3 民泊規制緩和の展開
(1)民泊規制緩和の流れ
民泊の規制緩和は、グリーンツーリズム(の中での農泊・農村民泊)の推進(4)にも関わるが、今回の法施行令改正については、次の流れの中で進められたと考えられる。関連の国(政府)の動きを簡単に見ていくと、次のようになる。
2013年12月に国家戦略特別区域法が制定され、特区での外国人滞在施設経営事業について旅館業法の適用除外が認められた(特区認定や規制の特例に関する同法の関係規定は2014年4月1日施行)。
その後、2015年6月、規制改革会議から規制改革に関する第3次答申がなされ、民泊の規制緩和に関わる諸提言がなされた。政府はこれを受け、2016年6月に、「規制改革実施計画」を閣議決定した。同計画では、新たな民泊サービス法(前記の住宅宿泊事業法)の制定を盛り込み、その中で、既存のホテル・旅館に対する規制の見直しについても、民泊に対する規制の内容・程度との均衡も踏まえ、早急に検討するとされた。
こうした国策の背景には、無許可営業など法の規制を逃れる違法民泊の横行(5)、外国人観光客の急増への対処、2020年東京オリンピック・パラリンピックを控えた宿泊施設不足の解消、空き家活用の思惑等々の事実が認められると思われる(6)。
(2)2016年の法施行令等の改正
2016年3月30日に公布された政令98号(同年4月1日施行)により、法施行令1条3項1号の客室延床面積基準は、33平方メートル以上の基準の例外として、法の許可申請時に宿泊者数が10人未満の場合は、3.3平方メートルに宿泊者数を乗じたものとの規定が加わった。
同時に、管理要領も改正され、客室幅員2メートル以上という基準は「2メートル以上が望ましい」に、玄関帳場は設置することが望ましいが、宿泊者数10人未満の場合に、次の①と②の両方を満たすときは、玄関帳場を設けることを要しないとされた(7)。
① 玄関帳場に代替する機能を有する設備を設けることその他善良の風俗の保持を図るための措置が講じられていること。
② 事故が発生したときその他緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていること。
法施行令改正通知には、玄関帳場の設置について、弾力的な運用や条例の改正等の必要な対応について、特段の配慮をするようにとの文言が付されていた。
(3)各地における条例整備
2016年の法施行令改正及び管理要領改正時点で、各県の法施行条例改正については、次の事項が問題となった。第1は、法施行令旧1条3項1号と同じ客室延床面積基準を衛生基準として条例で規定している場合、これを改正法施行令と同様の内容とすべきかどうかである。第2は、帳場規定がある県では、管理要領と同様に、小規模な民泊対応のため、帳場規定を削除したり、帳場設置義務に係る緩和規定を置いたりするかどうかである。後者がより重要なテーマになっていると考えられる。なお、福岡県など、従前から帳場規定を持たない県も見られた。
(4)特区民泊
2016年法施行令改正に関連する重要なものとして、特区民泊制度がある。これは、国家戦略特別区域として指定された区域が、特区民泊について定める区域計画につき内閣総理大臣の認定を受けたときは、その区域で外国人旅行客などを対象とした民泊の事業(外国人滞在施設経営事業)を行おうとする者が知事の認定を受ければ、旅館業法の許可を受けないで民泊の事業を行えるという仕組みである(国家戦略特別区域法13条)。2013年に国家戦略特別区域法の制定により特区民泊が制度化され(2014年4月施行)、2016年1月に東京都大田区が、同年4月に大阪府が、これをスタートさせていた。
特区民泊の所定の要件(施設基準など)は、国家戦略特別区域法施行令12条に規定されており、そこでは(かつて)最低滞在期間を7~10日において県条例で定めるものとされていた。その他所要の事項が、認定された地域の「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」にて整備されている。なお、国家戦略特別区域法施行令の改正により、2016年10月31日から、条例で定める最低滞在期間は、3~10日に短縮されている。
2017年2月23日現在、大田区、大阪府(34市町村)、大阪市、北九州市の4区域で、特区民泊制度が導入されている(同月24日の内閣府地方創生推進事務局作成資料より)。