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立法事実から見た条例づくり

2017.10.10 政策研究

災害対策法制と自治体の条例(上)

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2 災害対策法制の現状と課題

 災害対策法制に関しては構造的な問題があるといわれている。これまで大きな災害があるたびに対症療法的に改正が行われてきたが、根本からの制度見直しは行われてこなかった。災害対策基本法は、伊勢湾台風をきっかけに制定されたが、台風は一過性であり、すぐに収まって対策がとれるが、今日の災害は、大規模化・広域化・複合化し、しかも、その復旧・復興には長期間を要し、当時とは社会的な状況がかなり変わってきているにもかかわらず、その当時の考え方が基本的にまだ残っている。災害対策基本法制定以来50年以上が経過し、局所的改正では対応できなくなっているのである(11)
 このため、これまで「災害対策法制のあり方に関する研究会」(平成23年に6回開催)、「防災対策推進検討会議(12)」(中央防災会議の専門調査会)、中央防災会議等の場で、災害対策法制の見直しについての議論が行われ、今後30年以内に発生のおそれが高まっている南海トラフ沿いの東海・東南海・南海地震や首都直下の地震等の広域・大規模災害について、最悪の事態が発生した場合においても、国全体として的確にリスク・マネジメントが行えるように災害対策法制度を整備しておくことが必要不可欠となってきている(13)
 なお、東日本大震災以降の災害対策法制等の見直しについては、その後、災害対策基本法に関しては、第1弾(平成24年6月27日公布)、第2弾(平成25年6月21日公布)と改正が行われているが、本稿では紙数の関係等もあり、別の機会に委ねることとし割愛させていただく(14)
(1)広域・大規模災害に対応していない災害対策法制
 我が国の災害対策法制は、大規模災害が発生するたびに、それに対処するための法令の制定や改正、さらにそれを受けて自治体の条例制定や改正等が後追い的に行われてきたため、いわばパッチワーク的な法体系になっており、今までに経験したことがない東日本大震災のような広域・大規模災害には十分に対応できなかった。また、第一次実動部隊、第一義的な防災責任が被災市町村になっており、今般のように市町村自体が被災して職員や庁舎等が失われる事態が想定された法制度とはなっていない。
 このような限界に対処し、今後の発生確率が高いといわれている東海・東南海・南海地震が連動してマグニチュード9クラスの地震と大津波が発生した場合や首都直下の地震などに備えるためには、広域・大規模災害にも対応できる法体系に見直す必要に迫られている(15)
(2)災害救助法改正の課題
 災害救助法の問題点のひとつとして、時系列的区分が明確でないことが挙げられる。時系列的区分とは、初動期・応急期・復旧期という区分である。このような区分がないがために、本来は復旧期に位置付けるべき事象を、応急期の規定として対応するといった事態が生じてしまう。例えば、応急仮設住宅と応急修理は、本来は復旧期の事象であるにもかかわらず、応急期の法律である災害救助法に位置付けられている。これらを災害救助法から削除し、復旧期に焦点を当てた新たな法体系に整理すべきではないかという指摘がなされている(16)


(1) 平成21年版防災白書(http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h21/bousai2009/html/honbun/1b_1s_1_01.htm)。
(2) 文部科学省地震調査研究推進本部地震調査委員会「平成28年(2016年)1月1日を基準日として算定した地震の発生確率値」(http://www.jishin.go.jp/evaluation/long_term_evaluation/chousa_16jan_kakuritsu_index-2/)。
(3) 今日では、これまでの大規模災害の教訓をもとに、決して十分とはいえないものの、多種多様な法整備が行われており、本稿ではそのごく一部の分野についてしか取り上げることができないことをお断りしておく。
(4) 藤井亮二「基金制度の沿革と課題(1)─社会保障政策として始まった基金制度─」立法と調査№366(2015年)74頁以下。
(5) 藤井・前掲注(4)75頁。
(6) 災害救助法の概要については、「災害救助法について」(平成27年5月28日)内閣府資料1−3(http://www.bousai.go.jp/taisaku/kyuujo/pdf/h27kaigi/siryo1-3.pdf)2頁参照。なお、防災行政・災害対策全般については、災害対策制度研究会『図解 日本の防災行政 改訂版』ぎょうせい(2004年)を参照されたい。
(7) 災害救助法施行令(昭和22年政令225号)別表第1(第1条関係)参照。「災害救助法の概要」については、内閣府ホームページ防災情報のページ(http://www.bousai.go.jp/taisaku/kyuujo/kyuujo.html)参照。
(8) 「災害対策基本法の概要」については、内閣府ホームページ防災情報のページ(http://www.bousai.go.jp/taisaku/kihonhou/index.html)参照。
(9) 新発田市災害救助条例3条1項には、救助の種類として、①避難所の設置、②炊き出しその他による食品の給与及び飲料水の供給、③被服、寝具その他生活必需品の給与、④被災者の救出、⑤応急仮設住宅の設置、⑥被災した住宅の応急修理、⑦障害物の除去が規定されている。
(10) 改正の内容等の詳細は、消防防災博物館ホームページ「阪神・淡路大震災を踏まえた災害対策関係法令の整備」(http://www.bousaihaku.com/cgi-bin/hp/index2.cgi?ac1=B101&ac3=4539&Page=hpd2_view)などを参照されたい。
(11) 内閣府ホームページ防災情報のページ「災害対策法制のあり方に関する研究会第1回会議資料」(http://www.bousai.go.jp/kaigirep/kenkyu/saigaitaisakuhousei/1/index.html)。生田長人「防災法制度の構造的課題と展望」日本不動産学会誌29巻4号(2016年)41頁以下。
(12) 平成24年7月31日にその最終報告書が出されている。内閣府ホームページ防災情報のページ「中央防災会議・防災対策推進検討会議について」(http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/suishinkaigi/index.html)参照。
(13) 島田明夫「東日本大震災にみる災害対策法制の課題」消防科学と情報112号(2013年春季号)10・11頁。
(14) 村田和彦「東日本大震災の教訓を踏まえた災害対策法制の見直し」立法と調査№345(2013年)125頁以下等を参照されたい。
(15) 島田・前掲注(13)17頁。
(16) 島田・前掲注(13)15頁。

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