低密度化のための捕獲強化は、究極目標達成のための手段の一つ
ここまで見てきたように、今求められているクマ類に対する捕獲強化は、従来の人の生活圏内で被害をもたらす個体に加えて、人の生活圏周辺で高密度化し人への警戒心が薄れている個体がいるような地域において、その周辺の緩衝地域における低密度化や人への警戒心を学習させるために必要ということになる。
緩衝地域における低密度化はゴールではなく、目標達成のための手段であることを忘れてはならない。究極目標はあくまで人の生活圏への侵入や被害を減少させることにある。対策の短期的な目標となる人の生活圏周辺の捕獲数や生息密度、そして出没数や被害量について、適切にモニタリングをしておかなければ、対策の効果を評価することができない。また被害を減らすためには、捕獲だけでなく、未然防除に関しても同時に実施される必要があり、その実施状況についてもモニタリングされている必要がある。
指定管理鳥獣への追加による国の支援
2023年度に行われた議論を受けて、環境省は「絶滅の可能性の高い四国の個体群を除くクマ類を指定管理鳥獣に指定する」方針で検討を進めている。これにより、シカやイノシシのように捕獲強化と捕獲に対する国の支援が行われるように思われているが、ここまで触れてきたとおり、クマ類の被害防止のためには、捕獲強化は必要な手段の一つでしかない。人の生活圏への誘因の除去、電気柵等による未然防除や移動ルートの遮断など侵入防止対策の併用が不可欠である。
指定管理鳥獣に関する事業では、事業実施計画を策定し評価するために必要な調査やモニタリングに対しても交付金を活用することができる。これまでクマ類の管理に関しては、多くの地域で出没後の対症療法としての駆除を中心に進められており、侵入防止等の未然防除対策も、個体数や被害に関する指標を十分な精度でモニタリングすることもできていなかった。今回の指定管理鳥獣指定により、これらの未然防除対策やモニタリングに対して国の支援を受けて実施することができるようになることは、クマ類の管理を進める上で大きなメリットとなるだろう。
人材配置
指定管理鳥獣制度を活用した国の支援により、これまで都道府県単位で進められてきたクマ類の管理は前進する大きなきっかけを得たように思う。大切なのは、被害を減らすという目標を忘れずに、捕獲と未然防除を合わせた対策を行うこと、評価に必要な指標をモニタリングすることである。これらを地域で確実に実行するためには、野生動物管理に専門的な知識と経験を有する専門人材を現地に配置することが必要不可欠である。これによりバランスのとれたクマ類管理が推進できるようになる。国の支援をきっかけに、これまで進まなかった専門人材を配置して、クマ類の適切な管理がなされ、地域の被害が減少していくことを期待したい。