特定非営利活動法人虹色ダイバーシティスタッフ 小林和香
特定非営利活動法人虹色ダイバーシティでは、LGBTなどの性的マイノリティ(以下「LGBT」といいます)の職場環境に特化した活動を行っています。団体名にもなっている「虹色」とは、LGBTを支援するシンボルとして世界共通で使われています。そして、「ダイバーシティ」とは「多様性」を表します。日本でダイバーシティ推進というと、障がい者雇用や女性施策をメインに取り組んでいる企業や団体が多いですが、私たちはそこにLGBTも含めることを提案しています。
LGBTという言葉を聞いたことはありますか? メディアで見聞きしたことがあるという方も増えてきたのではないでしょうか。LGBTとはレズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性別越境者)の頭文字です。同性愛や性同一性障がいという言葉の方が聞いた人が多いかもしれません。実際には、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの4つにカテゴライズできるわけではなく、自分の性別をどう捉えるかといった「性自認」や誰を好きになるかという「性的指向」はグラデーションになっていて、その組合せも一人ひとり違いますので、性のあり方は十人十色だといえます。
私たちは企業や行政、教育機関など向けにLGBT研修を行っています。昨年度は年間100件を超える依頼があり、ニーズの高まりを感じています。
クラスに1人はLGBT
LGBTが人口に占める割合は何パーセントくらいだと思いますか? 淀川区LGBT支援事業で行ったアンケート調査では、約半数の人たちが1%くらいだと答えました。民間の調査によると、人口の5〜7%はLGBTだという調査結果が報告されています(電通総研「LGBT調査2012」、電通ダイバーシティラボ「LGBT調査2015」)。20人に1人という計算になります。あなたの職場にも地域にも、必ずLGBTはいます。しかし、多くの人はLGBTの存在を学んできておらず、日常生活の中に「おかま」「ホモ」「レズ」などの差別的言動によって傷ついている人たちがいることはほとんど認識されていません。このような社会の中で、LGBT当事者であることを自分自身が認めることや、友人や家族など身近な人に伝えることは簡単ではありません。多くの人が「身近ではない」と感じている社会とは、LGBTが「ありのまま」で暮らしていくことが難しい社会なのです。
私たちは実態を明らかにするため、2,000人規模のLGBTと職場環境に関するアンケート調査を行っています。私たちのアンケート調査では、上記のような差別的な言葉だけではなく、「結婚しないの?」「女らしくしなよ」といった、男女のジェンダーに関わる発言もLGBT当事者が差別的だと感じるという回答が多く寄せられました。私たちが実施する研修では、LGBTという言葉だけが一人歩きするのではなく、LGBTが何に傷つき、社会の壁をどんなときに感じているのかを、データを基に示していきたいと考えています。
高い自殺念慮率と求職時の困難
LGBTについて学ぶ機会がないだけではなく、メディアなどでは同性愛等の性的少数派であることについて否定的なメッセージを受け取る機会も多く、LGBTが肯定的なロールモデルを描くことが難しいのが今の日本の社会の現状です。何気なく発した言葉やセーフティネットがないという社会の壁が、当事者のメンタルヘルスの悪化につながっています。自殺を考えたことのある人は、ゲイバイセクシュアル男性のうち65%(日高庸晴×荻上チキ「セクシュアルマイノリティと自殺リスク」SYNODOS(2012年4月27日)[日高庸晴発言])、求職時に困難を感じたことのあるトランスジェンダーは70%に上ります。制服を着ることができず引きこもりになってしまったり、中退してしまったりする子どもたちがいます。男女に分かれたトイレを使うことができず、学校や職場でトイレを我慢している人たちもいます。LGBTが社会の課題だと認識されていないがゆえに、相談機関も十分ではありません。誰にも話せずに孤立している人たちがいます。これは個人の課題ではなく、心身における健康の問題であり、社会全体の課題だといえると思います。
行政だからできること
