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立法事実から見た条例づくり

2018.11.12 政策研究

野洲市くらし支えあい条例(下)─消費者安全のための法環境を条例が先導して創造する─

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6 条例が立法事実として法律を動かす可能性

 本条例は、着実に施行され、「くらし支えあい」の実現が進んでいるように見える。訪問販売登録制度も、混乱することなく、むしろ好感を持たれる中で施行されている。
 一方で、訪問販売登録制度を含めた事前参入規制の導入が見送られた特商法は、その見送られる議論の過程で、登録に係るコストの大きさが難点として指摘されていた(23)
 登録制度をどのようなものとして設計するかによって異なるが、少なくとも本条例では、そうした難点は克服され、悪質事業者の排除という課題に対して効果を挙げている。本条例がこれから積み上げていく実績は、先駆的な法環境をつくり、特商法等の法律に対して立法事実として影響を及ぼす可能性が大いにある(24)

7 おわりに

 2000年地方分権改革は、国と自治体の関係を、上下主従から対等協力の関係へ転換させることを目指すものであった。筆者は、この2000年改革によって、法律と条例の関係も、対等協力の関係になったと理解すべきものと考えている。2000年改革により設けられた地方自治法2条13項が、自治体が地域の特性に応じて事務処理ができるよう特に配慮しなければならないと法律の側に制約を課した立法原則は、このことを意味している。法律が「条例で定める」と規定するのは、上位にある法律が下位にある条例に一方的に委任していると考えるのではなく、法律の側から条例の側に地域特性に応じた対応について協力を求めていると考えるべきである。
 そして、対等協力の関係であるならば、条例の方から法律に対しアクションを起こすことも可能であり、本条例が定める、法律に先行し法律を先導する意味のある訪問販売登録制度や市長による法律上の処分等の求めは、まさにこのアクションである。本条例は、一方で法律の規定の不足しているところを独自に補い、他方で法律の適正な執行を促す仕組みを設けているのである。ここには、法律と条例の関係を協力関係と見る発想のあることがうかがわれる。
 こうした条例からのアクションが、今後、他の自治体にも他の行政分野にも広がって、住民のくらしにとってより豊かな法環境が創造されていくことを期待したい。
 野洲市市民生活相談課の生水裕美氏と久保田直浩氏には、市民生活総合支援のために奔走され、ご多忙中にもかかわらず、丁寧に対応していただき、有益な情報を提供していただいたことに深く感謝申し上げる。


(10) 久保田直浩「野洲市くらし支えあい条例」自治体法務研究2017年春号57頁を参照。
(11) http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20150806_1.pdf
(12) 久保田直浩「野洲市消費者安全確保地域協議会に関する取組」判例地方自治425号(2017年)98頁を参照。
(13) 岡田博史『地方自治・実務入門シリーズ 自治体コンプライアンスの基礎』(有斐閣、2017年)は、本条例の有識者ヒアリングのメンバーの執筆によるものであり、56頁で、全国共通の問題であっても、「条例が法律よりも先行してより厳しい規制をすることは、その必要性と相応の合理性を有する限り、立法事実が存在すると言える」としている。
(14) 田中孝男「条例の立法事実とは何か(総論)」自治体法務NAVI 58号(2014年)37頁は、法環境を条例の立法事実の要素であるとしている。
(15) 前掲注⑵第4回専門調査会の資料1の8頁。
(16) 登録事業者は野洲市のホームページ(http://www.city.yasu.lg.jp/soshiki/shiminseikatsusoudan/kurashisasaeaijyourei/houmonhanbai_tourokujigyousya.html)で公表されている。
(17) 礒崎初仁『自治体政策法務講義〈改訂版〉』(第一法規、2018年)204頁は、法律との関係で条例が適法であるか違法であるかについての分かりやすい判断フローを提示している。
(18) 甲斐道太郎=松本恒雄=木村達也編集代表『消費者六法〈2017年版〉』(民事法研究会、2017年)。
(19) 田中・前掲注⒁38頁は、組織環境を条例の立法事実の要素であるとしている。
(20) 宇賀克也『解説 行政不服審査法関連三法』(弘文堂、2015年)262頁。
(21) 「茶のしずく石鹸」による小麦アレルギー被害への消費者庁等の対応に関して2011年11月24日に日本弁護士連合会の会長が声明を発表している(https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2011/111124.html)。
(22) 岡田・前掲注⒀112頁。
(23) 第5回専門調査会の議事録23頁(http://www.cao.go.jp/consumer/history/03/kabusoshiki/tokusho/senmon/005/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/06/09/20150527_gijiroku_1.pdf)を参照。
(24) 圓山茂夫「訪問販売業の参入規制─特定商取引法への登録制導入の可能性」明治学院大学法学研究101号(2016年)143頁は、本条例の今後の成果が特商法への参入規制導入の議論の参考になるであろうとしている。

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