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2017.11.10 政策研究

LGBTの権利保障にとっての地方自治体の役割

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3 地方自治体からのアプローチ

 これに対して地方自治体のなかには、2003年頃から性的指向、性自認に関連する施策を実施するところが現れ、2015年のLGBT元年を境に急速にそれが拡大し、メニューも豊富になってきているのが注目される。日本におけるLGBT法制化モデルの転換は、実は地方から始まっていたのであり、渋谷・世田谷ショックはその延長線上に位置づけられる。全国1,738自治体を対象(811自治体が回答)に実施した政策アンケートの結果(2016年4月〜7月実施)が公表されているので、主にこれに依拠しつつ、日本の地方自治体ではどのような施策が行われているのかを整理してみたい(谷口洋幸・石田 仁・釜野さおり・河口和也・堀江有里2017 『全国自治体における性自認・性的指向に関連する施策調査(2016(平成28)年4月〜7月実施)報告書』科学研究費助成事業「日本におけるクィア・スタディーズの構築」研究グループ編、2017年8月、http://alpha.shudo-u.ac.jp/~kawaguch/seisaku_chousa.pdf)。
 上記調査の統括責任者である谷口洋幸によれば自治体が実施するLGBT施策には、大きく分けて「研修」、「啓発」、「文書化」の3つの方向性がある。研修とはLGBTに関する理解を深めるための職員などへの研修の実施を指す。地元の当事者団体などの協力を得て、職員向けに研修を実施するケースがある。
 啓発とは、LGBTへの理解を促進する目的で住民を対象に講演会やシンポジウム、講座などを実施する取組みである。LGBT支援宣言を出した大阪市淀川区では、2013年から継続的に啓発イベントを開催し、コミュニティスペースを開設するなどの先進的取組みを行っている。啓発のための宣伝媒体を作成する自治体もある。淀川区では教職員向けのLGBTハンドブック「性はグラデーション」を作成し、サイト上に公開している(2016年2月、http://www.city.osaka.lg.jp/yodogawa/page/0000334762.html)。
 文書化とは、自治体が制定する男女共同参画関連などの条例、男女共同参画や人権擁護関連の基本計画や指針、プラン、宣言などに、性自認、性的指向に関連する文言を書き入れるものである。条例に書き入れている自治体が、富士市、八女市(いずれも2004年4月)を筆頭に、27件に上る。このうち倉吉市の「部落差別撤廃とあらゆる差別をなくす条例」を除いて、ほかはすべて男女共同参画関連の条例のなかに規定されている。
 これらの条例において使われている文言は、「性同一性障害を有する人やその他多様な性」、「性同一性障害者等」、「性的指向又は性自認に起因する差別」、「LGBT」、「多様な性」、「セクシャル・マイノリティ」、「その他マイノリティ」などがある。当初は性別特例法の施行を受けて「性同一性障害者」だけを明記する例が多かったが、その後、次第に性的指向なども含む包括的な文言へと変化している。当然、これら条例の制定が議員の質問をきっかけとしているケースも多いと想像される。
 さらに、計画・プランや指針などの文書にLGBTに関連する何らかの文言を含めている自治体が188、文書数で235件に上る。なかには複数の文書で言及している自治体もある(群馬県5件、福岡県3件など)。このうち男女共同参画関連が108件、人権擁護関連が110件、その他が19件となっている。群馬県の場合、「第15次群馬県総合計画 はばたけ群馬プランⅡ」(2016年)、「群馬県生活安心いきいきプラン」(2016年)、「人権教育・啓発の推進に関する群馬県基本計画」(2005年)、「群馬県男女共同参画基本計画(第4次)」(2016年)、群馬県人権教育充実指針」(2016年)の5件である。東京オリンピック・パラリンピックの開催が近づくなか、千葉市の「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた千葉市行動計画(改訂版)」(2016年)では、「性別等多様性理解の促進」に言及しているのが注目される。周知のとおり、オリンピック憲章では性別、性的指向などを理由とする差別が禁止されている(オリンピズムの根本原則6)。東京オリンピックの開催地となる自治体では、LGBTに関する施策が急務であり、とりわけ開催都市たる東京都には対応が強く求められる。
 これらの計画・プラン、指針で用いられる文言としては、「性同一性障害(障がい)」が117自治体(135文書)、「性的指向」が80自治体(88文書)、「性的マイノリティ」が52自治体(58文書)、「性的少数者」が48自治体(55文書)、「同性愛(者)」が46自治体(51文書)、「性の多様性、多様な性」が40自治体(44文書)、「LGBT」は32自治体(33文書)となっている。なお、最初にLGBTという文言を採用したのは、京田辺市の「第2次京田辺市男女共同参画計画」(2011年)だとされる。
 本調査によると、最も古い文書は2003年の「福岡県人権教育・啓発基本指針」である。それから2014年までは毎年数件から20件程度の出現数に低迷した後、2015年には31件、2016年には一挙に103件と急増した。まさに2015年をLGBT元年と称するゆえんである。今年はより多くの文書が制定されていると想像され、オリンピック・パラリンピック開催を控え、今後も各自治体が競うようにLGBTを文書化する局面が現れるものと思われる。
 また、先述の大阪市淀川区の「LGBT支援宣言」(2013年)を嚆矢(こうし)として、首長が宣言を出してLGBTフレンドリーをアピールする動きもある。現在までのところ、那覇市「性の多様性を尊重する都市・なは」宣言(2015年)、関市「LGBTフレンドリー宣言」(2016年)、浦添市「レインボー都市うらそえ宣言」(2017年)、豊明市(2017年)「LGBTともに生きる宣言」などへと拡大している。
 自治体が実施しているその他の施策メニューとしては、大阪市淀川区や札幌市などのように、LGBTの当事者(及びその関係者)に向けた電話相談窓口を設置している自治体がある。淀川区「LGBT電話相談」では第1から第4水曜日17時から22時まで、札幌市「LGBTほっとライン」は木曜日16時から20時に電話相談を受け付けている。LGBT(及びその関係者)専用の相談窓口が必要かどうかについては異論もありうるが、LGBTに関する認識を持たない可能性のある一般の窓口に、当事者が問題を持ち込むことには高いハードルがあり、利用を期待することは現実的ではない。多くの自治体が住民にLGBTの市民がいることを実感できなかったのはこのためである。その意味では淀川区や札幌市の試みは画期的なものといえる。
 さらに、札幌市では「札幌市LGBTフレンドリー指標の実施に関する要綱」を定め、2017年10月1日から全国の自治体では初めてとなる「LGBTフレンドリー指標制度」をスタートさせた(http://www.city.sapporo.jp/shimin/danjo/lgbt/sihyo.html)。これは企業などの事業所でのLGBTに関する取組み(基本方針、啓発、内部体制、福利厚生、配慮、協力連携など)について、その内容を星1つから星3つまでの指標により評価し、その結果を登録するというものである。登録を受けると、登録証が交付され、取組内容について市のホームページなどで広報される。これにより企業におけるLGBTに関する取組みを促進させ、個性や多様性を認め合い、誰もが生きがいと誇りを持つことができるまちの実現を狙っている。自治体が職場環境の変容を促進させようとする独創的な試みであり、その効果のほどが注目される。

札幌市作成の啓発パンフレット札幌市作成の啓発パンフレット

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