大阪市淀川区では、2013年に全国行政機関初の「LGBT支援宣言」を行いました。そして、2014年から約400万円の予算の下、電話相談、コミュニティスペース事業などの「淀川区LGBT支援事業」(http://niji-yodogawa.jimdo.com/)を行っています。虹色ダイバーシティとNPO法人Queer and Women’s Resource Center(http://qwrc.jimdo.com/)は共同で淀川区の委託を受け、6つの事業を運営しています。6つの事業とは、職員との意見交換会、啓発講演会、コミュニティスペースの運営、LGBT専門の電話相談事業、区民意識調査、淀川区・阿倍野区・都島区の教員と合同で制作中のLGBTハンドブックです。
大阪市十三駅から徒歩3分の場所でコミュニティスペースを運営しています。自分以外のLGBT当事者に会ったことがない、LGBTの集まりに初めて参加する人も多くいます。初回から30人以上の人が集まった理由として、「行政」が開催している「安心感」から敷居が下がったことが挙げられるのではないかと思います。
淀川区LGBT支援事業コミュニティスペース入り口の様子。レインボーカラーの布やフラッグを飾るなど、明るく入りやすい雰囲気になっている。
皆さんの地域に、自分の性自認を隠さずに話せ、同性のパートナーについて相談できる、LGBTが安心して集まれる場所はあるでしょうか。近年LGBTの活動が活発になり、昼間から集まれる場所やイベントなども随分増えてきました。しかし、多くの場所はセクシュアリティ(性のあり方、ここではLGBTのどれに当てはまるかということ)が限定されていたり、都市部に集中していたりします。また、イベントは夜に開催されることも多く、未成年の若者が安心して足を運べる場所はほとんどありません。インターネットで検索すると親にばれてしまう、検索してもどんな場所なのか分からないといった不安もあり、多くのLGBTは情報や仲間にたどりつきにくいのが現状です。
淀川区がLGBT支援宣言を行った後、全戸配布の広報誌などにLGBTの講演会などについて載せ、区の職員全員が虹のマークのついた名札をつけました。また、区内74か所の広報板に淀川区LGBT支援事業のポスターを貼り出しました。毎日歩く通勤路、通学路にLGBTのポスターが貼ってあります。これは行政だからこそできたことです。コミュニティスペースには年間300人以上の人が足を運んでいます。民間ではできなかったことが、行政の力を受け、命を救う事業へと発展しているのを肌で感じています。
LGBTについて何かしようと思っても、もし職員や同僚がカミングアウトしてきたらどうしよう、正しい知識がないから相談に乗れない、と始める前に不安を感じ、尻込みしてしまう人も多いでしょう。まずは、その不安な気持ちを周りの人と共有し、分からないことをひとつずつ解決することから始めてみてはいかがでしょうか。パレードなどLGBTのイベントに参加してみましょう。そして、職場や地域でLGBTについて話し合う場をつくってください。当事者のゲストを呼んで講演会を開催してみるのもいいかもしれません。LGBTについては初めてでも、今までに培った人権課題への施策や取組が生きてくるはずです。LGBTについて話題に出すところから始めましょう。
仕組みから風土を変え、ALLY企業へ
LGBTへの理解と支援を表明している人や企業のことを英語でALLY(アライ)といいます。私たちは研修を行っている企業に向けて、まずは「仕組み」を整えることを提案しています。社員研修を実施し、LGBTについて学ぶ機会をつくることでLGBTが相談しやすい環境をつくることが大切だと考えます。その次に社内ルールや制度を見直し、さらに理解者を増やす体制を整えます。そして、職場全体の意識を変えることができ、社会に対してもLGBTフレンドリーな活動ができるようになれば、真のALLY企業だといえるのではないでしょうか。
コミュニティスペースには10代から60代まで毎回20名以上の参加がある。中には小さな子ども連れの方も。皆自分らしくいられる居場所を探している。
講演会のアンケートなどで「カミングアウト(自身の性のあり方について他人に打ち明けること)しやすい社風を目指します」と感想を書いてくださることがあります。ぜひもう一歩先に進み、「当事者以外がALLYであることをカミングアウトしやすい雰囲気づくり」を目指してほしいと思います。当事者がカミングアウトするのは大きなリスクを伴います。もし打ち明けた相手がLGBTに理解がなかったら、職や居場所を失ってしまう可能性があるからです。当事者が目に見えないのと同じように、ALLYも目に見えません。ぜひ今日からALLYであることをまわりに打ち明けることから始めてみてほしいと思います。
