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2015.07.10 議会改革

質問力を議会力に〜一般質問を議会の政策資源とするために〜

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龍谷大学政策学部教授 土山希美枝

1 議員の公約を考える

(1)ミニ首長的選挙公報
 統一地方選挙では候補者の減少が話題になったが、それでも特定の「ごひいき」がいない市民から見れば、自治体議会議員選挙は多くの候補から自分の票を投じるひとりを探さなければいけない難しい選挙だろう。
 選挙公報は、その意味では、候補者が一覧となって有権者の比較にさらされる重要なツールである。ただ、見ていると、その候補が首長選挙に出ているのか、議会議員選挙に出ているのか分からなくなる。数の多さや紙幅の広さで判別できるといったところか。その原因は、「◯◯を実現します」「◯◯を実行します」といった首長候補と類似したアピールにあふれ、他方、議会の一員として何をするかがめったに語られていないことにある。
 もちろん政治家である以上、自らの政治目的、政策目標を持ち、その達成のために活動することは当然である。だが、首長候補が「実現します」と約するのと、議員が「実現します」と約するのは、違う。首長は行政の長として実現する権限を直接に持ちうるが、議員はそれを持っているわけではないのである。議員の政策目標が実現するのは「議会議員として訴え、受け入れられれば実現する」という場合であって、直接権限を持っているのは「議会議員として訴える」ところまでである。したがって、自分が何をするかと約するならば、「実現を目指して取り組む」「提案する」「訴える」といったあたりが正確な用語である。
 だが、「『提案する』『訴える』だけでは弱い。そもそも選挙公報で投票する相手を決めようという市民にそんな表現の意味が伝わるだろうか。政治家としてもっと強く自分の思いをアピールしたいし、訴えたことはもちろんやる気である。議会の一員として何をなすべきかなんて、議会がどんな役割を果たすべきかも認識されていないかもしれない、議会改革が票にならないといわれるこのときに、書いても伝わらない」。かくして、実行力、実現力を誇るミニ首長的選挙公報があふれることとなる。

(2)議会の一員か、ひとりの政治家か
 議員として当選すれば、議会の一員としての役目が待っている。だがそこで、自らの政策課題に議員として関わることが保証されているわけではない。希望する常任委員会に入れないことは珍しくないし、自らの課題関心が議案になって上がってくるとも限らない。要するに、議会議員には、議会の一員としての顔と、ひとりの政治家としての顔の両方を持つという二重性があって、それがいつも一致しているとは限らないのである。
 議会では議会の一員としての義務を果たしていれば、政治家としての活動を必ずしもしていなくとも、ペナルティが与えられることはない。次回当選できるかどうかは定かではないが、当選できないとも限らない。だが、そもそも議会議員に立候補するのだから、自身の政治信条や政策課題があるはずである。それでは、それはどこで発現しうるのか
 そこで、一般質問である

2 一般質問は何のためにあるか

(1)一般質問の機能 「ひとりでもできる市(都道府県町村)政改革」
 「議員は、市の一般事務について、議長の許可を得て質問することができる」(標準市議会会議規則62条)。これが一般質問の根拠であって、質疑や討論と異なり、標準市議会会議規則の中に「一般質問」という用語が出てくるわけではない。だが、「一般事務について」という規定によって、市政のあらゆることについて、所管の委員会に所属していなくとも、議案にかかっていないことも「問い質(ただ)す」ことができ、自由な意見の表明もできる(1)
 特定の事業の執行状況や行政運営の具体的問題点を指摘することによって監査機能を果たすこともできるし、そのやり方について改善案を提示したり、取り上げられていない政策課題を提起したりすることで政策提案機能を果たすこともできる。議会改革は今、史上初めて全国的な潮流になっているが、その潮流が届いていなかったり形ばかりでやりすごす議会であったとしても、一般質問は「ひとりでもできる市政(2)改革」となりうる。
 監査機能、政策提案機能は議会の持つ機能の根幹でもあって、その意味では、一般質問は、議会の一員としての議員が監査機能、政策提案機能を果たすことができ、しかもそれは政治家としての政策目標や問題関心を基盤にするものといえ、議会議員である政治家としてその活動の集約となる場なのである

(2)一般質問は機能しているか
 ただし、現実には、その機能は十分に果たされていない。
 むしろ、「残念な質問」や「もったいない質問」が多く(3)、そのため「質問力」の向上について関心も高い。「八百長と学芸会」(4)は一般質問を舞台に質問と答弁が事前にシナリオ化していた(いる)という議員と行政職員のなれ合いを象徴した表現だが、それ以上に市政にとって損失なのは、一般質問が監査機能も政策提案機能も十分に果たせていない状況であり、まさに、「残念」で「もったいない」状況である。
 一般質問が「残念」で「もったいない」ものになる要因は、①質問の目的や、②その質問がどう公益と関わるかが明確でなかったり、③その問題意識が伝わらなかったり、④論点が入りすぎ膨らみすぎてしまうことなどが挙げられる。簡潔に言い直せば、①何を問い質しているのか、②その質問が「まちをよくする」のか、③そもそもなぜそれが問題なのかが伝わっていない状況がある。さらに、質問が生かされるには争点としての時機や資源の問題がある。個別の内容(5)にもよるが、一般的には何よりその問題意識に対する共感を得ることがまず目指される。
 議員活動の集約である一般質問が監査機能や政策提案機能を果たすようになれば、まちは変わりうる。そうした一般質問をつくるには議員の情報収集能力、争点化能力、説明説得能力が求められる。この「質問力」が伸びることは議会での活動にも効果的で、議会の人的資源開発ともなるといえる。
 だが、議員の一般質問の質が向上するということと、その質問が監査機能、また特に政策提案機能を果たすこととは、残念ながら必ずしも直結しない

