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立法事実から見た条例づくり

2017.08.10 政策研究

地域ごとに異なる立法事実 ──民泊規制の緩和と規制の維持

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4 福岡市の条例改正

(1)条例制定過程(必要性の立法事実)
 福岡市では2013年3月に「福岡 観光・集客戦略2013」を策定しており、現在は年間200万人(2015年実績)もの外国人観光客が訪れている。
 2015年12月に、大型イベントが2回あり、宿泊施設が不足することが見込まれた。そこで市では、試行的な取組みとして市内の自宅を宿泊施設として提供してもらう民泊を市民に要請した。これは、2015年7月1日に厚生労働省から出された事務連絡通知、すなわちこのような自治体の要請を受けた年1回(2~3日程度)の民泊については、宿泊料を得ても旅館業法は適用されないとの事務連絡通知の内容を踏まえたものであった。
 福岡市は2014年5月に「福岡市 グローバル創業・雇用創出特区」(国家戦略特区)として指定されていた。そこで、当時は特区民泊も検討中だったようだが、その最低滞在期間が7日以上と活用が難しいことや、2016年春に法施行令の改正がなされる旨の情報を得ていたため、2015年12月のときは、このイベント時の民泊要請制度による試行的な対応をしたとのことである。この制度は、実際には、市が22件の市民に民泊の要請をし、利用は4件9名というものであった(8)
 その後、2016年4月の法施行令改正を受け、市長からは粛々と対応すべきことが提示された。その点で、福岡市旅館業法施行条例(以下「本件条例」という)の改正の方向はよく固まっていたといえる。
 また、この間、民泊仲介サイトに登録される福岡市における宿泊施設が急増していたこと、無許可の民泊については市で実態を把握することができなかったこと(9)なども、本件条例改正の立法事実であったと考えられる。2016年4月から7月末までで民泊サービスに関する苦情が21件あり、夜中に騒がしいとか、見知らぬ外国人が出入りしていて不安といった内容であったとの議会答弁がなされている(10)
 改正案の内容は、後記のとおり、管理要領の改正内容に準じていたし、条例を複数の部局が所管していたわけではなかったので、市内部の検討は迅速であったといえるのではなかろうか。条例改正案は、2016年7月にはパブリック・コメントに付されていた(11)。これに対し17通24件の意見提出があったが、意見を踏まえて原案を変更した箇所はない。また事前に、市では、市のホテルや旅館で構成する組合にも条例改正につき、個別に意見を徴したとのことである。
 改正条例案は、2016年9月の議会に提案され、同月20日賛成多数で可決、同月26日に公布された(同年12月1日施行)。市では、条例運用に関わる内規の整備や、関係規則(福岡市旅館業法施行細則。以下「本件規則」という)の改正を行い(同年11月10日公布)、条例の施行期日を迎えた。
(2)改正制度の主な内容(合理性・非法令抵触性の立法事実)
ア 虫食いホテル回避規定の緩和
 福岡市の独自的規定と思われるが、改正前の本件条例には、ホテル営業の構造設備基準として「施設は、玄関……宿泊者等の用途に供する施設を一体的に管理することができる構造であり、かつ、住居その他の施設と明確に区画され、これらが混在していない構造であること」との規定があった(虫食いホテル回避規定)。
 改正後は、混在に関して規則で定める要件を満たす施設についてはこの限りでないとした(以上につき本件条例3条9号関係)。この規則で定める要件は、「営業の許可を受けようとする者が施設を営業の用に供するための権原を有していること」とされている(本件規則4条)。
イ 簡易宿所営業施設関係
 簡易宿所営業施設関係では、次の規制緩和がなされた。
ア 帳場設置義務
 改正前の本件条例では、当該施設につき、一律に帳場設置を義務付けていたが、これに、「ただし、宿泊者の定員が10人未満の施設であって、健全な営業形態及び宿泊者の安全の確保に関し規則で定める要件を満たすものについては、適当な規模の玄関を有すること」との緩和規定を追加した(改正後の本件条例5条2号ただし書)。当該規則で定める要件は、管理要領における帳場設置緩和の条件①(代替設備等の措置)と②(事故等発生時の対応体制の整備)をほぼ踏襲した(本件規則5条1項1号及び2号)。ここでいう代替設備等の措置、事故等発生時の対応体制の整備の内容その他必要な事項は、市長が別に定めるとしている(同条2項)。
 同項を受け、①代替設備等の措置として、(ⅰ)ビデオカメラ等の設置により宿泊者の出入状況が確認できること、(ⅱ)事故対応時等のための管理事務所の設置、(ⅲ)宿泊者名簿の記載などが、また②事故等発生時の対応体制の整備として、(ⅳ)施設と管理事務所との間に通話機器が設置されていること、(ⅴ)施設が管理事務所から速やかに駆けつけることができる範囲であること、(ⅵ)マニュアルを整備することといったことが市長の定めとされている。これらの詳細な基準についても、さらに、例えばⅴについては10分以内(目安:徒歩は1分80メートル)といった詳細な事項を定めている。
 インタビューによれば、具体的な審査事項については、事業者から意見を聴取し、遵守可能なものをすり合わせして作成したようである。無許可民泊の実態把握が困難な市として合理的な基準策定のために現実的な方策をとったものと思料される。
イ その他
 その他、本件条例の改正にあっては、一の客室の床面積は4.5平方メートル以上とあった従前の規定に、宿泊者の定員が10人未満の施設についてはこの限りでないという緩和規定を置いたり(改正後の本件条例5条4号)、共同浴室に1.6平方メートル以上の面積を有する脱衣室が付設されていることとあった従前の規定に、宿泊者の定員が10人未満の施設については適当な広さの脱衣室が付設されていることという緩和規定を追加したりしている(改正後の本件条例5条5号)。
ウ 法制執務的合理性(形式的合理性)
 市内部での検討は、帳場設置の例外基準を条例でどこまで規定すべきかが議論されたとのことである。実際、福岡市では規則やそれより下位の市長の定めに相当する事項のかなり多くを、条例事項としている自治体もある(12)。逆に緩和につきあまりにも包括的な委任規定による自治体もある(13)。本件条例の場合、例えば、市長の定める基準不充足を理由として許可申請が拒否され、その後の無許可営業を理由に刑事起訴されたときは、罪刑法定主義が問題となるかもしれない。もっとも、多様な民泊形態が想定され、これらに対して適宜適切に判断できる基準を設定する必要があるときは、本件条例中の「健全な営業形態及び宿泊者の安全の確保」の規定ぶりが法制執務的には合理的な場合も、考えられよう。
(3)制度改革の効果等
 インタビュー(2017年1月10日)時、改正条例施行後1か月間で、旅館業法による許可申請の相談は130件に上り、実際に2件申請が出されていた。本件条例の改正によって劇的な許可申請増加が生じているわけではない。
 これは、仮に旅館業法上緩和された新基準は満たしていたとしても、建築基準関係法令で用途変更が必要になったり、共同住宅に適用されていた容積率の緩和がなくなったり、居住用ではないということで固定資産税の減額特例を受けられなくなったりしたり、マンションでは民泊が規約に反して行えないことがあったりするなど、他の法令による制約も考慮しなければならないことによると思われる。インタビュー時は条例施行後間もなかったので、もう少し時間的な経緯を見なければ条例の効果を見極めるのは難しい。
 なお、福岡市の場合、旅館業法に関わる実際の問合せについては、まずは、各区役所の保健福祉センター衛生課が所管する体制となっている。

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