九州大学大学院法学研究院教授 田中孝男
はじめに
令和5年12月28日、国(国土交通大臣)は、同月20日の福岡高裁那覇支部における国側勝訴判決を受けて、沖縄県辺野古沖の海上埋立てに必要な公有水面埋立地用途変更・設計概要変更についての沖縄県知事の承認権限を代執行した。現在は、実際に、埋立てに向けた工事が進められている。
もともと、この辺野古軍事基地建設に関する国と沖縄県をめぐる争訟は、上記報道のなされた代執行裁判だけではない。基地建設に関わっては、多数の法的手続を必要としていて、その手続の各箇所で、国と沖縄県の間では、争訟事件が起きている(1)。沖縄県の住民が基地建設中止のために国を訴える裁判も別途提起されているところであり、辺野古をめぐる争訟は、大変複雑なものになっている。
令和5年末から同6年初にかけては、中央政治の醜聞にとどまらず、能登半島大地震、日航機・海保機衝突事故、田中角栄邸焼失など、大事件が相次いだ。辺野古事件も、少し後景に退いた感がある。とはいえ、この辺野古事件は、沖縄県だけの地域限定的な話題ではなく、全国の地方自治にも関わるものである。
そこで、今回の代執行に関わる案件を含め、辺野古軍事基地建設をめぐる国と沖縄県の間で生じている争訟事件のうち、海上の埋立てに関わる事件に関して、どのような争訟の仕組みなのかを簡単に解説した上で、裁判事件の内容(判決の結論)を紹介したい。法律の条文も適宜、指摘する。裁判事件では法の解釈運用が問われる。難しい表現が続くかもしれないが、説明内容についてしっかりと目を通してほしいし、適宜、法律の関係条文そのものを見るように心がけてほしい。
以下においては、関係法律をそれぞれ次のとおり略称表記する。
・地方自治法……自治法
・公有水面埋立法……埋立法
・行政不服審査法……行審法
・行政事件訴訟法……行訴法
なお、筆者がこの記事を執筆した時点では、冒頭で紹介した埋立地用途変更・設計概要変更承認代執行訴訟は、まだ最高裁で審理中であり、国による代執行措置が法的に適法であったということが確定したわけではない。