ウ 訪問販売の定義は市民感覚に沿ったもの
登録制度の目的からいえば、市民にとっては、訪問してきた事業者が登録されている事業者であることが重要である。そこで本条例では、特商法のような業種ごと、取引態様ごとの細かで広範な適用除外を設けず、訪問販売の定義は「事業者がその営業所等……以外の場所において、契約の申込みを受け、又は契約を締結して行う商品等の販売又は有償による提供……をいう」とし、市民感覚に沿うようシンプルなものになっている。2017年3月の改正により除外されたものも、国や自治体が行う販売等、弁護士などの8業士が行う役務の提供、宗教団体や政党がその活動の一環として行う販売行為などに限定されている。そのため、特商法よりも対象が広くなっている。
(3)市長による国や滋賀県等の行政機関に対する処分等の求めなどのアクション
第2章第3節は「消費者被害の予防及び解決の促進並びに再発防止を図るための取組」について定めている。事業者に対して、その結果についての公表の仕組みを効果的に織り込んだ、苦情処理のため消費生活センターへの来庁と説明等を求めることや、消費者被害の発生又は拡大の防止を図るため改善の要請を行うこと等を規定するとともに、国や滋賀県等の行政機関に対して行う「処分等の求め」の規定を置いている。
処分等の求めは、消費者安全法その他の消費生活の安全に関わる関係法律の規定に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導がなされていないと思料するときは、行政手続法36条の3第1項、これに相当する滋賀県の行政手続条例等の「何人も処分等を求めることができる」とする旨の規定を活用して、「市長が」法律や滋賀県等の条例に対する違反の事実を申し出て、当該処分を行う権限を有する行政庁又は行政指導の権限を有する行政機関に対し、当該処分又は行政指導を求めるものである。
これは、法律上の処分等の権限を有しない市町村が、消費者被害の防止等のために制定されている法律や他の自治体の条例の全てを動員し、国や滋賀県等の行政機関と連携して法律等を実効あるものにするための仕組みである。
行政手続法36条の3第3項には、申出を受けた行政機関に調査を行う義務があることが規定されており、その調査の結果及び処分等をした旨の通知があったときは、その通知の内容を公表する。その通知の内容に疑義があり質問した場合の回答についても、また通知がなくその理由の説明を求めた場合の回答についても、さらにその回答がなかった場合にはその旨についても、公表することができるとしている。調査が行われなかった場合や処分等が行われなかった場合も、同様の方式で、公表をすることができるとしている。
(4)消費生活の安全についての見守りのネットワークの構築
ア 消費者安全確保地域協議会による適当な接触を保った見守り
第2章第1節で組織された消費者安全確保地域協議会は、市役所の高齢者福祉や障がい者自立支援などを所管する課等、社会福祉協議会、警察署、民生委員児童委員、介護サービス事業所、障がい福祉サービス事業所、医療機関及び滋賀弁護士会を構成員とすることを要綱で定めている。消費者安全法11条の4では、この協議会の構成員は、消費者安全の確保のため、消費生活上特に配慮を要する消費者と適当な接触を保ち、その状況を見守ること等の必要な取組みを行うこととし、この取組みに関しその配慮を要する消費者に関する情報は、構成員の間で提供し合うことができるとしている。この情報提供の規定には、各自治体が定める個人情報保護条例の第三者提供の禁止の規定をクリアする意味がある。
その上で、消費者安全法11条の2第1項は、この協議会の取組みに必要な場合には、自治体の長の求めにより、消費者庁が特商法等に基づいて立入調査を行った場合等に入手した、過去に消費者被害に遭った高齢者等の氏名や住所が記載されている、いわゆるカモリストの情報の提供を受けることができるとしている。野洲市では、この情報提供を受けて、各構成員がそれぞれの業務においてすでに見守り対象者として把握している市民のリストと突合して、「見守りリスト」を作成し、各構成員がそれぞれそのリスト登載者をピンポイントで見守ることとしている(12)。
イ 見守りネットワークによるゆるやかな見守り
さらに、本条例第3章では、市が協力事業者及び協力団体(自治組織やNPO法人など)と協定を締結し、それぞれがその日常業務の中で、消費生活上特に配慮が必要であると認められる市民、生活困窮者等(生活困窮者自立支援法が対象とする経済的困窮だけでなく、地域社会からの孤立その他の生活上の諸課題を抱える市民をいう)及びこれらと同様の状況に至るおそれのある市民の「ちょっとした異変」に気づいたら連絡をしてもらい支援について連携を図る「ゆるやかな見守り」を行うとする「見守りネットワーク」を構築している。訪問販売の登録事業者も協力事業者となることが期待されている。本条例では、このような二重の見守りの仕組みを構築し、条例中の他の施策を下支えしている。