過去最大の感染流行と子どもたちの感染への警戒(令和3年7月~現在)
周知のように、当初のワクチン供給計画の遅延、東京オリンピック・パラリンピック開催の議論、8月お盆休みの人流増大など、様々な要素によって、これまでの経験をさらに超える感染の流行(いわゆる第5波)に至りました。
特にこれまでは子どもへの感染が少ないこと、よって子どもの重症例が少ないことは、学校教育を担う当局、管理職、教職員にとっては運営にあたって救いといえるものといえました。しかし、感染力の強い新たな変異株が出現し、小・中学校及び高等学校段階、さらに幼稚園や保育園といった就学前の段階についても、子どもたちの感染の危険が非常に高まるに至りました。このことは状況を一転させたといえます。
これまでの知見では、季節性インフルエンザは学校での流行が地域に対しても拡散すること、つまり子どもたちの間での感染力が強いことが認められてきました。一方で、新型コロナウイルス感染症は、当初は子どもたちの間の感染力は大人の間の感染力に比して弱かったり、感染しても無症状となったりする傾向が指摘されてきました。しかし、新たな変異株の出現は、こうした知見を一転させ、子どもたちの間の感染力が増大し、さらにそれが家庭や大人たちへの感染リスクを高めるという状況をもたらしています。こうした変異株の出現と流行拡大によって、管見では、学校における子どもたちの感染リスクに対する警戒感、これに対応した活動計画の見直しの必要性、これらについては、夏季休業に入る前の7月の段階と、8月のお盆休み後の段階とでは、わずか1か月ほどの間に飛躍的に高まったと指摘できます。
ただし、こうした警戒感がかつての首相による一斉休校要請のときのように、全国一律になっているかというとそうではなく、むしろ地域間格差が非常に大きくなっているのが目下の現状と思われます。これは、もちろん大局的には緊急事態宣言ないしまん延防止等重点措置が出されているところ、いずれも出されていないところというように、都道府県レベルの対応が異なっていることが大きく影響していると思われます。
現状の対応の違いについては、文部科学省による「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた新学期への対応等に関する状況調査の結果について」(令和3年9月7日)に示される、公立幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校を所管する教育委員会に対する調査結果が参考になります(調査時点:令和3年9月1日)。
これによれば、「夏季休業の延長又は臨時休業の実施(予定)(A)」は小学校12.4%、中学校12.8%、高等学校19.2%であり、「短縮授業又は分散登校の実施(予定)(B)」は小学校23.0%、中学校22.9%、高等学校34.2%となっています。そして「(A)又は(B)いずれかの実施(予定)」は小学校27.7%、中学校27.6%、高等学校47.3%となっています。つまり学校段階で見ても、臨時休業の実施の度合いは大きく異なっています。
また、都道府県別で見れば、東京都は「(A)又は(B)いずれかの実施(予定)」は、小学校については21設置者(33.9%)、中学校については22設置者(34.9%)となっています。また、大阪府は、小学校8設置者(20.0%)、中学校8設置者(20.0%)となっており、最も感染が懸念される両都府内においても、各自治体の対応は異なっています。
ちなみに筆者の大学の立地する茨城県では、小学校42設置者(97.7%)、中学校42設置者(97.7%)となっており、ほとんどの自治体で臨時休業の措置がとられています。このように緊急事態宣言の発出されている都府県内の状況を見比べても、自治体・教育委員会による臨時休業の実施の度合いは大きく異なります。
さらに「夏季休業を延長した期間中等の学習指導等の実施状況」について、家庭学習の内容別設置者数について見れば、「教科書や紙の教材を活用した家庭学習」について、小学校251(53.7%)、中学校276(59.7%)、高等学校41(59.4%)となっています。一方、「同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習」について、小学校127(27.2%)、中学校141(30.5%)、高等学校23(33.3%)となっています。コロナ禍にあって、実際にオンライン教育をどれだけ活用しているか、今後も見ていく必要があると思われます。
なお、文部科学省は、令和3年8月27日付けの事務連絡に別添として「学校で児童生徒等や教職員の新型コロナウイルスの感染が確認された場合の対応ガイドライン(第1版)」(https://www.mext.go.jp/content/20210827-mxt_kouhou02-000004520-1.pdf)を発出しています。
おわりにかえて─コロナ禍における取組みの共通理解を─
前述のガイドライン(「新型コロナウイルス感染症に対応した持続的な学校運営のためのガイドライン〈改訂版〉」(令和3年2月19日))で明示はされているのですが、コロナ禍にあって臨時休業となっている学校において、一般の教員や保護者からすると分かりにくいと思われる点について補足します。
学校が臨時休業になった場合は、登校の必要がありませんが、その場合、出席にも欠席にもなりません。その場合は、「出席停止・忌引等の日数」等とされます。そしてその際、児童生徒が、一定の方法によるオンラインを活用した学習の指導を受けたと校長が認める場合には「オンラインを活用した特例の授業」として記録されます。
学校が臨時休業になっていない場合でも、感染が判明したり、濃厚接触者に特定されたりした場合、出席停止の措置となります。また感染に対する医療的な判断ないし合理的な理由があれば、やはり「出席停止・忌引等」となります。不登校や病気療養については、従前より、一定の要件が認められれば「出席扱い」として記録されます。
さらに学校運営上、重要となってくるのは以下の点です。学年の全部を休業とした日数は授業日数には含めません。学年の一部を休業とした日数は授業日数に含まれ、授業のある児童生徒については出席を記録します。そして授業のない児童生徒については「出席停止・忌引等の日数」として記録します。また、「臨時休業により、学校教育法施行規則に定める標準授業時数を踏まえて編成した教育課程の授業時数を下回ったことのみをもって、学校教育法施行規則に反するものとはされない」とされています。さらに困難な場合を想定しての特例として、最終学年以外については指導内容の次学年への持ち越しを可能とするなど、弾力的に運用できることになっています。
上記のような制度上の措置はどのように受け取られるといえるでしょうか。例えば、一見、家庭で子どもがオンライン授業を受けていると認識しているその時間は出席でも欠席でもない「出席停止・忌引等」となってしまうことは、保護者からすると分かりにくいかもしれません。またオンライン授業について、きちんとした計画で行えば、その内容を再度、学校の授業で繰り返すことは必ずしも必要ありませんが、ただこの場合の計画は学年として明確化されているものでなくてはならないので、各学級の教員にはやりにくさもあるかもしれません。そして、学年の全部や学校の全部を休業とすれば、授業日数としてカウントできないので、いずれ標準授業時数の確保が心配になる側面が出てくるかもしれません。確かに標準授業時数を下回っても、法規的に「反するものとはされない」とされてはいるのですが、学校管理職としてはできるなら下回りたくないと考えてしまうのは致し方ないと思われます。
こうした行政の考え方には、子どもたちの学びの実質を確保し、児童生徒を前にした授業という教員の本務を維持し、教育課程の実施に関する基本的で最低限の責任を学校が果たす、これらの考え方が織り込まれているわけですが、保護者や一般の教員からすると分かりにくい面もあるかもしれません。いずれにしても、コロナ禍にあっても子どもたちの学びを確保するとともに、コミュニケーションは密にして共通理解を進めることで、いらぬ誤解や心配が回避されることを望みます。