれている議会改革の到達点Ⅱ
(1)議会の位置づけの低さ
議会の位置づけは、すぐ後に指摘するように議会改革の到達点を踏まえつつも、従来の答申よりも明確ではないというよりも低い。26次、29次地制調答申においてそれぞれ明記されていた「住民自治の根幹」としての議会という表現はどこにも見られない。
また、住民自治の構図(議会の位置)の曖昧さもある。第3章の「第3 適切な役割分担によるガバナンス」の論述順は、首長、監査委員等、議会、住民となっている。自治法の構成順序(住民、議会、首長、監査委員)と異なることを明記しておきたい。自治法では、住民や議会が中核となっている。
このことと関連して、議会の役割(機能)について明確にされていない。たしかに、「人口減少社会において増大する合意形成が困難な課題について民主的に合意形成を進めていく上で、議決による団体意思の決定機能をはじめとして、監視機能や政策形成機能等を担う議会の役割は重要である」と、団体意思の決定機能、監視機能だけではなく政策形成機能を担うことを明示している。「議会は、多様な民意を反映しつつ、団体意思の決定を行う機能と、執行機関の監視を行う機能を担っている」(29次地制調答申)よりも一歩進めている(29次地制調答申でも、議会事務局の充実にあたって「議会の政策形成機能や監視機能を補佐する体制」という指摘はある)。しかし、すぐその後の結論部分では「団体意思を決定し、執行機関を監視する役割等を担う議会が……」となり、政策形成機能は省みられなくなる。
また、答申では内部統制が重要なテーマである。「内部統制体制の整備及び運用の責任の所在」を明確にすることも重要である。そこで、「長と議会の二元代表制の下において、地方公共団体の事務を適正に執行する義務と責任は、基本的に事務の管理執行権を有する長にあることから、内部統制体制を整備及び運用する権限と責任は長にあると考えるべきである」と結論づけられている。執行する義務と責任は首長にあるからといって、なぜ「内部統制体制を整備及び運用する権限と責任」が首長にあることになるのであろうか。たしかに、その「運用する権限と責任」は首長にあるといってもよい。しかし、「内部統制体制の整備」まで首長の権限と責任があるということにはだいぶ距離がある。ちなみに、執行機関において首長の直近以下の内部組織およびその分掌する事務はそもそも条例で定めること(自治法158①)になっていることと、この表現は矛盾していないのだろうか。なお、後述するように、31次地制調答申では議選の監査委員制度の選択制が提起されている。これは運用ではなく整備にあたる。条例で定めることになるが、議会が責任を持つ事項である。
以上のような議会の役割(機能)を考慮すれば、「住民自治の根幹」からの逸脱とまではいえないまでも評価・位置づけの揺らぎが生じている。監査制度や議会制度が主として答申内容に盛り込まれていた29次地制調でも総会が開催される2回前の専門小委員会では、「今後の地方行政体制のあり方に関する答申(案)」となっていた(総会では「今後の基礎自治体及び監査・議会制度のあり方に関する答申」となっている)。議会は断じて行政体制ではない。その観点からすれば、31次地制調答申は、議会を「ガバナンスのあり方」の中で議論していることは順当である。とはいえ、ここで指摘したように、行政主導が強調されていて、議会の役割・位置づけの軽視の傾向は見られる。