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特集 獣害──共存の模索──

2024.03.11 政策研究

動物行動学から考える獣害対策と美郷町の取組み

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4 被害対策から始まる地域づくりの実践

(1)鳥獣害は鉄板のコミュニケーションツール
 野生鳥獣による農作物被害は全国津々浦々どこでも地域の困りごととして存在する。人口減少や高齢化が進むどの地域でも共通の話題になる。それは、よそ者が地域に入り込むには鉄板のコミュニケーションツールとなる。そして、この一番厄介な困りごとを自分たちの力で解決できれば、他の課題も進んで解決する意欲が湧いてくる。

(2)理念を共有できる仲間
 平成11年、美郷町の役場で筆者を地域に結びつけてくれる人と出会った。その後25年間、協働することになる。彼は、役場担当者としてではなく、一住民としてともに活動し、被害対策を集落に落とし込んでくれた。役場の職員としては、これまでの思い込みや非科学的な情報を排除し、野生動物の行動研究の成果や総合対策など、住民が正しい情報を得られる機会を繰り返しつくりながら、地域を、人を動かす黒子として活動した。その結果、農家が猟師による捕獲ばかりに依存するのではなく、自立的に被害対策を行う意識が芽生えてきた。
 美郷町の被害対策は老若男女誰もが参加する。年齢も性別も関係ない。婦人会もサルを追い払い、全国からやってくる自治体の獣害対策視察の講師も務める。視察団も自分たちより小柄な女性、しかもかなりの年配者がやればできると教えれば、誰も反論できない。面倒だから、年をとったからなどの言い訳もできない。
 美郷町では、小学生から獣害対策を生活の一部として認識する。筆者のお気に入りの活動でもあるのだが、子どもたちが地域学習の一環として、農業や野生動物について学び、被害対策を理解する。私たち人間と違って、スーパーやコンビニ、食堂もない野生動物は餌を探すのも大変。餌がたくさんある人間の集落に引かれてしまうのは仕方がない。だから人間が野生動物に、ここに来ても餌はあげないよと教えることが大切であることを子どもたちは理解する。5年生は電気柵についても学ぶ。美郷町の子どもたちは、野生動物を悪者と思っていない。獣害は自分たちで守るもの、畑は守れるものとして育っていく。

(3)人を地域資源として活動を広げる
 美郷町にはイノシシの皮革を素材にしたクラフト工房がある。工房といっても、集会所で集まってイノシシの皮革製品を婦人会のメンバーが手づくりしているものである。趣味クラブのようだが腕前は一級品である。イノシシを捕獲して食べて余った皮を使おうという発想はよくある。事実、美郷町のクラフト活動が優良事例として勝手にモデル化され、推奨されることもある。しかし、もともとの発想が違うのである。ジビエ利用して余った皮をどうにかしようというのではない。この地域はもともと養蚕業が盛んで、かつて縫製工場があった。そこで働いていた女性たちはプロとして働いていたのである。もともとはイノシシの皮で自分たちが使うものをつくっていたのだが、この町に視察に訪れる人たちが見逃すはずがない。この地域の被害対策には物語がある。この物語の先にあるイノシシの皮革製品。皆が欲しがるようになる。この地域の人が有する技術を資源として目をつけたのが、先に紹介した役場職員である。地域の人・技術に光を当て、そこから新たな持続性のある活動を生み出している。
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図10 被害対策から始まる地域づくり

(4)さらにその先へ、美郷バレー
 産官学民が連携する美郷バレー構想。シリコンバレーを模したネーミングである。美郷バレーは獣害対策と地域づくりの情報が集まり、新たな情報を発信する場である。理念を共有し、同じ方向を向いた様々な組織や業種が集まる連携集団になる。中核は美郷町役場の美郷バレー課、美郷町の研究所として設置されたおおち山くじら研究所、そして長年、美郷町において学生が野生動物と被害対策の研究を行い、地域との交流を積み上げてきた麻布大学。令和3年には麻布大学フィールドワークセンターが美郷町に設置された。普段は神奈川のキャンパスで学ぶ学生たちが実習で度々フィールドワークセンターを訪れ、美郷町で活動する。年々訪れる学生数が増えてにぎやかになってきた。また、卒業研究や大学院の研究で美郷町に長期間滞在する学生もいる。これまでにも首都圏出身の学生が卒業後、美郷町や島根県、あるいは美郷バレー参画企業に就職し、活躍している。
 これから期待するのは、地域の子どもたちに多くの選択肢を与えることである。美郷町や島根県の子どもたちが麻布大学に入学し、いつも故郷を意識しながら学び、美郷バレーと関わりのある企業に就職して全国各地域で活躍し、将来、故郷に戻っても職場を辞めることなく働き続けられる、都市と地方の循環型職場環境も構築していきたい。

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