判例は「他山の石」か
磯貝朋和〔弁〕 今回の判例では、宮古島市が給水義務を負う場合において、給水義務の不履行に基づく損害賠償責任が免除されるのか、水道事業給水条例の有効性が争点になりました。他の自治体では同じような問題は起こりえないのでしょうか。
尾畠〔弁〕 私は起こりうると考えています。例えば、東京都は水道事業を行っており、東京都給水条例を定めています。
○東京都給水条例(抜粋)
(給水停止または使用制限)
第20条 管理者は、災害その他やむを得ない場合または公益上必要があると認めた場合は、給水区域の全部または一部につき、給水を停止し、または水道の使用を制限することができる。
2 略
(損害の責任阻却)
第21条 前条第1項の給水停止若しくは使用制限または断水により水道使用者に損害が生ずることがあつても、都は、その責任を負わない。
磯貝〔弁〕 これは、宮古島市水道事業給水条例16条1項・3項とほぼ同じ規定ぶりですね。
尾畠〔弁〕 宜野湾市でも水道事業を行っており、水道事業給水条例を定めています。
○宜野湾市水道事業給水条例(抜粋)
(給水の原則)
第12条 給水は、非常災害、水道施設の損傷、公益上その他やむを得ない事情及び法令又は、この条例の規定による場合のほか、制限又は停止することはない。
2 略
3 第1項の規定による給水の制限又は停止のため損害を生じることがあっても市は、その責を負わない。
又吉〔議〕 これもほぼ同じ規定ぶりですね。なぜ多くの自治体で同じような条項が採用されているのですか。
尾畠〔弁〕 厚生省の通知が理由と思われます。この通知に添付された標準条例の中には、免責条項があり、多くの自治体がこの免責条項をそのまま引き写しているのでしょう。
○標準給水条例(規程)の送付について(昭和33年11月1日衛水第61号・各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省水道課長通知)
(給水の原則)
第11条 給水は、非常災害、水道施設の損傷、公益上その他やむを得ない事情及び法令又は、この条例の規定による場合のほか、制限又は停止することはない。
2 前項の給水を制限又は停止しようとするときは、その日時及び区域を定めて、その都度これを予告する。ただし、緊急やむを得ない場合は、この限りでない。
3 第1項の規定による、給水の制限又は停止のため損害を生ずることがあつても市(町村)は、その責を負わない。
内田雅也〔弁〕 国からの通知で免責と書いてあったら、地方はそうしますよね。
尾畠〔弁〕 国からすると、標準条例を採用するかどうかは地方に任せているということになるのでしょうが。
条例の見直し
石田〔議〕 国の投げ方と地方の受け取り方を考えないといけないですね。まだまだ従前どおりのままで条例改正がなされてないものがたくさんあるのだと思います。今回の給水条例については、お上の感覚が残っていると感じました。
尾畠〔弁〕 いろいろなハードルがあることは確かです。自治体の行政パーソンの立場からすると、国が示した通知や条例のひな形がないと、議会で通りづらいのです。今回の判例はいいきっかけだったと思います。
おわりに
「宮古島市水道事業給水条例事件」は、自治体におけるインフラ整備のあり方の見直しだけにとどまらず、その根本となる条例の見直しにも一石を投じたことが分かりました。議員と弁護士との相互理解がさらに深まることを祈念し、今回の勉強会を終わりにしたいと思います。