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2017.11.10 政策研究

LGBTの権利保障にとっての地方自治体の役割

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2 LGBT法制化にモデルチェンジの胎動

 これまで日本では、2003年に制定された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下「性別特例法」という)を除いて、LGBTの当事者が存在することを想定した法制を欠き、法や行政の領域においてLGBTを完全に視野の外に置いてきた。この点で欧米やイスラム圏では伝統的に男性同性間の性行為に刑罰を科す法を持つなど、ネガティブな方向から同性愛者の存在を法的に位置づけていたのとは対照的である。つまり、これらの国では二級市民ながら、法的な主体として可視化されていた。その後、合意による成人同性間の性行為は非処罰化され、さらにLGBTに対する差別を禁止し、進んで権利を平等に保障するための法制が整備されていった。いまや世界中で同性カップルを法的な家族として扱う同性パートナーシップ法や婚姻を同性間にも開放する法改正が相次いでいることは、周知のとおりである。2017年5月24日、台湾司法院大法官会議は同性間に婚姻を認めていない民法について、婚姻の自由を奪い、法の下の平等に反するとして違憲との判断を下し、2年以内の法改正を命じた。これにより台湾は、アジアで最初に婚姻の性中立化を実現する国となることが確定した(鈴木賢「アジアで一番乗り、台湾で同性婚実現へ」法律時報89巻9号(2017年)4頁参照)。同性婚の波はついに隣国にまで到達したのである。

図 LGBT法制化のモデル論図 LGBT法制化のモデル論

 これに対して日本ではLGBTを法的主体として扱うことが一切なかったために、法律により差別を禁止したり、権利を保障するという発想自体が生まれにくかった。二級市民どころか、市民としての資格すら与えられていなかったのである。ところが、日本では伝統的に性の多様性に寛容な社会であったとの俗説がまことしやかに語られ、「欧米に比べれば同性愛者にとって生きやすい社会」(水野紀子東北大学教授、毎日新聞2015年5月15日)との指摘まである。たとえば、「古来、わが国で性的指向・性自認の多様なあり方が受容されてきた」(自民党・性的指向・性自認に関する特命委員会「わが党の基本的考え方」2016年4月27日)、といった具合である。
 確かに日本には異性装や性別越境、双性原理を当然のように受け入れる文化が古くからあったとされる(三橋順子『女装と日本人』講談社現代新書(2008年))。しかし、これは趣味や遊びの世界のことであり、人間存在の本質にかかわるアイデンティティとしての性自認や性的指向の多様性が公的に承認されていたわけではない。現在では性的特質は、日本でもその人間の本質にかかわる重要なアイデンティティの構成部分と解されている。先述の俗説は、まさに性的指向(sexual orientation)と性的嗜好(sexual preference)を混同する過ちを犯しているのである。日本のLGBTには政治社会を構成する市民としての資格が付与されていなかったために、権利保障モデルへの法制のモデルチェンジには、LGBTが二級市民扱いされていた欧米社会よりも、むしろより大きな困難を伴うというべきである。
 とはいえ、2003年性別特例法の制定、2015年の渋谷・世田谷ショックを経て、日本にもようやくLGBT法制化にモデルチェンジの兆しが現れている。自民党に2015年「LGBTに関する課題を考える議員連盟」(馳浩会長)、2016年「性的指向・性自認に関する特命委員会」(古屋圭司委員長)が、旧民主党にも2015年に「LGBTに関する政策検討ワーキングチーム」(西村智奈美座長)が発足した。その結果、民進党など野党4党の共同提出議案として「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」(差別解消法案)が国会に提出され、自民党の方でも「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案要綱」(理解増進法案)がまとめられた(両法案の詳細については、鈴木秀洋「性的少数者に関する二法案の比較考察(1)(2・完)」自治研究93巻7号、8号(2017年)参照)。
 しかし、両法案の審議は前には進まず、動きは停滞したままでである。今般の衆議院議員選挙の公約には自民党ですら、「性的指向・性自認に関する広く正しい理解の増進を目的とした議員立法の制定を目指すとともに、各省庁が連携して取り組むべき施策を推進し、多様性を受け入れていく社会の実現を図ります」と書き入れたものの、立法化がすぐに進展する気配はない。ましてや、衆議院議員選挙前にLGBT法連合会が実施した政策アンケート(http://lgbtetc.jp/news/773/)では、自民党は「憲法24条の『婚姻は、両性の合意のみに基いて成立』が基本であり、同性婚容認は相容れないものです。また、一部自治体が採用した『パートナーシップ制度』についても慎重な検討が必要です」と答えている。議席の圧倒的多数を占める政権与党がこのような態度である限り、少なくとも短期的には同性カップルに対する法的承認が、国レベルで進展する見通しは立たないのが現状である。

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