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特集 過疎に向き合う

2024.04.10 まちづくり・地域づくり

過疎地域の行方

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貧しさからの脱却

 当時の過疎地域をめぐる「貧しさ」は、様々なフィールドレポートに表れています。例えば、1968年にいち早く過疎地域の窮乏を訴えたジャーナリストの今井幸彦氏は、中國新聞社編『中国山地』の以下の一節を引用し、国による過疎対策の必要性を訴えました。

 からだの不自由な老人を家に遺しては出稼ぎにもいけない。といって、医療費や生活費はかさむ。その板ばさみに苦しむ家族をみかねて老人は死を選ぶ。家族がいてこうなのだから、生活の底が浅い山村では働き手の夫やむすこを失うと、たちまち生きるのぞみを失ってしまう。(今井 1968)(1)

 このように、所得も十分ではなかった過疎地域においては、過疎化と貧困と死は数珠つなぎの問題でした。当時の過疎は抽象的な「過疎」ではなく、自分自身、そして家族の「生」につながる実存的な問題だったのです。
 多少時期は前後しますが、こうした事態を踏まえ、1950年代から1970年代にかけては、過疎地や辺地に関係する法案が相次いで成立することになります。
 1953年に離島振興法、1962年に辺地法(辺地に係る公共的施設の総合整備のための財政上の特別措置等に関する法律)、1965年に山村振興法、そして1970年には過疎法(過疎地域対策緊急措置法)が成立しました。特に過疎法は、①人口の過度の減少防止、②地域社会の基盤を強化、③住民福祉の向上、④地域格差の是正の4点を目的に掲げ、他の多くの法律が地域の特徴を要件としているのに対し、人口流出という動態的な条件を基礎として対象地域を捉えようとしたという点で画期的なものでした。
 これらの法律の整備は、過疎地域の環境に劇的な変化をもたらしました。莫大(ばくだい)な公共投資が地方に流れるようになった結果、例えば、過疎法成立時の1970年と2019年を比較すると、過疎地域における市町村道の舗装率は2.7%から71.4%へ、水道普及率は56.6%から93%へと大幅な改善が見られるなど、都市との格差も大きく縮まりました。

豊かさの中の過疎化

 過疎地域に長く暮らしてこられた方や、親族、友人が過疎地域にお住まいの方の中には、こうした環境の変化を身近に感じられた方もいるかもしれません。地理学者の藤田佳久氏は、過疎地域の変化について1998年の著書でこのように述べています。

 今日の山村をめぐると、ひと昔前の僻地性ばかりが強調された雰囲気は薄らぎ、幹線道路の整備、役場やホール、小中学校などの公共施設が一新し、大都市の一片を移築したかのような景観に出くわすことが多くなった。景観的には、山村の人工施設は一変してしまったといってよい。そして、これらの景観変化こそ、旧過疎法制定以来つづけられた莫大な公共投資によるものである。(藤田 1998)

 こうした意味では、過疎が始まった60年近く前の状況と現在の状況を同一で語ることはできません。同じ「過疎」だとしても、その中身は「貧しさの中の過疎化」から「豊かさの中の過疎化」(岡田・杉万 1997)へと、質的に変化しているのです。
 それでは、今、過疎地域で起きている問題とは何でしょうか。私は、それは、悲惨な困窮や挙家離村、地すべり的人口流出といった「目に見える、分かりやすい形」ではなく、高齢化の進展と自然減の進行という、「じわじわと、静かに訪れる過疎地域の体力低下」に見いだされるべきと考えます。
 以下のグラフ(図1)は、過疎地域における若年者比率と高齢者比率の推移ですが、昭和60年(1985年)前後に両者が入れ替わっていることが分かります。
Tokushu_zu01

出典:総務省地域力創造グループ過疎対策室「過疎対策の現状と課題」(平成29年7月18日)
図1 過疎地域における若年者比率と高齢者比率の推移

 全国において両者が入れ替わったのが平成15年(2003年)前後であることを考えると、20年近く先にこうしたトレンドが過疎地域に訪れていたわけです。高齢者比率が高まった過疎地域では、これまで地域の担い手として活躍されていた方々が徐々に引退し、スポンジのように穴があちこちに空いていきます。かつてのように一斉に人がいなくなるわけではないので、住民の間にも強いリアリティや逼迫(ひっぱく)感が生まれにくい一方、確実に状況は進行していく……そんな状態になっていくのではないかと想像されます。

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