第4 おわりに
現在、各自治体において、臨時・非常勤職員の職を洗い出し、職の分類をようやく終え(特別職等に残留、会計年度任用職員への移行、任期付職員への移行等)、給付の設計に取りかかりつつあるところと思われる。総務省マニュアルは、その際のひとつの参考ではあるが、総務省の解釈にとどまるものであって、具体的な職の分類及び給付の設計は、各自治体の解釈によることとなる。その際、「雇用が安定している」(23)常勤職のほかに、任期が1年に限定される会計年度任用職員の設置が許容されるゆえんは何なのかを考えていく必要がある。それは、雇用の調整弁なのか。それとも、働き方の多様性として認められたものなのか。これまで、やや、雇用の調整弁的に、又は経費節減の便法として、特別職非常勤職が用いられてきたきらいがあるが、これは、是正されなければならないであろう。会計年度任用職員は、常勤職員のサブとして認められたもので、本格的業務以外の業務にのみ就かせることができると考えるのか。しかし、本格的業務とそれ以外を截然(せつぜん)と区分することは難しそうである。また、自治体にずっぷりとコミットすることはできないが、可能な範囲で再度の任用を経て、充実した職業生活をしたいという者もいるであろう──そのような者には、本格的業務又はこれに準ずる業務を遂行してもらうこともあるかもしれない。その場合には、先に見た上限の設定はずいぶんと先にしないといけない。
また、地方公務員に労働契約法やパートタイム労働法は適用されていないものの、公の秩序となりつつある「同一労働同一賃金の原則」への顧慮を失念しないことが重要である──通勤手当等の費用弁償の面で常勤と非常勤に格差を設けるような事例もあるように聞くが、説明がつかない。
最後に、本稿では触れることができなかったが、今回の改正に対応するための(特に、会計年度任用職員の給付関係)条例を中心とする例規の整備も重い作業といえる。人(職の整理)、金(財政との調整)、法(例規)の各方面で自治体の力が試される一大プロジェクトということができる。
⑴ 改正法の施行に向けて、総務省は、平成29年8月に「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル」(第1版)を、平成30年10月に「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル」(第2版)を公表している。本稿では、後者を「総務省マニュアル」と略称し、必要がある場合に前者を「旧マニュアル」と略称する。
⑵ 特別職非常勤職が常勤職とほぼ同様の執務をしているということそのものが問題であり、そして、この問題は、特別職非常勤職の移行先のひとつである会計年度任用職員が担う仕事
はどうあるべきか、ということに通底していく。すなわち、正職員や任期付職員が担うべき職務を非常勤職に担当させることの是非である(後記)。
⑶ 非常勤職員の給付について定める地方自治法203条の2(当時)によれば、非常勤職員には期末手当、退職手当その他の手当を支給することができないとされていた。
⑷ このほか、当該非常勤職員が希望すれば、特別の事情のない限り、非常勤嘱託等の定年に関する要綱ないし非常勤職員の任期に関する要綱によって定められた定年ないし更新停止年
齢に達するまでの間、毎年任期の更新を重ねて受けることができたことも考慮された。
⑸ このような制度の下においても、非常勤職員に期末・勤勉手当相当額を支給している例は多く存在したともいわれる──その例が、前掲の裁判例である。
⑹ 非常勤職員に手当を支給することができないことが、先に見た裁判例で論点となったのである。
⑺ 立法前から正社員と非正規社員との不合理な格差の是正を図るための公序として解釈論が展開されていた「同一労働同一賃金の原則」は、2007年以後、いわゆるパートタイム労働
法や労働契約法の改正により、実定法化された。労働契約法20条では、有期と無期とで労働条件と相違する場合においては、その相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任
