高崎経済大学地域政策学部准教授 岩崎忠
地方創生に向けた地方版総合戦略づくりに学生の意見を取り入れようと青森県田舎館村が岩崎ゼミナールに呼びかけ、「村の魅力再発見調査事業」を行っている。この事業は、村外からの移住者が仕事を持って暮らせる可能性を探るとともに、地域の魅力を掘り起こすのが目的である。岩崎ゼミナールでは、今年度、青森県田舎舘村を年4回訪問し、まち・ひと・しごと創生総合戦略に対する提言をまとめる。
青森県田舎館村と田んぼアート
青森県田舎館村は、青森県津軽平野の南部に位置し、農業の盛んな人口約8,000人の村である。この村は、弥生時代の水田跡が発見され、全国的に有名になった「垂柳(たれやなぎ)遺跡」もあるが、最近では、「田んぼアート」としても有名である。この「田んぼアート」は、昔ながらの手作業で田植えから稲刈りまでを行い、米づくりの楽しさを知ってもらおうとした「稲作体験ツアー」が始まりである。色の違う稲を使って稲文字「稲文化のむら いなかだて」を描いたのがきっかけになって、年々図柄が細かく芸術性も次第に高まり、世界中から注目を浴びるイベントになった(現在は7色11種類の稲を使用)。今年は、「風と共に去りぬ」と映画「スター・ウォーズ」最新作の12月公開に合わせ、人気キャラクター「C-3PO」や新キャラクターの「BB-8」が描かれた。当ゼミナールでは、STARWARSの「ST」部分の田植えを行い、浮かび上がった英字やキャラクターを鑑賞してゼミ生は感動していた。
ゼミからは2年生11人、1年生7人が参加した。高崎経済大学は、群馬県在住者が3割程度であり、残りの7割はそれ以外の地域の出身者で、47都道府県の出身者が在籍する。本ゼミ生の出身地も、群馬県のほか、埼玉県、栃木県、新潟県、富山県、山梨県、長野県、福島県、東京都であり、様々である。そのため、ゼミ生には、新潟の大地の芸術祭との比較など、地元との比較などを行い、多角的な視点で提言することも期待される。
1回目調査内容と村への主な提言
「村の魅力再発見調査事業」は4回の訪問を行うことになっており、すでに2回(6月と8月)田舎館村を訪問した。
1回目は、田んぼアートに向けた田植えに参加し、埋蔵文化財センターや博物館、道の駅、地元ラジオ局にも立ち寄って課題を探った。また、地域づくり団体「『田園』未来を築く会」の活動内容、「刀の庵」では刀づくり手法の説明を受けるとともに、弘前市と田舎舘村の戦国時代の歴史や、田舎館村キャラクターの「米こめくん」についても村役場から説明を受けた。
こうした調査を踏まえて、次のような主な提言を行った。まず、様々な魅力はあるものの、村にホテル、旅館等の宿泊施設がなく、隣接市町村の宿泊施設を使用していることや、村の特産品も販売箇所も少ないことから、観光客がお金を落とす仕組みがない点を指摘し、もっと観光客がお金を落とす仕組みが必要であり、せめて田んぼアートのイベント開催中だけでも飲食店、宿泊施設(農家民宿等)を臨時に設置すべきと強調した。また、体験型のグリーンツーリズムの場として、例えば、空き家などを利活用して、イタリアの田舎で行われているアグリツーリズモ(農家が営む宿泊施設)を通じたスローライフ体験などのように、農業体験や農村生活の体験をしたい人を募り、断続的ではなく、一定期間、体験できる事業を試行することについても提案を行った。
次に、道の駅については、群馬県の道の駅「川場田園プラザ」が旅の目的地になっているように、田舎舘村の道の駅もイベントを行ったり、レストランで地産地消を強調したメニューを盛り込む等、田舎館村にしかない特徴ある施設にするべきと提言した。例えば、お米を使ったサイダーなどお米を使った商品、田舎館村特産品のスチューベンやリンゴ果汁などを使った商品の開発・販売促進を充実させるとともに、トマトなどお米以外の特産品の開発にも力を入れるべきと強調した。お土産売り場では、商品の詳細を簡潔に、分かりやすく買い物客に伝えられるPOP(Point Of Purchase advertising)を使用してはどうかといった提案もした。さらに、東北地方は有数の温泉地帯であるので、道の駅などで自転車を貸し出し、温泉施設を巡ってもらい、訪問施設数に応じて田舎館村の特産品をプレゼントする、自転車を使った温泉スタンプラリーを提案した。また、埋蔵文化財センター・博物館では、来館者に鮮明に記憶にとどめてもらうため、弥生時代の映像を再現し、1人の弥生人の人生をコミカルに表現し、「プロジェクションマッピング(スクリーンではなく凹凸壁面や建物等立体物の表面にプロジェクターで投影[注])」手法で、決まった時間に上映したら来館者の記憶に残りやすいのではないかと提案した。それとともに、土器づくりなど弥生時代の民具の使用体験、イミテーションの弥生土器を販売するなど、家族客、親子三代で訪れた観光客にとって注目の観光スポットになる可能性を提案した。さらに、道の駅、埋蔵文化財センター、博物館という施設が近くにそろっているので、例えば、道の駅で買い物をしたり、レストランを利用した人が他の施設を利用する際に入場料が免除されるなど、1つの施設を利用すると他の施設を利用する際にメリットが受けられる仕組みを導入されたいとした。
