3 行政の縦割りと横串(ISVの役割)
こうした検討プロセスをどのようにデザインするかは、一つの部局で取り組むだけでは不十分だと思っています。つまり、それはあちらの仕事、こちらの仕事とならないようにすることが実装するために重要なスタンスだと思っています。佐用町で筆者が所属しているのは、企画防災課という政策部局です。縮充戦略アドバイザーに就任以来、全職員研修など随所で筆者が話題を提供できる機会をつくっていただいたおかげか、行政内の様々な部署から地域と一緒に進めたいがどうしたらよいか、といった相談が寄せられるようになりました。例えば、介護保険関係の部署からは、このままいくと介護認定者が増えすぎてしまうから、地域で健康づくりをもっと進めたいという相談や、教育委員会からは、学校運営協議会(コミュニティ・スクール)の立上げをどう進めたらよいかなどの相談が寄せられ、いずれも佐用町に合ったプロセスを一緒に考えています。
先述したISVは、専門家を行政内部に置いた状態です。具体的には事務分掌に明らかな業務はなく、必要に応じて部局をつないだり相談に乗る役割です。世の中には行政の縦割りがだめだという論調も一部であります。ただ、縦割りだからこそ責任を持って実装するという面もあるのが事実です。ISVはこうした縦割り組織を自由に渡り歩きながら各所でスーパーバイズし、事業をより効果的に仕組んでいく役割だと思っています。
これまでの地域づくり支援というと、地域づくり協議会のような地域運営組織に対して専門の中間支援組織がサポートをしてきました。人口減少時代、これまでと異なる施策をつくり続けなければならない行政にも専門的な支援が求められていることを感じています。特に今後は様々な資源が不足していきます。その時代にはこれまでのような行政施策の企画方法ではなく、よりクリエイティブな検討の必要があると感じています。縮充というまだ誰も実現したことがない未知の取組みを検討し具体化する取組みは、とてもクリエイティブだと感じています。
4 Less is more
20世紀のモダニズム建築家であるミース・ファン・デル・ローエは、様式性による装飾や形態が重要視され、どんどんマッチョになっていく建築や空間を批評するかのように、Less is moreという言葉を広げました。これは、過度な装飾やきらびやかなものに価値があるのではなく、削ぎ落とした上で現れる形式性や空間の質を最も価値のあるものとして捉えようとしたことです。
縮充はまさにLess is moreの思想ではないかと思っています。追加したり拡充するのではなく、削ぎ落としたり選択と集中をしたり、これまでのやり方を変えていくということです。そんな縮充のまちづくりを実現するためには、これまでの当たり前を客観的に見つめ、疑い、新しい未来に向けた当事者性をどう育んでいけるかがポイントになるでしょう。そして、行政、議会、住民、事業者など多様なステークホルダーがそれぞれに楽しみながら自分たちのできることを、ちょっと背伸びしながら実践していく。そうした小さな行いの積み重ねが縮充という大きなビジョンの実現につながると信じています。