沖縄国際大学経済学部准教授 照屋翔大
はじめに
2021(令和3)年6月28日、千葉県八街市の通学路で集団下校中の小学生の列に飲酒運転のトラックが突っ込み5人が死傷するという大変痛ましい事故があったことは、いまだ私たちの記憶に新しいことと思います。この事故を受け、7月9日には通学路における交通安全をより一層確保するため、「通学路における合同点検等実施要領」が文部科学省、国土交通省、警察庁の連携により作成され、各関係部署宛てに通知・通達されました。交通事故に限らず、通学路において子どもが犠牲になる事件や事故はこれまで何度も繰り返し発生しています。このような悲しい連鎖に終止符を打つべく、学校とともに私たちにできることは何か考えてみることにしましょう。
通学路での事件・事故の状況
通学路での事件・事故と聞いて、どのような事例をイメージするでしょうか。実は、その実態は様々で、目を配るべきポイントは多岐にわたります。まず、おおよその傾向をつかむために、独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「JSC」という)が2014(平成26)年3月に刊行した「『通学中の事故の現状と事故防止の留意点』調査研究報告書」を参考にしたいと思います。
この報告書によると、1999(平成11)~2012(平成24)年度間に小・中・高等学校の児童生徒が通学中に死亡した事例は877件あり、そのうち交通事故は701件と全体の約80%を占め、そのほかにも地震・津波(78件)、転倒・転落(33件)、犯罪被害(16件)、鉄道事故(15件)が挙げられています。少し前のデータではありますが、通学路の安全確保においては、交通安全、生活安全(防犯)、災害安全(防災)といった幅広い観点からの対策が必要になるということをうかがい知ることができます。出典:「『通学中の事故の現状と事故防止の留意点』調査研究報告書」(https://www.jpnsport.go.jp/anzen/Portals/0/anzen/kenko/jyouhou/pdf/tsuugakuchuu/tsuugakuchuu_3.pdf)8頁より引用
図1 通学中の死亡事故(外因 平成11年〜平成24年〔事故種・学年別〕)
ちなみに、JSCは学校の管理下で発生した災害について災害共済給付業務を行っており、その対象に、「通常の経路及び方法により通学する場合(保育所等への登園・降園を含む)」を含んでいます。ただし、JSCによるこの規定がそのまま、通学路において遭遇した事件や事故について学校は法的な責任を負う、ということを意味するものではないことには注意しておきたいと思います。同時にこれは、後で詳しく述べるように、学校が通学路における安全確保について何もしないということを意味するものでも決してありません。法的な責任の有無にかかわらず、各学校は、児童生徒が存分にその持てる力を発揮し、安全・安心な環境の下で学ぶことができるよう、通学路も含めた学校安全を実現する責務があるのです。