3 目指すべき代替的な地域社会像を描くこと
地域公共交通を活性化させるプロジェクトを考えるためには、持続可能な地域社会の将来ビジョンを描き、その社会の実現に向けたロードマップとプロジェクトを考えるという「バックキャスティング」のアプローチが必要である(図2)。まず、地域の総合交通体系の未来だけを描くのではなく、土地利用、産業、ライフスタイル等も含めて、地域社会の全体像を描いてみよう。例えば、2050年の持続可能な地域社会として、省エネルギーと再生可能エネルギーの導入によるゼロカーボン、高齢者等の弱者の社会参加と健康、お互いに支え合うコミュニティ、自給自足や地産地消といったローカルな循環、テレワークによる移動代替と情報通信によるスマートモビリティ等が実現されていることを目指すとしよう。その未来社会において、地域公共交通が必要で、重要な基盤となっているのではないだろうか。
これまでの慣性のなりゆきのままで、大胆な変革(転換)を行わないとき、地域公共交通は未来図の中から姿を消しているだろう。しかし、これまでのような効率を優先する社会ではあらゆる側面で行き詰まりがあり、地域づくりのあり方を見直そうと考えるとき、地域公共交通が生き生きと踊っている未来図となるだろう。

図2 バックキャスティングの考え方
4 地域づくりと地域公共交通の活性化を一体的に進める
なりゆきとは違う社会への転換を目指すとき、持続可能な地域づくりと地域公共交通の活性化を一体的に進めることが必要となる。地域公共交通だけが事業努力や経営転換をすればよいのではない。一体的推進の方法として、地域公共交通の活性化プロジェクトに、地域内のステークホルダーを巻き込み、地域内のステークホルダーの意識転換と関係形成を促すことが重要である。「コミュニティ主導によるコミュニティのための地域公共交通の活性化に参加することにより、コミュニティ主導社会の豊かさに気づいた人々が、新たな地域づくりプロジェクトを立ち上げていく」というように、持続可能な地域づくりの波及的な動きが活性化することが期待される。持続可能な地域づくりを目指すという大きな戦略の中で、地域公共交通を意義づけ、地域づくりと地域公共交通の相互作用で、地域の人を変えていくのである。
筆者は、グリーンスローモビリティ(以下「グリスロ」という)の地域実証事業の検討委員をしていたが、観光地のグリスロの成功ケースでは、グリスロの広報や効率的運行だけでなく、グリスロ利用者にコース内のスポットでの特典(地元特産品の割引等)を提供する仕掛けが有効であると感じられた。この特典を提供することを通じて、地域の事業者が地域内連携の可能性に気づき、新たな地域づくりへとつながる可能性があるからである。