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2019.03.25 議会運営

二元代表制の調整制度としての 「再議」の運用の実態とその課題(1)~「再議」運用の全体的な傾向を把握する~

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2 再議権行使の状況

2-1 データ内容と再議の定義
 まず、再議権がどの程度行使されているのか、その全体的な推移、傾向を把握することとする。
 調査方法は、自治月報に依拠しつつ、適宜、他の資料でカバーする。自治月報は、2~3年程度を調査期間に設定して集計しており、再議の件数等が連続的に入手できるものは昭和49年度分調査からである。ただ、再議日が明記されるようになったのは、昭和59年度分以降であり、それ以前は、再議日が調査期間内に生じたことのみが掲載されている。
 このようなことから各年度推移が把握できるのは昭和59年度以降であるが、それ以前の分についても年度平均という形で必要に応じて考察することとする。 また、前述のように考察の主たる対象は一般的再議であるが、年度推移は、全体の推移や比較をするため特別的再議をも集計して掲載する。
 なお、一般的再議は、従来の条例・予算関係のみから、平成24年地方自治法改正(以下「平成24年法改正」という)によりすべての議決事件に拡大された(再可決要件は、条例・予算以外は過半数)。長や議会の考え方の相違を解消していく手法である再議がそれほど活用されていない実態を踏まえて措置されたものとされる
 特別的再議の対象は、表1で整理しているが、その要件により3種類あり、いずれも長はその要件を認識した場合には、再議が義務付けられている。再議の結果、同様の議決になった場合(通常の過半数議決で足りる)の効果、とりうる措置もそれぞれ異なる。
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 ①は、議決等の違法性が問われているので、再議により同様の議決になっても確定はしない。この場合は、市町村長(知事)は議決の日から21日以内に知事(総務大臣)に審査を申し立てることができ(法176条5項)、知事(総務大臣)は、審査の結果、当該申立てに理由がなければその棄却をし、理由があれば当該議決等の取消しの裁定をする(同条6項)。その裁定に不服な場合、長にあっては議会を、議会にあっては都道府県(国)を被告として裁定の日から60日以内に裁判所に出訴することができる(同条7項)。知事(総務大臣)の裁定や裁判所の判決は議会の議決の時点に遡って効力を有することになる。また、これらの手続に移行しなかった場合には、その期限の経過時点で議決が確定することになる。
 ②、③は、義務的経費等が削除・減額された場合の再議である。②は、再度、削除又は減額が議決された場合は、長はそれに従うことなく、長が原案として提出した経費・収入を予算に計上して執行することができる(法177条2項)。予算議決主義の例外となる特異な制度であり、国の法令に基づく経費の執行を議決なしに機関たる長に委ねる強固なもので、機関委任事務時代の名残の制度ともいえよう。③は、これらの経費を否定することは長への不信任の議決に同視しうるとする制度である。 なお、再議の対象として、特別的再議は、その要件から理解できるように議案の否決の議決も含まれるが、これに対して、一般的再議については、「長が執行者の立場においてそのような効果(執行上一定の効果を生ずる効果)を生じることに執行上承服しがたい故をもってこれを拒否する性質のものであるから、否決された議決については、執行上なんらの効果も生ぜず、かかる議決について再議に付すことはあり得ない」として、否決された議決は対象外と解されている。
 以下では、①を違法再議、②・③を義務費等再議と呼び、集計するものとする。

