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立法事実から見た条例づくり

2017.08.10 政策研究

地域ごとに異なる立法事実 ──民泊規制の緩和と規制の維持

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5 台東区の事例

 民泊の推進は、宿泊事業機会の拡大となるが、地域住民にとっては、生活環境の悪化等を招くおそれもある。
 そこで、地域の実情を踏まえて、直ちに規制の緩和をするのとは異なる対応をする自治体も存在する。例えば、台東区は、2016年3月末に議会の全議員による提案条例として、台東区旅館業法施行条例の改正を行い、営業時間中は営業施設に営業従事者を常駐させることや帳場の設置義務付けを新たに行っている。区議会の議事録によれば、すでに行われている民泊の多くは、旅館業法の許可を得ず、ごみ出しや騒音などに関して近隣の住民とトラブルにもなっていることや、他区で無許可営業の宿泊施設として使用したマンションのベランダからの転落事故も起きていることを、立法事実としている。
 規制を強化してもかえって無許可営業が増加して規制の効果が得られない可能性もあり、地域住民の生活環境維持が規制の維持・強化だけで実現するわけでもない。各地域では、民泊の実態などを踏まえ、実情に合った現実的な施策を立案実施していかなければならないだろう。

6 おわりに

 冒頭にも述べたように、住宅宿泊事業法(仮称)の検討など、民泊をめぐる法体系は今後さらに変わってくる。この新しい法律と民泊をめぐる地域独自の規制の関係は、法律と条例をめぐる新たな関係を問うことになるかもしれない。
 また、2016年10月の特区民泊における最低滞在期間の短縮により、福岡市でも改めて特区民泊の検討に着手することがあり得る。
 以上の本稿をまとめるに当たり、インタビュー、資料提供などで福岡市保健福祉局生活衛生課の小野課長、佐野氏、出口氏の協力を得た。御礼申し上げる。なお、本稿中の福岡市における取組みの評価に係る記述は筆者の責任によるものである。福岡市関係者の所見を示すものではない。


(1) 田中孝男「条例の立法事実とは何か(総論)」自治体法務NAVI58号(2014年)37~38頁参照。
(2) 平成28年3月30日付け生食発0330第5号各都道府県知事等宛て厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部長通知「旅館業法施行令の一部を改正する政令の施行等について」より。
(3) これについては、田村泰俊「民泊サービスの法的課題」法学教室2016年12月号(435号)43~47頁を参照。
(4) 本稿の文脈では、嶋田暁文「制度化の政治学─制度化アリーナの重要性と分権改革の意義」自治総研2009年1月号(363号)1~38頁(特に19~29頁)を参照。
(5) 例えば、京都市産業観光局が2016年5月に発表した「京都市民泊施設実態調査について」は、市内における無許可民泊営業が全体の約7割(1,800件余り)と推測している。
(6) ただし、宿泊施設不足と空き家問題の立法事実が異なることにつき、田村・前掲注⑶47頁を参照。
(7) その他法施行令1条3項1号の改正を反映した床面積基準の算定方法の変更や、簡易宿所営業のうち宿泊者数10人未満の申請施設の場合には、公衆衛生上支障がないと認められる範囲で、基準の緩和や適用除外を設けることができるという制度改正が行われている。
(8) 2016年2月22日の福岡市議会第3委員会議事録より。
(9) 2017年1月10日のインタビューでは、法7条による立入検査権は、許可を受けた営業者を対象とするもので、市(長)に無許可営業者に対する立入権限や調査権は認められていないことも課題として指摘されていた。
(10) 2016年9月9日福岡市議会定例会議事録より。
(11) 全国的には、福岡市よりも早く2016年6月の議会で関係条例の改正を済ませたところが相当数ある(北九州市、名古屋市、千葉市等)。
(12) 大阪市条例は、そのほか、このような規制緩和により許可された民泊事業者に事前説明会の開催義務を条例で課すなどしている。また、北九州市条例は、福岡市で規則事項としている管理要領の内容を条例で規定している。
(13) 静岡市がその例である。

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