茨城大学大学院教育学研究科教授 加藤崇英
はじめに
新型コロナウイルス感染症の流行は、現在(本稿執筆時)まで、全世界における社会・経済、あらゆる業界・分野を巻き込んで、また家庭や生活の隅々にまで多大な影響を与えてきました。我が国の学校教育においてもその影響は計り知れません。
以下では、新型コロナウイルス感染症の影響が、我が国の学校教育に対していかなる影響を与えてきたのか、法体系や国・都道府県・市町村の行政体系を前提として、学校現場の課題と児童生徒・保護者及び教職員に対する影響などについて説明したいと思います。なお、基本的な観点について範囲を絞り、かつ、まだ多くの皆さんの記憶には新しいところとも思われるので、なるべく時系列的に追っていきます(以下での学校とは、特段の断りがなければ、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校等の学校全般を指します)。
全国一斉休校の要請と学校再開までの模索(令和2年2月末頃~6月初旬)
令和2年2月27日、新型コロナウイルス感染症対策本部の決定に基づき、当時の安倍晋三内閣総理大臣は、全国の学校に対して一斉休校を要請することを表明しました。これは翌週の3月2日月曜日から春休みまでを臨時休業とするものでした。これを受け、文部科学省は、全国の学校の設置者に対し、一斉の臨時休業を要請する通知を都道府県教育委員会等に発しました(「新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における一斉臨時休業について(通知)」(令和2年2月28日))。
この通知は、春季休業の開始日までの間、臨時休業(学校保健安全法20条)を行うように要請するものでした。そのため、児童生徒である子どもたちにとっては、新年度の学校が始まるまで、さらにその後の延長もあるなど、春季としては前例のない長期の休みとなりました。
4月16日の緊急事態宣言を受け、91%の学校が臨時休業となりました(4月22日)。さらに、5月4日の緊急事態宣言の延長を受け、86%の学校が臨時休業となりました(5月11日)。ようやく6月1日の段階で、98%の学校が再開となりました(6月1日)(いずれも文部科学省発表の調査結果及び発表日)。
ここで法令的にいえば、学校閉鎖又は学級閉鎖の決定について、その権限は学校の設置者(公立学校であれば、自治体・教育委員会)にあります。つまり学校保健安全法20条においては「学校の設置者は、感染症の予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部又は一部の休業を行うことができる」とされています。学校の設置者によるこうした権限は、例えば、季節性インフルエンザの流行に伴ってこれまでにも行使されてきたといえます。しかし、今回、異例であったのは、首相からの要請や文部科学省の通知による指導・助言の形をとりながらも、まさに全国一斉になされたということです。ですが、臨時休業の実施そのものは、これまでの法令にのっとっているといえます。
ただ、学校が予防すべき感染症の段階でいえば、新型コロナウイルス感染症は、危険度の高い第1種(エボラ出血熱など12種類)と同等とみなされています(学校保健安全法施行規則18条)。この点では、危機管理の度合いは非常に高く、こうした衛生管理上の課題は大きいといえます。
学校教育そのものについては、教員は指導計画等を踏まえて、プリント類はじかに届けるか、メール配信する、さらには各家庭に電話をしたりするなど、この時期は従来からのやり方を中心として児童生徒の家庭での学習の充実に配慮したといえます(「新型コロナウイルス感染症対策のために小学校、中学校、高等学校等において臨時休業を行う場合の学習の保障等について(通知)」(令和2年4月21日))。確かに一部の学校では、ICTの活用も模索され始めたとはいえますが、やや時期尚早の面が否めず、むしろ学校再開に備えていた段階といえます。
また補足すれば、大学では5月の連休の前後から授業を再開できたところが少なくありませんでした。これは学生のBYOD(Bring your own device:自分の手持ちの機器を持ち込むこと)を進めていたこと、オンライン会議ができる業務システムを取り入れていた大学はこれをすぐに授業用に転用できたこと、また、オンラインやオンデマンド等による授業(単位認定を含む)ができる制度環境を整備してきたこと(大学設置基準25条1項及び2項関連)など、これらの条件をある程度そろえることができていたためです(ちなみに筆者の所属する大学は、4月30日からオンラインによる授業を開始することができました)。