3 地域運営組織の活動例~兵庫県佐用町長谷地域づくり協議会~
兵庫県佐用町は、岡山県と接する典型的な中山間地域であり、全域が過疎地域に指定されている。2020年の人口は1万5,863人であるが、2015年から1,647人(-9.41%)も減少している。佐用町は、2005年に佐用郡4町が合併して発足し、翌年の2006年には地域運営組織である地域づくり協議会が佐用町内全13地区(旧小学校区)に設立された。また、2019年には「佐用町地域づくり協議会あり方再構築の方針」が策定され、地域づくり協議会をさらに充実させるための方策が提示された。これに基づき、「みんなの地域づくり協議会活力向上プロジェクト」(愛称:「みん活」)と称して、地域づくり協議会における組織や活動内容の見直しが図られている。
事例として取り上げる長谷地区は、佐用町役場のある佐用地区の北隣に位置し、長谷地域づくり協議会が積極的に活動を行っている。協議会の規約では、1条において全住民が会員であるとともに、地域住民以外の者を準構成員と位置付け、関係人口による「関わりしろ」を設けている。また、6条にはサポーター制度が設けられており、委員や部会員以外による活動の支援者が参画できるよう工夫されている。協議会には「ふれあい部会」と「福祉部会」の二つの部会を設け、無理のない活動を行っている。具体的な活動として、住民相互の交流や親睦、地域福祉、生活環境の保全、青少年健全育成、防災・防火・防犯、自治会活動の補完など、「守り」の活動を重視している。
同協議会では地域創生団体として、協議会の承認を得ながらも独立した活動を行う組織が設けられている。それらは、「ゴトンボの会」、「ファブラボ西播磨」、「バンブーマウス事業部」、「長谷助け合い隊」、「ブルーベリー育てる会」、「長谷おしゃべりサロン」(写真1)などである。このうち、「ゴトンボの会」は、これまで中高年を中心とした有志が集まり民泊「ゴトンボ荘」を運営したり、耕作放棄地を復元して「貸し農園」を経営したりしてきた(「ゴトンボ荘」と「貸し農園」の運営は2023年6月で終了)。「ファブラボ西播磨」は、旧長谷小学校内を拠点に3Dプリンター、レーザー加工機、大型CNSなどデジタル機材やハンドツールを備え、ものづくり活動を行っている。「バンブーマウス事業部」は、天然資源を活かした物品の製造及び販売、暮らしの提案、イベントの企画を行っている。なお、「ファブラボ西播磨」と「バンブーマウス事業部」の中心人物は、地区内の40代から50代の比較的若い住民である。さらに、2022年8月には地区住民の有償ボランティアグループである「長谷助け合い隊」が組織された。50代から80代の約10人が隊員として活動しており、住居周辺の草刈り、獣害対策用の柵の補修、電話機の設定など、高齢者を中心とした日常の「困り事」に関する依頼を解決している(写真2)。「長谷助け合い隊」の活動は、実質的に地区内における「見守り」の役割を担っている。「長谷助け合い隊」の活動は順調で、隊員の生きがいや、やりがいの醸成にもつながっている。
写真1 長谷おしゃべりサロン
写真2 長谷助け合い隊の活動
このように、長谷地域づくり協議会では、地域創生団体を規約に位置付けることにより、地域の「お墨付き」を得るとともに、独立した組織として自由に活動が行えることが特徴である。そして、地域課題である「やるべきこと」を、地域住民による「やりたいこと」とマッチングさせることで課題解決につながっている。また「やれること」を行うことで、地域住民による活動が無理なく持続できるよう工夫されている。
長谷地域づくり協議会による活動は、地区全体を活動範囲とするとともに、多様な世代が参画していることに特徴がある。こうした活動を、自治会・町内会やその連合会が担うことは可能であるが、地域内における多くの「しがらみ」に向き合ったり、合意形成に手間や時間がかかったりすることが障壁となる。地域運営組織は、地区内の住民や多様な組織によって構成されるプラットフォームであるため、多様な活動を支援できる体制であるといえる。