合同会社Roof共同代表/播磨町まちづくりアドバイザー/佐用町縮充戦略アドバイザー 佐伯亮太
1 縮小するまちのチャレンジ
本稿では、兵庫県佐用町で始まった縮充のまちづくりについて取り上げます。取組みは始まったばかりですが、今回はそのプロセスを紹介します。佐用町は兵庫県の西端で岡山県との県境にあるまちです。町の面積は307.44平方キロメートルあり、その大半は山林です。最近では日本で初めて山林の町有林化を推進していることでも注目されています。
現在の佐用町になったのは、2005年10月。当時の佐用郡佐用町、上月町、南光町、三日月町の4町が合併して現在の町域となりました。2024年3月現在の人口は1万4,938人です。町の発行する「佐用町地域創生 人口ビジョン・総合戦略」によると1947年以降、人口は減少し続けています。地域づくりの核としては、旧小学校区単位に地域自治組織が13設置されています。また、現在も旧町ごとに出先機関として支所が置かれ、住民サービスの機能を担っています。
2 縮充のまちづくりの現在地
そんな佐用町では、2023年から「縮充」をテーマにまちづくりが始まりました。縮充は元来、毛織物を水などに浸してもむと、織糸が縮んで布面が収縮し、密度が高くなるという処理のことを指します。
これをまちづくりに参照し、「いろいろなことが減っても、より濃く豊かに充実した暮らしが送れるようにしよう」というビジョンを示しました。我が国は戦後復興から21世紀の今に至るまで「成長(大きくなること、増えること)」が良いこととされ、減ることはネガティブな出来事として捉えられてきたように思います。例えば、行政の予算を見ても「新規」や「拡充」は見出しが付いて目玉として扱われるのに対して、縮小するもの、削除するものについてはあえて表現されません。縮充のまちづくりは、こうした20世紀的価値観のパラダイムシフトを起こしていこうというチャレンジです。しかし、まだその具体像は明らかにできていません。
筆者はこの壮大な実験に縮充戦略アドバイザー(週1日勤務の会計年度職員)として行政内部に入りながら関わっています。専門家を行政内部に位置付ける手法はインハウススーパーバイザー(以下「ISV」といいます)といわれ、いくつかの自治体で取り入れられつつあります。事実、筆者は佐用町以外に兵庫県播磨町においてもまちづくりアドバイザー(週3日勤務の任期付職員)として活動しています。
縮充のまちづくりというビジョンを掲げた佐用町では、その言葉のキャッチーさもあって、これからどんな新しいまちづくりが始まるのか、とても注目されています。一方で、縮充という言葉が抽象的なこともあって、「結局、具体的な取組みは何?」といった声も聞こえています。共感されるビジョンは示せたが中身がない状態だということです。私たちには、これまで誰も経験したことがない、小さくなること、少なくなることをポジティブに捉えようとするビジョンを具現化することが求められています。具現化に向けては、誰かが答えを示し、それを粛々と実装するトップダウン的手法ではなく、行政、町民、事業者など多様なステークホルダーが対話を重ね、お互いの価値観を共有しながら最適解を見つけることとしました。