3 「よき一般質問」は市政を変えるか

(1)議員活動の労力と知見の集約
 一般質問を個別に見ると、必ずしも残念な質問やもったいない質問ばかりではない。市民相談から個別要求を超えてまちの課題を発見したり、資料を探り問題点を整理したり、不適切な行政手続や事務執行を捉えたり、なるほどと思わせるものも確かにある。毎定例会で一般質問を行う議員も少なくない。そうした議員にとって、一般質問は「まちをよくする」ことを目指す議員活動の労力と知見の集約であると感じられる。
 だが、残念ながら、そうした議員活動の集約として質の高い一般質問が行われても、それが行政に受け入れられなければ、何かを変えることに直結しないのである。
 素直に考えれば、よい一般質問がなされれば、その問題提起が受け入れられ、行政運営や事務執行の何らかの改善がなされることが想像される。そうなる場合もある。だが、行政機構との関係いかんで、あるいは行政機構の「指摘を受け入れ対応する」姿勢の硬軟で、またあるいは首長の「もの分かり」次第で、よい一般質問であってもその扱いは大きく異なり、ときには容易に素通りさせられてしまう。ならば、政治家として議員として問題提起や政策提案があっても、一般質問に労力を集中させるのは無駄になってしまわないか? 議場の外で行政に交渉する方がまだ労力の無駄を防げるのではないか?
 だが、一般質問の質の向上が目指されず、インフォーマルな過程で政治家としての政策目標の実現を目指すことが常態になれば、そのまちの市民にとって3つの意味で不幸である。ひとつは、残念な質問やもったいない質問があふれ続け、議員の能力への不信を高め続けていくということ。2つ目は、市民に見えないところで政策や行政運営が決まったり変わったりし、政治への不透明感が増すということである。3つ目、質の高い一般質問を行ってもそれが市政の改革につながらない議会の現状に議員がやがて諦め、去るようなことがあれば、それは人材の損失でもある。
 議員活動の労力と知見の集約は、だが、なぜ、その質が高くても、効くとは限らないのだろうか

(2)「ひとりでする質問」の限界
 首長によっては、あるいは答弁する立場の職員によっては、議員から一般質問で指摘を受けることを、自分を批判し反旗を翻していることだとみなすことがある。そうなるとそもそも一般質問は「聞く耳」を持たない相手に訴える難行となってしまう。実際、自分に近しい「首長与党」の議員と反目的な「首長野党」の議員とで答弁の濃淡を変え、後者にはつれない答弁で済ませることを求める首長もいるという。ただ、もしそうした状況があるなら、それは議長が問題にし、質問に対し誠実な対応を求めるべきであろう。
 よい一般質問であっても生かされないことがあり得るのは、何より、「ひとりでする質問」だからである。「ひとりでもできる市政改革」になりうる反面、その指摘は「議員のひとりが言っていること」にすぎないともされうるのである。
 確かに、合議体として議論による意思決定を行うことが議会の本来機能であって、一般質問は首長と行政機構との議論にはなり得ても、その本来機能に直結はしていない。議員ひとりの「◯◯を実現します」という公約は、そのひとりに投票した有権者に支持されていても、市民の意思とはいえない。議会改革の状況を問う調査でも一般質問については質問形式と反問権が設問となるくらい(6)だが、それは議会改革の本筋は「議論する議会」という議会の本来機能の活性化と、それを支える市民参加・情報公開だからである。

(3)一般質問は「ひとりでする」ものでなくてはならないか?
 だが、では、一般質問は、そうした「議員が議会の本来機能のかたわらでひとり行うもの」として、政治的状況などがうまく働いた場合にまれに監査機能や政策提案機能が果たされるもののままでよいのだろうか? 議員にとっても「本来機能のかたわら」で政治家としての意見を開陳するボランタリーな場にとどまるものでよいのだろうか? 一般質問は「ひとりでする」ことで完結しなければいけないとはどこにも書かれていない。政治状況の影響を受けないことはあり得ないとしても、「ひとりでする」ことを超えて、「よい一般質問」が受け入れられやすい、つまり監査機能や政策提案機能を果たしやすくする環境を、制度を、認識をつくっていくことはできないか

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土山希美枝(龍谷大学政策学部教授)

この記事の著者

土山希美枝(龍谷大学政策学部教授)

龍谷大学政策学部教授 龍谷大学政策学部教授。法政大学大学院社会科学研究科政治学専攻〈博士課程修了〉博士(政治学)。専門分野は、公共政策、地方自治、日本政治。研究テーマは、変動する社会の構造と、政策、市民、政府の機能。著書に『高度成長期「都市政策」の政治過程』(日本評論社、2007年)、共著に『対話と議論で〈つなぎ・ひきだす〉ファシリテート能力育成ハンドブック』(公人の友社、2011年)、『「質問力」からはじめる自治体議会改革』(公人の友社、2012年)など。北海道芦別市生まれ。

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