1 本稿の意義
連載「立法事実からみた条例づくり」は、平成26年から、『自治体法務NAVI』誌及び本誌で26回にわたり進めてきた。この約5年の間に、事例も一定程度の蓄積をしてきた。そこで、この連載期間中に見られるようになった立法事実に関する判例・理論の動向を概観し、併せてこれまでの連載各回の内容から感じられることを示し、これからの条例の立法事実研究に関する所見を示すことにする。
なお、文献の紹介は、筆者の能力的限界により限られたものとなっていることをあらかじめおわびする。
2 立法事実に関する判例・理論の展開
近年の立法事実に関する判例・理論は、私見では、①違憲判決における立法事実の再注目、②立法学・立法論としての立法事実論の充実、③法形式別の立法事実論形成の萌芽、をその特徴としている。
(1)違憲判決における立法事実の再注目
周知のとおり、日本において立法事実論は、憲法違反に関する司法審査の方法論として論じられることが多かった。薬事法違憲判決(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁)が、立法事実の審査をして法律を違憲と判断した最初の判決と位置付けられた。なお、薬事法は、現在「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と名称変更しており、また、内容も違憲判決当時のものとは大幅に変わっている。
この薬事法違憲判決以降は違憲判決それ自体が少なかったので、判決が立法事実の(変化による)欠如を理由として法律を違憲とするものは多くなかった。憲法論における立法事実論も、筆者の認識では、(憲法学者でないために誤解があるかもしれないが)活況を呈していたとはいえないものであった。
ところが、比較的近年、婚外子差別国籍法違憲判決(最大判平成20年6月4日民集62巻6号1367頁)、非嫡出子法定相続分差別違憲決定(最大決平成25年9月4日民集67巻6号1320頁)、再婚禁止期間違憲判決(最大判平成27年12月16日民集69巻8号2427頁)という違憲判決が下された。これらの違憲判決において判決文(法廷意見)は、「立法事実」という文言を使用してはいない。しかし、いずれの判決も、立法事実の変化により少なくともその合理性が失われたことを、違憲と判断するための重要な事実として捉えている。法律が違憲かどうかという判断にとって立法事実が重要な役割を担っているといえ、理論も立法事実に対して関心を改めて向けてきているように思われる⑴。
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