ゾーニング管理(すみ分け)によってクマ類による被害を抑える
クマ類の管理目標である地域個体群の保全と被害防止を両立するためには、クマ類がいつまでも絶滅しないように守られるべき奥山と、人の安心安全な暮らしが守られるべき人の生活圏(市街地や農地及びその中にある河畔林や屋敷林、公園等の緑地も含む)、そして奥山と人の生活圏の間にある里山等、人の生活圏周辺の森をゾーンとして分けて考えることが重要となる。
奥山ゾーンでは、クマ類が自然環境の中で暮らし続けることができるように、生息環境を保全し、個体数を維持していくことが重要である。そのためには、定期的に個体数やその動向をモニタリングしていくことが不可欠となる。また、登山や山菜採り、釣り、キャンプなどの活動で奥山に入る場合には、クマ類の生息地に入ることを自覚し、十分な知識を身につけ、クマ類に出合わないように、また出合った際にも対応できるような準備と心構えが重要となる。
人の生活圏ゾーンでは、人の安心安全な暮らしを守るため、クマ類が侵入した際には確実に駆除できるような体制を整備し、適切な役割分担と有事には速やかで確実な対応が必要である。地域の鳥獣行政担当者は、警察や捕獲技術者との事前の連携をとっておくこと、また中長期的な視点から捕獲技術者の確保と育成も行っていく必要がある。一方で、クマ類が人の生活圏内に入ってしまう原因がある場合、駆除を続けても次の個体がまた現れる。農作物や放棄果樹、廃棄野菜、水産廃棄物等のクマ類を誘引するものがある場合、除去するか、除去できない場合にはクマ類が接近できないよう電気柵等による防除が不可欠である。また、河畔林や斜面緑地等からなる緑地が連続してクマ類の生息する森と市街地をつないでいる場合には、クマ類は意図せず市街地に迷い込んでしまう場合がある。こうした場所では、緑地の連続性を遮断するなどの侵入防止対策が不可欠となる。
また、人の生活圏周辺の森ゾーン(緩衝地域)でクマ類の生息密度が高い場合、森林内の主要な餌となるドングリ類の豊凶や、人の生活圏周辺における交通事故等によるシカの死体の発生、その他偶然による影響によっても、クマ類が人の生活圏に侵入してくるリスクが高い。地域により、海岸線など市街地と森林が長く接し防衛ラインが長い、又は人口密度が高いなどで事故リスクが高く、かつ、そうした出没個体への対応体制を十分にとれない場合、このリスクを下げるためにあらかじめ人の生活圏周辺に定着している個体を駆除することで低密度化したり、残雪期など見通しが良く足跡も残りやすい時期に追跡したりするなどして、人への恐怖心や警戒心を植え付けることで、クマ類にとって人の生活圏周辺の住み心地を悪くすることも効果的であろう。
クマ類の生息地である奥山、人の生活圏である市街地や農地、そしてその中間にあり、被害防止のために生息密度を低く保ち、人への警戒心を与えておくべき緩衝地域、というように地域(ゾーン)別に目的と対策を明確にして実行することで、地域個体群を保全しながら被害を減らしていくことが求められている。