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2015.12.25 政策研究

自治体の公共調達制度改革と公契約条例の意義

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かながわ政策法務研究会 亀井覚
水戸川慶太(文責)

1 なぜ公契約条例を取り上げるのか

 公契約条例(狭義)とは、発注者である地方自治体が賃金の支払状況を尺度として公共サービスを請け負うにふさわしい事業者を選定し(賃金条項)、契約自由の原則の下、従事労働者の処遇を維持・改善することを契約上の義務と位置付けるものである(上林2015)。2015年1月までにこうした賃金条項を含めた公契約条例は12の市区で制定されている(上林2015)。公契約条例は、民間委託などの公務の外部化が進む一方で、入札価格の下落が続き「官製ワーキングプア」といわれる事態が続いてきたことを背景に、地域の課題や要求に対応してつくられてきたのは周知のとおりである。
 公契約条例の制定に当たり、様々な疑問、異論、批判があるのも事実である。そのうちのひとつは、賃金条項を含めた公契約条例を実際に運用した場合、下請企業の従業員までを含めて決められた以上の賃金などの支払について、実効的な履行確認が果たしてできるのかという疑問である。こうした運用に当たっての疑問は、政治的にも障壁の高い公契約条例の運用に膨大な手間をかけるより、公契約に関する既存の契約手法の有効な活用を図るのが先ではないか、との議論につながっている(1)
 しかし、筆者らは、こうした賛否の二項対立ではなく、これら既存の制度改革を公契約条例にも生かすべく、公契約条例について検討したい。建築業界においては重層下請構造と一般にいわれているが、既存の公契約の手法である最低制限価格制度を適用したとしても、下請企業への「さや抜き」への直接的な対応ができない。そして、自治体において指定管理者制度やPPP(公民連携)、PFIなどの活用が進む中で、下請事業者も含めた労働者の処遇を視野に入れた公契約条例の意義はますます重要となると筆者らは考えているからである。また、総合評価方式や最低制限価格制度などの導入についても、一般競争入札の厳格な適用が、価格競争、ダンピング発注に至ったことへの反省に基づき、公契約の適正化のために行われている。公契約条例は、こうした一連の公契約の制度改革と比較的に論じるのではなく、むしろこれまでの公契約改革でつくられた諸制度と補完し合うものと考える。
 本稿では、賃金水準の決定や、賃金条項などへの履行確認といった、公契約条例の課題について、地域の労働組合や社会保険労務士などの専門家を活用している事例などを参考に、適正な公契約を図るための条例化について議論をする。

2 公契約の概要

 公契約とは、公共工事や委託業務、補助事業(補助金による事業)などにかかわって、国や自治体が民間企業との間で結ぶ契約のことである。
 公契約は、少ない費用で(公費の使用)品質を確保(成果物の質(+社会的視点))することが求められている(地方自治法(「自治法」)2条14項)。そして、最も低い価格を提示した者と契約を締結する一般競争入札が原則であり、指名競争入札や随意契約は、自治体が行う公契約では例外と位置付けられている(自治法234条)。しかし、実際の自治体での公契約では随意契約や指名競争入札が多用されて談合を生んでいるとの批判を受け、一般競争入札の原則の厳格な適用を図る入札改革が図られた。これらは「小さな政府」、「規制改革」の一環として、公共サービスのアウトソーシングや市場化(民間委託・指定管理者制度の導入など)とともに進められた。こうした価格競争を厳格に適用する入札改革は、公契約により働く労働者の低賃金化や公共サービスの質の低下を招いたと批判された(2)
 入札改革が労働者の低賃金化や公共サービスの質の低下を招いたとの批判に対しては、むしろ、可視化されたルールにより公契約の適正化を図ることが重要である。まともな賃金・労働条件を確保することが「良い仕事」の条件となるからである。
 総合評価方式とは、「その性質又は目的から前項の規定により難い契約」において「価格及びその他の条件が国にとつて最も有利なもの」を契約相手に選定する手法である(会計法29条の6第2項)。価格以外の要素を加味したことにより、品質の確保が可能になる。しかし、事務処理に時間と手間がかかる。さらに、価格以外の要素の評価の客観性や、要素のウエイト付けなど、発注者の恣意が働きうる。
 また、公共調達を通じて政策誘導を図る「政策入札」とは、他の政策目的を実現するために公共調達を活用する考え方である。政策目的の実現に資する一定の状態や貢献度合いを競争参加資格の要件や落札者決定の基準にするものである。武藤(2006)は、政策入札としての総合評価方式に盛り込む社会的価値の例として、障がい者雇用、グリーン調達、男女共同参画、公正労働を挙げている。「政策入札」は、誘導として非権力的な手法で、より望ましい状態を実現しうるが、公共調達的手続は費用対効果の算出が困難な政策の実現手段には適さず、政策誘導は別の手法により行うべき、との批判もある。
 最低制限価格制度は、予定価格から一定割合以下の入札金額は、適正な品質を確保できないおそれがあるため無効とするものである(3)。予定価格を大幅に下回る落札者に対しては、落札者が当該事業を遂行できる能力があるかを測る低入札価格調査制度が行われるが、調査により「品質が確保できない」として契約をしないケースはめったにないと思われる。他方で、当該調査による工期への影響も大きい。そうしたことから導入されたのが最低制限価格制度である。現在、神奈川県では、公契約の検討を踏まえて、積算手法などを見直し、最低制限価格の適用範囲を広げる対応をしている。他方で、最低制限価格制度では、公共工事設計労務単価の利用によりある程度予定価格が予測できることから、最低制限価格付近に札が集中し「くじ引き」が多発する(鈴木2013)。
 公契約をめぐる上記の問題に対し、国ではダンピング発注の防止や公共サービスの質の確保を図るための取組を行っている。
 2009年に「公共サービス基本法」が施行され、国や自治体は公契約にかかわる労働者の「適正な労働条件」の整備を図ることとされた。そして2014年には、ダンピング防止、建設業の担い手確保のため、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(「適正化法」)、公共工事の品質確保の促進に関する法律(「品確法」)が改正された。
 これらは、公契約の適正化を図るための手法として2004年に総合評価方式や低入札価格調査制度、最低制限価格制度などが定められたものの、建設業界をはじめとした雇用劣化の進行を止めるには至らなかったことへの反省に立っている。自民党の「公共工事品質確保に関する議員連盟」(2013年)を契機に、品確法などが改正された。
 さらに、近年ではブラック企業対策が国主導で行われている。厚生労働省は「過重労働重点監督月間」(2013年)に不払い残業など調査し、是正指導を行っている。このように国の機関で対策が進められている中で、自治体の責務が問われる(上林2015)。

この記事の著者

かながわ政策法務研究会 亀井覚、水戸川慶太(文責)

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