2-2 再議運用の全体的な傾向
(1)事例集計・考察上の整理~自治月報の問題点と調査方法
 以上のような整理を前提として、経年的な再議件数を集計すると表2のようになる。集計した区分の表記は次のような考えによっている。
 一般的再議による結果は、長の再議の結果、法定数を満たす採決には至らず「廃案」になるケースと、再可決され議決が「確定」するケースとに分かれる。
 自治月報の直近版(58号。平成26~27年度分)では、「再議の結果」の区分が、「再議を認容」、「前の議決どおり再議決」、「当該事件不成立」、「修正議決」の4つになっている(以前はそれ以外の区分もあった)。これらの区分についての説明・定義が見当たらないので、自治体が判断して報告する形になっていると思われる
 「前の議決どおり再議決」は文字どおり、長が再議をしても再可決要件をクリアして再議対象の議決が「確定」したものを指すものと思われる。「再議を認容」は、長が再議権を行使した結果、法定数を満たさず、再議対象の議案が「廃案」になったもの、すなわち、長が異議を唱えたことで長の意向が「認容」されたという趣旨に推測される。しかしながら、「認容」というのは、再議権の行使を認容したとも理解できるので正確性を欠く表現である。本考察では、「認容」は整理上「廃案」に、「再議決」は「確定」として集計する。
 「当該事件不成立」という区分は、再議の結果、議決が廃案になったものであろうと想定されるが、議会が再議に応じず審議未了となる(この場合は当該議案自体が廃案になる)など再議自体の行使が何らかの都合で成立しなかったとも想定されるし、前の議決が確定し長の再議のねらいが阻止されたとも解釈できる。また、「認容」との区別も不明である。
 「修正議決」という区分は、おそらく、再議によって再議対象の議決が廃案になった後に、当該議決部分を除く議案全体の議決がなされる際に、議員から修正提案がなされてそれが可決され、決着をみたものと想定される。しかしながら、修正は廃案後の対応であり、再議自体の効果は「廃案」として整理しないと意味のある考察にはならない(なお、次回では平成24年度分以降の事例についての再議後の対応を含む詳細な考察を行うが、同年度分以降の事例では「修正」は「廃案」として整理している)。
 次回で詳細に紹介するが、例えば、議員が発案し可決された一部改正条例が再議により廃案になった山口県山陽小野田市事例(再議日平成25年2月28日)について、自治月報では「当該事件不成立」とされているが、これは「再議を認容」、すなわち「廃案」として区分すべきであった。さらには、滋賀県甲良町事例(再議日平成27年9月18日)や大阪府河南町事例(再議日平成27年12月18日)は、自治月報ではそれぞれ「前の議決どおり再議決」とされているが、実際に議事録等で確認してみると、再議により廃案とされており、そもそも結果が誤って報告・集計されている事例も少なくない。
 「修正議決」や「当該事件不成立」の解釈自体、調査担当の総務省行政課に問い合わせても十分な整理がなされていないようであり、かつ、自治体がそれを独自に解釈して提出した資料を精査せずに掲載しているものと思われる。
 次に、特別的再議のうち、違法再議については、再び可決されたものを「再可」と表記する。再可決されても確定せずに、長は知事(総務大臣)に審査を請求することができるが、「再可」のうち審査請求されたものをその内数として「(審査)」として整理する。再可決されても「(審査)」に移行せず、長においてそのまま執行する例もある。
 また、再議の結果、議会が長の意向を取り入れて、違法議決を修正して対応する例も多く、これを「修正」とした。
 義務費等再議は、再可決されたものを「再可」とし、修正されたものを「修正」と表示した。再可決されたものは、長提案の原案が執行されたことが多いようであった。
 以上、全体的な傾向を把握するためには自治月報によらざるを得ないが、明らかに論理矛盾がある事例等については適宜、修正して集計した。

