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2015.07.10 政策研究

大都市制度の論点と人口減少社会への対応 ―大阪都構想の住民投票と最近の大都市制度改革―

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中央大学教授 佐々木信夫

問われる間接参加、直接参加

 今年は、第18回目の統一地方選の年だった。しかし、その結果をみると、投票率90%、競争率5倍にも及んだ戦後期と違い、45%近くまで投票率が低下し、選挙によっては2~4割も無投票当選者が続出するなど、事実上競争相手のない無風選挙がまん延した。特に有権者の1票の支持もなく当選者が決まるという無投票当選の急増は、間接代表制が草の根から枯れ、死滅する状況にあることを示すものだった。折しも18歳まで有権者枠を広げる法改正が行われたが、足元はやせ細る民主主義の状況だ。これが戦後70年の日本の姿である。
 その一方で、直接参加によって統治の仕組みを変えることの是非を決める、戦後経験したことのない大きな試みが行われた。2015年5月17日、大規模な住民投票が大阪市で行われた。大阪市を廃止し5つの特別区を創設する、大都市制度の変更を求める、いわゆる「大阪都構想」の是非を問う住民投票である。10年前、各地で400件近く行われた平成の大合併をめぐる条例設置の住民投票と違い、「大都市地域における特別区の設置に関する法律」という、国の法律に基づくものであった。
 日本の住民投票は、一般に投票結果を参考にするという諮問型投票が多いが、大阪都構想はそれとは違い投票率にかかわらず、賛成か反対か票数の多い方で結果を決めるという決定型住民投票であった。結果は、投票率66.83%、賛成票69万4,844、反対票70万5,585。有効投票数の0.76%の僅差で反対票が上回った。僅差とはいえ、反対票が上回ったことで、大阪都構想の実現は不可能になった。
 もし賛成票が上回っていたなら、2017年4月に大阪市は廃止され、新たに大阪都(ただし、府の名称変更には別途法改正が必要)と北、湾岸、東、南、中央の5つの特別区が誕生し、大阪は東京と並ぶ、もうひとつの「都」として新たな出発をするはずだった。

大阪都構想―住民投票の顛末

 国会、地方議会など代表を通じてしか決められなかった自分たちの統治の仕組みを、一人ひとりの1票で決められる。この前例のない場面が大阪の住民投票だった。昨年話題になったイギリスから独立しようと住民投票を求めたスコットランドの事例に匹敵する出来事だったが、しかし、現場をみると、些末(さまつ)な情報を流す政党間の足の引っ張り合い、それに乗じて曲解、無理解、間違いだらけのデマや宣伝を流し続ける者まで現れる始末。マスメディアも政争に巻き込まれたくないとの認識からか、報道自体を縮小したのである。
 住民に都構想の理解が十分浸透したとはみえなかった。5年前から橋下徹氏らがいくつかの選挙を経ながら進めてきたこの改革構想は、住民の反対票が上回り最終局面で頓挫したが、しかし、それが正しい民意を反映したものかどうか、疑問なしとしない。もっとも住民投票という面からはそういえるが、そこに至る過程は、推進派「維新」対反対派「自・公・民・共連合」という政党間の政治闘争の色彩が強かった。上下水、地下鉄の民営化でも、府・市立大学統合でも関連条例を市、府議会で軒並み否決してきた流れの中での住民投票。そこでの主張は、「今のままでは大阪の発展は望めず、市民の負担も増える。都市の発展には、成長戦略や公共インフラ計画という大都市戦略をつくり、実行部隊となる強力な役所組織が絶対に必要」と改革構想を述べる推進派。それに対し、「そもそも二重行政など存在しない。政令市である大阪市を廃止し特別区にすれば、2度と大阪市には戻れない。本来市が持っていた権限、財源は減り、特別区長は財布も権限も小さくなり、結果、住民に良質なサービスは提供できなくなる」とまくしたてる反対派の運動。
 対案なきネガティブキャンペーンが流布される毎日。外からみていると、この真っ向から対立し、論点のかみ合わないすれ違い論争、押し問答が延々と続く中、270万市民は蚊帳の外に置かれ続けた感じだった。未消化のまま、イエス、ノーの判断を求められた大阪市民は、変えるより、変えない方の保守心理に傾いたのではないか。表からも分かるように、人口の最も多い平野区の反対票が賛成票を1万887票上回っている。全体の賛成、反対票の差が1万741票だから、事実上、平野区の判断が全体を決したともみてとれる。統治の仕組みを変える都構想の是非より、目先の小さな利害で判断する高齢者層の反対が目立つシルバーデモクラシーの面も強かった。ここに反対票が上回った真相があるのではないか。

表 大阪市の特別区設置についての住民投票の開票結果(2015年5月17日執行)表 大阪市の特別区設置についての住民投票の開票結果(2015年5月17日執行)

佐々木信夫(中央大学教授)

この記事の著者

佐々木信夫(中央大学教授)

中央大学教授 1948年岩手県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了、法学博士(慶應義塾大学)。東京都庁勤務を経て、89年聖学院大学教授、94年中央大学教授。米カリフォルニア大学(UCLA)客員研究員、2001年から中央大学大学院経済学研究科教授。専門は行政学、地方自治論。現在、第31次地方制度調査会委員、日本学術会議会員。2012年4月〜2015年3月大阪市、大阪府特別顧問。主な著書に、『人口減少時代の地方創生論』(PHP研究所、2015年)、『日本行政学』(学陽書房、2013年)、『新たな「日本のかたち」―脱中央依存と道州制』(角川SSC新書、2013年)、『大都市行政とガバナンス』(中央大学出版部、2013年)、『都知事~権力と都政』(中公新書、2011年)など多数。『地方議員は変われるか』(講談社現代新書)2015年秋、発刊予定。

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