(5)埋立地用途変更・設計概要変更承認申請不承認処分をめぐる争訟
令和元年~同3年には、埋立地におけるサンゴの移植に関わる漁業法(沖縄県魚業調整規則)上の争訟も生じているが、複雑になるので言及を省略する。
以下では、冒頭の代執行に関する埋立地用途変更・設計概要変更承認に関する争訟事件を見ていく。
令和2年4月、沖縄防衛局長は、埋立てに関して新たな工事が必要になったことから、埋立法42条に基づき、この辺野古埋立事業に関する埋立地用途変更・設計概要変更承認申請を行った(変更承認申請〔Ⅱ-ア〕)。
これに対して令和3年11月、沖縄県知事は、埋立法の承認要件を充足していないとして、不承認の処分をした(変更不承認処分〔Ⅱ-イ〕)。
沖縄防衛局長は、同年12月、国土交通大臣に対し、行審法に基づき、変更不承認処分〔Ⅱ-イ〕の取消しを求める審査請求を行った(図1の争訟Ⅰ=A)。
令和4年4月、国土交通大臣は、審査請求を認容し、変更不承認処分を取り消すとの裁決をした(変更不承認処分取消裁決〔Ⅱ-ウ〕)。沖縄県知事は、この裁決を自治法の関与であるとして係争委に審査の申出をし、係争委はこれを却下したが(令和4年7月)、その後、沖縄県知事は本件取消裁決の取消しを求める関与の訴訟を提起した(不承認処分取消裁決関与取消訴訟〔Ⅱ-エ〕。図3の争訟Ⅱ=C関連)。
また、令和4年4月、国土交通大臣は、沖縄県知事へ、変更承認申請〔Ⅱ-ア〕に対して承認処分をするように勧告した。沖縄県知事がこの勧告について期限までに判断を行うことができないと回答したところ、国土交通大臣は、同月、同年5月16日までに承認処分をするよう是正の指示(自治法245条の7)を行った(変更承認の指示〔Ⅱ-オ〕)(図2参照)。
沖縄県知事は、変更承認の指示に対しても係争委に審査の申出をし、係争委が沖縄県知事の申出を退ける判断をした(同年8月)ことから、変更承認の指示の取消しを求める関与の訴訟(変更承認指示取消関与訴訟)〔Ⅱ-カ〕を提起した(図3の争訟Ⅱ=C)。
不承認処分取消裁決関与取消訴訟〔Ⅱ-エ〕については、令和5年3月、高等裁判所が却下判決を下していて、沖縄県知事は上告受理申立てをしている。
また、変更承認指示取消関与訴訟〔Ⅱ-カ〕に対して、最高裁は、高裁判決を是認し、沖縄県知事の上告を棄却した(最判令和5年9月4日裁判所ウェブサイト)。
だが、沖縄県知事は、この最高裁判決によって変更承認の指示〔Ⅱ-オ〕が確定した後も、承認をしなかった。そこで、国土交通大臣は、同月(令和5年9月)27日までに変更承認をするよう勧告した。また、承認をしない状態が続いていたため、10月4日までに承認をするよう指示をした。だが、沖縄県知事はそれでも変更承認をしなかったことから、同月5日、国土交通大臣は自治法245条の8に基づく承認の代執行の訴えを提起した(変更承認代執行訴訟〔Ⅲ-ア〕)。この一連の「勧告─指示─代執行訴訟」は、図4の争訟Ⅱ=Eに当たる。
この代執行訴訟に関して、福岡高裁那覇支部は令和5年12月20日、判決後3日以内に変更承認をせよと、国土交通大臣の請求を認容する判決(代執行判決〔Ⅲ-イ〕)を行った。判決文は、この記事を執筆時点では、沖縄県庁のホームページ上で閲覧することができる。
図4で示したように、この代執行判決に対して不満があるときに沖縄県知事は最高裁判所に上告をすることはできるが、上告をしたからといって執行停止の効力は生じない(自治法245条の8第9項・第10項)。
この結果、冒頭で示したように、沖縄県知事の変更承認の権限を、国土交通大臣が代わって行使し、承認処分がなされたこととなって、沖縄防衛局は新たな埋立工事を進め始めたところである。
おわりに
上記令和5年12月の代執行について、一部の新聞は「地方自治法に基づき、国が地方自治体の事務を代執行したのは初めて」と報じている。
確かに、上記代執行判決〔Ⅲ-イ〕とこれに基づく国土交通大臣による代執行は、現行地方自治法制の下でなされた法定受託事務をめぐる代執行の事案としては、初めてであったといえる。
だが、このような代執行制度は、第一次地方分権改革前、かつての機関委任事務をめぐる職務執行命令制度時代から存在した。そして、旧制度下では、東京都砂川町長職務執行命令事件(最判昭和35年6月17日民集14巻8号1420頁)、沖縄県駐留軍用地収用事務代理署名事件(最大判平成8年8月28日民集50巻7号1952頁)という、れっきとした裁判事件がある。
しかも、平成8年の事件では、高裁判決時点で沖縄県知事敗訴の判決を受け、当時の内閣総理大臣が土地収用法に基づく知事の代理署名事務を代行している(平成8年3月28日)。国は、防衛行政関係にあって、沖縄県知事の権限不行使に対して代執行を既に実行していたのである。「代執行したのは初めて」という報道には、違和感がある。
さて、本件代執行判決によって、読者(地方議員)の中には、辺野古の埋立工事に関して沖縄県が万事休すとなったかのような印象を持たれたかもしれない。海上埋立てに関する制度をめぐる紛争に関しては、一応の結論が得られつつあるだろう。だが、辺野古をめぐる沖縄県と国をめぐる争訟は、ほかにも様々なものが提起されていて、決着を見ていない。また、海上埋立工事が完成し、軍事基地としての供用がなされ得るまでには、さらに相当に長い時間がかかる。そのときになって、普天間基地からアメリカ軍が移転するかどうかも不明である(アメリカ軍が沖縄に駐留していることについても確証はない)。さらに、国際情勢がどのようになっていくのかも見通せない。辺野古の事件を一過性の出来事として理解しないようにしたい。
(1) 辺野古の基地建設をめぐる国・沖縄県の争訟の現状については、沖縄県の「辺野古新基地建設問題最新情報」のウェブサイト(https://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/henoko/latest.html)を参照してほしい。
(2) 不作為に対する審査請求については、知事に対して審査請求を提起することもできる(自治法255条の2第1項後段)が、辺野古事件には登場しないので説明を省く。
(3) 審査請求には、仮にその効力や執行を停止するための執行停止制度がある(行審法25条)。この事件でも、沖縄防衛局長による執行停止の申立てと国土交通大臣による執行停止の決定がなされ、その執行停止をめぐっても争訟が提起されているが、複雑になるためここでは説明を省略する。