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2021.11.10 政策研究

「ブラック校則」問題を考える視点 ─社会通念と保護者の意向─

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校則の限界  

 この点、裁判例は、学校外の生活すなわち家庭生活に対する規制であるからといって、それを校則で規制できないとする立場を採用していない。校則の限界、言い換えるならばブラック校則といえるか否かは、社会通念に照らし、ケースバイケースで判断すべきとする立場である。  
 例えば、少し古い判決(熊本地判昭和60年11月13日行裁例集36巻11・12号1875頁)ではあるが、男子中学生の丸刈り校則の違法性が争われた事案においては、「中学校長は、教育の実現のため、生徒を規律する校則を定める包括的な権能を有するが、教育は人格の完成をめざす(教育基本法第一条)ものであるから、右校則の中には、教科の学習に関するものだけでなく、生徒の服装等いわば生徒のしつけに関するものも含まれる」とする。そして、校則の制定は「中学校における教育に関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認される」とし、「教育を目的として定められたものである場合には、その内容が著しく不合理でない限り」容認されるとして、校長の裁量を広く認めている。  
 また、近年の事案では、公立高等学校の頭髪規制(染髪等)が問題となった訴訟において、判決(大阪地判令和3年2月16日裁判所ウェブサイト)は、校長が有する校則制定に関する広い裁量を前提とし、「このような包括的権能に基づき、具体的に生徒のいかなる行動についてどの範囲でどの程度の規制を加えるかは、各学校の理念、教育方針及び実情等によって自ずから異なるのであるから、本件高校には、校則等の制定について、上記の包括的権能に基づく裁量が認められ、校則等が学校教育に係る正当な目的のために定められたものであって、その内容が社会通念に照らして合理的なものである場合には、裁量の範囲内のものとして違法とはいえないと解するのが相当である」とした。校長の広範な裁量を前提とするこの考え方は、控訴審においても基本的に支持されている(大阪高判令和3年10月28日)。

手続的正義  

 ただ、仮に校長に包括的な権限、広い裁量があるとしても、校則の制定に当たって留意しなければならないことは存在する。特に、社会通念が、学校の論理ではなく、一般常識を意味する以上、校則制定、見直しに当たって、保護者との調整を図るという視点は不可欠である。価値観が多様化した現在、学校側が考える理想の校則が唯一の正解ではない。考え方の相違を前提としつつ、仮に意見の一致が見られなかったとしても、手続を踏むことにより、その正当性を担保しようとする考え方に立つ必要がある(手続的正義)。
 その際、2006(平成18)年に改正された教育基本法が、教育に関わる保護者の第一義的責任を明文で規定したことを見落としてはならない。「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする」という、教育基本法10条である。この規定からは、少なくとも学校外の生活に関わる部分については、保護者の意向に最大限配慮する必要があるといえる。  
 学校生活に関わる部分についても同様であろう。保護者が希望しない限り、授業等の開始時刻や終了時刻、児童会や生徒会に関する定めなど学校生活に不可欠な部分以外の領域、いわゆる「しつけ」に関わる部分に踏み込むことは慎重であるべきと考えられる。
 また、制服等、学校生活に不可欠とはいえないまでも密接に関わる領域についても保護者との意思疎通を十分に図っていくことが求められる。「学校における通学用服の選定や見直しについては、最終的には校長の権限において適切に判断すべき事柄であるが、その選定や見直しを行う場合は、保護者等学校関係者からの意見を聴取した上で決定することが望ましいこと」、「教育委員会は、所管の学校において通学用服の選定や見直しが適切に行われるよう、必要に応じて指導を行うこと」とする文部科学省の通知(「学校における通学用服等の学用品等の適正な取扱いについて(通知)」平成30年3月19日付け29初財務26号)は、この視点を踏まえて理解すべきであろう。

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