の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲(要するに、人材活用の仕組み)その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないとされている。パートタイム労働者について、同様の規定として、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条がある。更に、同法9条は、通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止を定めている。これらの規定は、平成30年の法改正によって、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条、9条に統合された。これらの法律の考え方は、「同一労働同一賃金ガイドライン案」(平成28年12月20日)で知ることができるし、また、「ハマキョウレックス事件」最高裁判決(平成30年6月1日)で研究すべきものである。
⑻ ただ、総務省マニュアルによれば、国勢調査等の調査員を地公法3条3項3号で読むとしており、「専門的な知識経験又は識見を有する職」だけに限定されるのかどうか、疑問の余地もある。
⑼ 選考とは、競争試験以外の方法で、応募者の能力を実証するための方法であって、制限はない。面接や口頭試問等が考えられる。
⑽ もっとも、実務的には、職員としての勤務実績を重視した選考でも差し支えない。
⑾ パートは、営利企業への従事等の制限の対象外と規定されている(新地公法38条1項ただし書)。これは、パートは、極めて短時間のみ公務に従事する場合があること、生計の安定等の観点から、一律に制限しないこととしたものである。
⑿ 条文上「できる規定」とされているが、総務省マニュアルは、会計年度任用職員に相当する国の期間業務職員においては97%に期末手当が支給されていること、同一賃金同一労働の
考え方を踏まえると、任期が相当長期(6か月以上を目安)にわたる会計年度任用職員に対して支給することが適当として、制度設計上、ほぼマストに近いことを示唆している。
⒀ 理論的にいうならば、特別職非常勤職員の中には労働者としての実質を有する者が大勢いたのであり、それらの者については、その実質に鑑み、もともと、本文のような処遇をする
ための制度設計が必要であったということができる。そして、その必要性が任用根拠の変更に伴い顕在化したということができよう。
⒁ 職の整理・分類をしてみて、正職員、任期付(短時間)職員に移行する場合もあろうし、漫然と職を存続させて再度の任用をしてきたところ、これを再検討し、職を廃止することもあろう。
⒂ 行政区長を一般職非常勤職とする例もあるし、庁内のスタッフとするのでなく、その仕事を自治会の仕事と位置付ける例もある。
⒃ ただ、自治体によっては、行政区長の研鑽(けんさん)の機会を設ける例もあるようであるから、それによって、専門的な知識経験を習得させたといえる場合もあろう。また、行政区長の仕事は、基本的には刷り物の配達等の連絡的な事項であるが、地域住民の要望を広聴して、首長に助言をすることもあるとすれば、特別職に位置付けることが法的に不可能かといえば、最終的には、各自治体の判断であろう。
⒄ 行政区長は地元の名士であるところ、一般職に移行すると、政治活動の制限のために、当該選挙区において、選挙の際、特定の候補者への投票依頼ができなくなるという不都合もある。そこで、行政区長を一般職として任用している自治体では、選挙時に、行政区長を辞任してもらい、選挙終了後に、任用するというプラクティスをとっているとも側聞する。
⒅ 守秘義務を課すべき職務や、地域を代表して発言する仕事は、委託に際し、除外することになろうか。
⒆ 正規職員の業務を非常勤職員が引き継いで遂行する例もある。勤続20年の嘱託職員も相当数いるのであって、正規職員よりも困難な業務を的確に処理する者もいるであろう。
⒇ 翻って、消費生活相談員も、会計年度任用職員として任用することが否定されないように思うのである。
(21)会計年度任用職員(フル)の給料については、行政職給与表等の1級や2級の部分に位置付け、又は当該部分を切り取る形でフル専用の給与表を作成することが考えられる。いずれにしても、自治体は、これまでの単一号給から、学歴も前歴も考慮して給付を決定する給料表のどこに位置付けるかを悩んでいる。
(22)同箇所では「2年程度の期間をかけて段階的に引き上げる取扱いとすることが考えられる」とするが、必ずしも、2年の猶予期間しかないと決めつけたものではないであろう。
(23)地方公務員については雇用という法形式は用いられないが、比喩的な、分かりやすい用語を用いた。
※本稿は「政策法務Facilitator」61号(2019年2月)から転載したものです。