田んぼアートについては、埼玉県行田市が世界最大規模の田んぼアートとしてギネス世界記録に認定されるなど、他の地域でも行われているので、他の地域にない「田んぼアート」の差別化を図るべきである。例えば、図案は、村内だけでなく、村外、県外からも公募するようにして交流を図るべきであり、どんな提案にも対応できる高度な技術に裏付けられた芸術性の高い「田んぼアート」として強調するべきであるとか、又は、県外からの観光客に長靴などを貸し出し、身軽に田植えができる環境を整え、体験型「田んぼアート」として強調するべきと提案した。さらに、今後、3人の専門家による技術を伝承する課題も指摘した。また、田植えから収穫までの「タイムラプス(一定間隔で連続撮影した静止画を組み合わせることにより長時間の動画を短時間で表現できる[注])」動画を作成し、YouTubeなどにアップロードし、田舎館村を宣伝してはどうか。年間パスポートをつくって、田植えから見頃、収穫までの間に何度でも来村してもらえる「田んぼアートリピーター」の一定の確保は必要であり、さらに、リピーターによる「田舎舘田んぼアートクラブ」の結成などを提案した。
2回目調査内容と村への主な提言
2回目は、6月に植えた田んぼアートを鑑賞し、「いながだてのじゃいご(津軽弁で「田舎」のこと)あるぎ」(まち歩きツアー)を体験、その後、夜には弘前ねぷたまつりに参加し、夜の弘前市内でねぷたを引いた。翌日、村の人口と産業状況、地方創生の取組について村役場の職員から説明を受けた。そして、シャッターが閉まった商店街を歩き、消費が村外で行われている田舎館村ではプレミアム商品券を発行してもなかなか売れなかった現状を目の当たりにした。
この調査を踏まえての提言は次のとおりである。まずは、耕作放棄地など休んでいる農地を転用して宿泊地などを創出することで旅館業という新たな産業を生み、さらに雇用も生むことを提言するとともに、村外からやってくる中高齢者の就農希望者に対して村が廃校を活用した農業教育・農業指導を行い、その上で、受講生と地元住民との交流の場を設定し、人々の絆をつくり出すことを提言した。そして、中心市街地に個人商店を集約して商店街の活性化を図るか、商店街には期待せずに郊外に大型店舗を誘致して雇用確保に力点を置くか、その方向性を明確に示すべきと提案した。また、サテライト・オフィス、ワーク・イン・レジデンス(将来、自治体にとって必要な働き手や起業家を受入れ側から指名する徳島県神山町の取組)などにより、村にとって新しい雇用の場ができ、移住につながる点も強調した。
さらに、移住者を増やせる環境づくりとして、富山県舟橋村のように若い世代の家族を獲得するために、保育所の拡充、小中高校の教育の充実、遊具を備えた公園の設置など、子どもを中心とする家族のための環境づくりの重要性を強調した。また、高齢者と若者といった多世代交流の大学連携型コミュニティ(桜美林大学と町田市など)により高齢者向け住宅を新設するような取組を田舎館村と地元大学との間で行うべきであると提案した。
最後に、北海道歌登町にある「うたのぼりグリーンパークホテル」では、「日本らしい文化」をホテルで体験できるようにしたことで、海外からの観光客を増加させた。このようなホテルの取組を参考に、花火体験、みこし体験、餅つき体験、冬の雪遊び、郷土料理教室など都会では味わうことが難しい「日本らしさ」を強調した体験イベントを行うことにより、国際交流による地域活性化を提案した。訪問する海外観光客にとって優しいまちにするために、複数の外国語が示されている「まち」のサイン整備、マップ・パンフレットの作成・配布などが重要である点も追加して強調した。
今後の展開
今後は、秋には田んぼアートの稲刈りを行い、弘前大学の学生との交流を深めるとともに、冬には英国のスノーアーティストが田んぼ一面に作成する「スノーアート」を鑑賞する。雪にはマイナスイメージしか持っていない地元住民に対し、違った雪の楽しさを強調したイベントを提言していきたい。
また、イベント型の地域活性化と移住・企業誘致による地域づくりのために、例えば、栃木県那須町などで「ゆいま~る」が展開している民間主導による高齢者同士の新しいコミュニティづくり(医療・福祉施設、文化施設、雇用の場など)など高齢者移住(CCRC)の取組や二地域居住の考え方などを参考にして「行きたい・住みたい魅力あるまちづくり」について提言していきたい。
さらに、今回の地方創生について、新たな自治に向けた改革のチャンスとして捉え、積極的な提言をしていきたい。
[注]コトバンクによる語句説明。