「学びの保障」の模索と「GIGAスクール構想」の推進(令和2年6月初旬~12月頃)
令和2年6月、文部科学省は「新型コロナウイルス感染症対策に伴う児童生徒の『学びの保障』総合対策パッケージ」を打ち出しました。まさにコロナ禍の状況にあっても、いかに「学び」を保障していくか、その課題を整理し、施策として明示したといえます。ここでは授業を協働学習など学校でしかできない学習活動に重点化し、限られた授業時数の中で効果的に指導を行うこと、個人でも実施可能な学習活動等は授業以外の場で実施できるようにすることなどが指摘されています。いうなれば学校と家庭、集団と個人、これらの教育活動にメリハリをもって学校が計画を組み替えていく必要性が強調されたといえます。
また、人的・物的体制の緊急整備(第二次補正予算案に計上)を進めることが明示されました。人的には、教員、学習指導員、スクール・サポート・スタッフを追加配置することであり、物的にはパソコンないしタブレットの「1人1台端末」の早期実現、家庭でもつながる通信環境の整備など、いわゆる「GIGAスクール構想」の加速度的な推進を明示しました。
これまでにも学校における有線・無線LAN環境の整備は進められてきていましたが、学校と家庭をICT環境で結ぶという課題が持ち上がり、そのために急きょ、各家庭の通信環境状況の把握が課題となりました。つまり、この6月の段階で令和2年秋以降に予想される第2波(実際には第2波は夏に発生)に備えてオンライン学習が可能になるように、学校をサポートしていく視点も明示されていました。
実際には、令和2年の夏には、いわゆる第2波が発生しますが、その後、この波が収まると、周知のように秋にはいわゆるGo Toキャンペーンが展開されるなど、経済をいかに回していくかという課題も並行して議論されるようになっていきました。学校教育の場においても、運動会や部活動、修学旅行といった感染リスクの高いと思われる活動には制限を加えながらも、授業等については感染に注意しながら、通常の状態に戻せるものは戻していくための工夫や努力がなされたといえます。
その意味では、この段階(令和2年6月~12月末頃)では、学校と家庭を結ぶオンライン環境について、確かにハード面とソフト面の課題や問題が明らかとなったといえますが、しかしながら、そのオンラインによる教育活動が本格的になったとまではいえないと指摘できます。一方、大学の方は、オンラインによる授業の割合が高くなると、学生がキャンパスにおける対面授業や各種活動を求めるなど、対面・遠隔授業の割合が議論されるようになりました。
大学について、令和2年度後期の授業で対面・遠隔授業を併用する予定の大学等に対する調査結果は以下のとおりでした。ほとんど対面173校(20.4%)、7割が対面94校(11.1%)、おおむね半々212校(25.0%)、3割が対面209校(24.6%)、ほとんど遠隔161校(19.0%)という予定になっていました(国公私立大学(短大含む)、高専、計849校。調査期間8月25日~9月11日)(「大学等における本年度後期等の授業の実施と新型コロナウイルス感染症の感染防止対策について(周知)」「別添:大学等における後期等の授業の実施方針等に関する調査」(令和2年9月15日))。
「ウィズコロナ」における学校教育の運営課題の明確化(令和2年12月頃~令和3年7月頃)
令和2年12月3日に文部科学省は「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~『学校の新しい生活様式』」の改訂版を通知しました。このマニュアルは、令和2年5月22日に発出されて以来、数か月単位で小刻みに改訂がなされていましたが、上述の12月3日の改訂版では、感染者が発生した場合の臨時休業の考え方が再整理されています。つまり、「感染者が発生したらまず臨時休業する」としてきた対応を見直し、臨時休業の要否を保健所と相談の上、真に必要な場合に限って行う旨を明記しました。
よって、これまでのように画一的な対応によって一律に臨時休業とするのではなく、健康と安全に最大限に配慮し、感染防止を徹底することで子どもたちの学校での学びを維持していく方向を明確にしたといえます。いわゆる「ウィズコロナ」の学校教育の推進へと明確に舵(かじ)を切った、そうした考えを明確化したといえます。
こうしたウィズコロナの考え方は学習指導のあり方においても明確に反映されることとなります(「感染症や災害の発生等の非常時にやむを得ず学校に登校できない児童生徒の学習指導について(通知)」(令和3年2月19日))。
この通知では、まず、「平常時から非常時を想定した備え」、つまり、ICT・オンラインの活用について、平常時から準備し、非常時に対応できるようにすることの重要性を確認しています。次に、感染症や災害の発生等にあっても、実情を踏まえながら教育活動の再開ができるようにすることの重要性を指摘しています。
そして臨時休業や出席停止等の場合、「学習に著しい遅れ」を防ぐとともに、「一定の期間児童生徒がやむを得ず学校に登校できない場合」、「ウェブ会議システム」などの活用によって、「指導計画等を踏まえた教師による学習指導と学習状況の把握を行うこと」が重要であるとしています。
この場合で重要な点は、要件として①「指導計画」に位置付き、②「教師が児童生徒の学習状況及び成果を適切に把握」できているものであれば、「当該内容を再度学校における対面指導で取り扱わないこととすることができる」としていることです。もちろん定着が不十分である児童生徒には補習等が求められることになりますが、臨時休業中にオンラインで行った授業内容を、改めて登校が可能となった授業日において、必ずしも再度取り上げる必要がないとされることで、授業進度の停滞を緩和できる処置といえます。なお、「オンラインを活用した学習の指導(オンラインを活用した特例の授業)」であることの記録をしっかりととる必要があります。
こうした学習指導の考え方を踏まえて、学校運営に関するガイドラインも改訂されました(「新型コロナウイルス感染症に対応した持続的な学校運営のためのガイドライン〈改訂版〉」(令和3年2月19日))。
初版策定時(令和2年6月5日)と上記改訂版の違いとしては、以下の点が特に指摘できます。それは「臨時休業の実施の考え方」です。それまで「児童生徒等や教職員の感染が確認された場合、学校の設置者は、濃厚接触者が保健所により特定されるまでの間、学校の全部又は一部の休業を実施する」(初版)としていました。しかし、「直ちに臨時休業を行うのではなく、感染者の学校内での活動状況を踏まえ、保健所に臨時休業の実施の必要性について相談する」(改訂版)と明記され、設置者による適切な判断と、必要な範囲の臨時休業にとどめることが確認されています。もとより、緊急事態宣言が出された場合には、知事からの要請があるわけですが、この場合でも、学校の設置者は「首長と十分相談を行い、臨時休業の必要性について判断する」とされています。