(2)調査期間全体の傾向(表2)
 期間全体の42年間で再議件数は480件で、年度平均で11.4件という状況であった。そのうち、一般的再議が256件(53.3%)、特別的再議が224件(46.7%)と、ほぼ同程度であり、特別的再議のうちでは違法再議が165件(73.7%)と、7割を超える状況であった。
 まず、一般的再議であるが、種別としては条例が全体の65%を占めている。平成24年法改正により条例、予算以外の議決も一般的再議の対象となったが、平成24年に神奈川県葉山町が総合計画基本計画の議決について再議を行っている1件のみという状況である(表では、種別欄では除外し「一般計」で計上している)。
 再議結果は、「廃案」が全体の58%程度と、相当の部分を占める。次に、再可決し「確定」したものが20%、さらに、「修正」されたものが9%であった。前述のように「修正」は再議の議決後の手続となるものであり、「廃案」、「確定」と並び区分することは不正確になる。そのため次回で詳細に事例調査を行う平成24年度以後は、「修正」は除外し、「廃案」と「確定」のみとして整理しているが、同年度以前の事例については、自治月報の整理を基本に「修正」を加えて掲載している。「他」は、考察をするには不正確と思われる事例を計上している。
 次に、特別的再議である。まず、違法又は議会の権限を逸脱した議決である場合に長が再議を義務付けられている違法再議は、議会側の判断としては改めて再可決するか、長の再議の趣旨を踏まえて、修正して議決するかに分かれる。結果として、ほぼ半数が修正の上で議決している。このうち多くを占めるケースとしては、議長は採決に加われない(法116条2項)のに加わってしまった事例(新潟県妙高市事例:再議日平成15年9月12日、徳島県鳴門市事例:再議日平成16年6月9日)、監査委員の選任で関係議員は除斥により採決に加われない(法117条)のに加わってしまった事例(福岡県嘉麻市事例:再議日平成15年6月12日)などがあり、再議決では当該議員を除斥して適法な議決をし直しているのが実態である。
 そして、近年では、これらのケースは少なくなり、議会がその権限を超えて議決したとされる事例に対する違法再議が比較的多くなってきている(名古屋市事例:再議日平成22年9月9日等)。この場合に、再可決した場合は、一般的再議とは異なり、確定はせず、それに対して長が不服である場合は、知事(総務大臣)に対して審査を申し出ることができることになっているが、再可決された74件のうち、31件(42%)において審査の申出がなされている。逆にいうと、違法であると認識して再議に付したが、再可決されたことにより、約6割において、長はそれ以上の措置を断念しているということでもある。
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(3)経年的な推移(図3・図4)
 再議全体として、全期間42年間の年度平均は、11.4件となっている。昭和58年度以前の10年間の年度平均が8.4件であり、それ以降の期間が12.4件であること、そして図3に示すように昭和59年度以降の経年的な傾向を踏まえると、再議は増加傾向にあることが確認できる。政府の平成24年法改正の提案理由には、再議は活用されていないという認識があったわけであるが、実際の経年的なデータからは増加傾向を示していることが分かる。
 再議の種別としては、図4に示すように、特別的再議は全期間を通じて横ばいであるが、一般的再議は、平成12年度を境に増加傾向が顕著であることが分かる。これは地方分権一括法施行が当該年度であることを踏まえると、地方分権の進展と一般的再議の増加傾向が一致するように見えることも興味深いことである。
 また、再議全体として、「平成の合併」により市町村数が激減したのにもかかわらず、増加傾向を示していることも同様に興味深い。
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(4)一般的再議結果の動向(図5)
 一般的再議の再議結果については、平成10年代以降は、長の再議により廃案になるケースが多くなってきている(図5)。
 総括すると、再議は全体的に増加傾向であり、その内訳として、一般的再議のウェイトが大きくなり、長の意図した方向で議会の議決が廃案になっている再議結果のケースが、これらを押し上げていると思われる。
 以上の再議の全体的な傾向を見ると、一般的な認識とは若干異なる様相を示していること、また、長に優位な制度運用になっていることが今回のデータからは読み取れるが、次回は個々の再議事例に焦点を当てて、どのようなものがその対象となり、また、どのような結果をもたらしているのかについて、詳しく考察していくこととしたい。
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⑴ 第2次地方(町村)議会活性化研究会『分権時代に対応した新たな町村議会の活性化方策~あるべき議会像を求めて~最終報告』(平成18年4月)51頁。
⑵ 第2次地方(町村)議会活性化研究会・前掲注⑴52~53頁。
⑶ 再議のみを単体で検討考察したものとしては、大西永俊「地方議会における再議制度」(地方自治380号(1979年))、最近では今井良幸「地方自治における『再議』制度についての一考察─否決された議案は再議の対象にはならないのか─」(岐阜経済大学論集46巻3号(2013年))等を数える程度である。
⑷ 会議において一度議決した案件と同一の案件については再び同一会期中に議題として取り上げて審議や議決を行うことはできないという原則である。地方自治法には明文の規定はないが、条理上承認されている考え方である。再議はその例外として法律上認められたものといえる。
⑸ 必ずしもすべてのデータが提出されておらず、漏れも見られる。これはこの種の調査ではあり得ることであるが、例えば、平成27年に、自衛隊基地誘致に関する住民投票条例に関して再議が繰り返された沖縄県与那国町事例(再議日:平成26年11月28日、12月19日)や、当初の議決に反対を示した議員が再議では賛成に回り、その結果、再議が確定するという特徴的な奈良市事例(再議日:平成28年3月30日)など、マスコミにも注目され、また、考察を加えるのに極めて重要な事例が漏れていることもある。
⑹ 第180回国会・衆議院総務委員会(平成24年8月7日)における久元政府参考人の答弁では「地方行財政検討会議や地方制度調査会などでいろいろな議論をさせていただきましたけれども、そのときに明らかになりましたのは、再議制度はほとんど使われていない、それに対しまして、専決処分は非常に幅広く使われているということであります。今回の〔筆者注:再議の〕制度改正は、再議制度が、長と議会との見解が異なるときに、長が議決に対して反論を行うことを通じて議会の議論が活性化する、そして熟議が深まるということを期待しているものであります」と、専決処分に比べての再議制度の運用状況を問題にして、制度改正に至ったことを説明している。
⑺ 松本英昭『新版逐条地方自治法〈第8次改訂版〉』(学陽書房、2015年)592頁。
⑻ 筆者が総務省担当課に問い合わせて区分の説明を求めたが、明確な説明は得られなかった。


(※本記事は「自治実務セミナー」(第一法規)2019年2月号より転載したものです)

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