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2016.01.15 政策研究

大阪、京都も森林環境税導入〜37府県、税収は300億円~地方自治体に定着、国新税と対立も

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一般社団法人共同通信社編集委員兼論説委員 諏訪雄三

 大阪府議会で2015年10月27日、「森林の有する公益的機能を維持増進するための環境の整備に係る個人の府民税の税率の特例に関する条例」が成立した。いわゆる森林環境税のことだ。これに続き京都府でも12月18日、「豊かな森を育てる府民税条例」が成立している。いずれも4月からスタートする。
 2府を合わせると全国計37府県が導入したことになる。税収額は見込みで年間で計300億円程度となる。高知県が最初に導入したのが2003年4月。5年ごとに特例措置を見直しているが、今まで廃止した自治体はない。財政難の中、国の制度にない事業を自らの判断でできる使い勝手の良い独自財源として定着している。
 一方、2016年度与党税制大綱では「都市・地方を通じて国民に等しく負担を求め、市町村による継続的かつ安定的な森林整備の財源に充てる森林環境税などの検討」が盛りこまれた。森林環境税が国主導で新たにつくられれば、住民負担が増えることになる。自治体のアイデアを模倣した上に、住民税に上乗せするような徴収方法を採用すれば地方自治の上からも問題で自治体側の反対も必至だ。新しく導入した大阪府を中心に森林環境税を考える。

緊急性強調する大阪府

 大阪府での議論は2013年12月に「森林の保全及び都市の緑化の推進に関する調査検討会議」を設置してスタート、2014年9月に中間取りまとめが出された。
 その中では「緊急かつ集中的に実施すべき新たな事業で、その受益が広く府民に提供されるもの」という基本的な考え方に基づき、①自然災害から府民の暮らしを守る、②健全な森林を次世代につなぐ、③緑の充実により魅力ある大阪を創出する都市緑化の充実―という3つの柱があった。
 さらに新税について「財政難の状況で新たな対策の財源を安定的に確保するという観点、新たな対策の受益が広く府民に提供され府民全体で負担を分かちあうとの観点から必要」と結論付けている。
 事業規模は5年間で計100億円を想定、必要な財源としては個人府民税均等割の超過額として税額は500円相当となっていた。その後、大阪府の行政側で議論した結果、「緊急性の高いものに絞る。復興増税もあり府民の負担を減らす」という観点から、③の都市緑化が省かれ、事業も4年間に絞り込み税額を300円にする形とした条例案が府議会に提出された経緯がある。
 このため都市緑化については府議会の環境農林水産常任委員会の付帯決議で「ヒートアイランド現象対策としての都市緑化施策については、森林環境税以外の財源により取組を進める」とされた。
 成立した大阪府の森林環境税条例によると、課税の対象は個人だけで、府民税均等割の超過として税額は年間300円、納税義務者380万人として、4年間で45億円の税収を想定する。
 その狙いを大阪府は「集中豪雨、ゲリラ豪雨が増えているが、予算が減っていることもあり、森林整備がないがしろになっている。放っておくと災害が起きる恐れがある。自然災害から府民の暮らしを守る、健全な森林を次世代へつなぐために必要な事業を進めるためだ」と説明する。
 大阪府の森林関係予算は2002年度の32億円から2012年度は12億円と4割にも満たない。右肩下がりとなっている。この予算削減の影響で山地災害危険地区1,355地区のうち約6割が未着手のままだ。
 一方、1時間降水量50ミリメートル以上の年間発生回数は、昭和の時代は平均2.4回だったのに対し、平成に入ると6.5回にもなっている。2014年8月には台風11号の豪雨によって倒木や土砂が流出、国道423号が一時通行止めになる事態も起きた。地球温暖化の影響と見れば、今後もこの傾向が続くとみるのが妥当だろう。
 このため「緊急的かつ集中的に実施する」として、①の自然災害の対策は30億円(現行予算規模年6億円)を充てる。このうち20億円は山地災害危険地区3万2,188ヘクタールの中から渓流が急こう配で土石流が発生した場合、被害が発生する恐れのある30カ所(750ヘクタール)を選び予防的な対策を実施。残り10億円は、主要道路沿いにある倒木対策として国道などの20路線の周辺の森林を既にピックアップしている。竹林の繁茂、ナラの木が枯れる被害を防止するための予防伐採など里山対策もある。
 ②の森林づくりの事業規模は15億円(現行予算年1億円)で、人工林1万9,853ヘクタールの中から集約化によって一体的な森林経営が見込める34地区(4,800ヘクタール)を選び、20年間の管理協定を林業事業者と結んで基幹的な作業道の整備、間伐材の利用促進など進める予定だ。
 5年でなく4年という中途半端な期間になったのは「必要な事業量から期間を割り出してのことだ。危険な地域の整備を4年間で終わらせるという意思表示だ。府民に見える形に限定している」と説明。森林環境税で進めた事業の評価のためには府森林環境整備事業評価審議会を設置するとした。
 導入が36番目になったことについては「森林環境税はもともと水源税の議論から出ていた。大阪府の多くの地域は琵琶湖、淀川の水に頼っている。水源税の必要性は乏しく住民の理解を得られないと判断していた。近年のゲリラ豪雨など防災面に課題が出てきたことが最大の理由だ」と説明している。
 4年後も継続するかどうかは「あくまで森林環境税の効果を評価し、ほかに緊急対策が必要な地域が出てくれば」と説明するが、他の自治体の動向や大阪府の財政状況を考えれば、1期で終わることはないだろう。

この記事の著者

諏訪雄三(共同通信社編集委員兼論説委員)

一般社団法人共同通信社編集委員兼論説委員。 1962年兵庫県明石市生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業。1984年に共同通信社に入社。北海道、大阪、霞が関(国土交通省、環境省等)担当、本社内政部等を経て2011年から現職。著書に『アメリカは環境に優しいのか』(新評論、1996年)、『増補版 日本は環境に優しいのか』(新評論、1998年)、『地球温暖化防止をめぐる法と政策』(共著、有斐閣、1999年)、『20世紀・未来への記憶』(共同通信社編、共著、洋泉社、1999年)、『公共事業を考える』(新評論、2001年)、『道路公団民営化を嗤う』(新評論、2004年)、『地方創生を考える 偽薬効果に終わらせないために』(新評論、2015年9月発売)など。

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