むすび
自治法等の一部改正についてガバナンスの強化、とりわけ住民や議会との関係での活用の視点から、可能性と留意点を述べてきた。すでに指摘したように、抜本的な改革ではなく、今回の改正点、第31次地制調答申との関係に絞って確認してきた。この視点から活用できることは、少なくない。それぞれの自治体の現実を踏まえて(総括して)、活用可能な項目を取り上げてほしい。自治法等の改正は「上から」降ってきたように感じられるかもしれないが、自治体の悩みの表出を受けたものである。また、「上から」降ってきたものでも、そのままでは川や海に流れ込むだけであるが、活用の仕方によっては肥沃な土壌をつくり豊かな作物を実らせる。自治法等の改正を議論し、活用できるものは活用し、その上で新たな改正を現場から提案してほしい。
【附記】「地方自治法等の一部改正と住民自治(下)」は、参議院総務委員会において筆者が参考人として陳述した内容、及び委員からの質問に応えた内容に基づいている。同委員会議事録も併せて参照していただきたい。
【後掲資料】国会における助言を大臣に義務付ける意味と大臣による助言の範囲
① 助言を大臣に義務付ける意味
「加えまして、この指針や助言には法的拘束力はないものでございまして、各地方公共団体の監査委員は、この指針や助言を踏まえつつ、地域の実情に応じた監査基準を定めることも可能だというふうに考えているところでございます。あくまで、総務大臣が助言として行う、その総務大臣の責務を定めたものでございます。」(黄川議員に対する安田自治行政局長答弁、2017年5月16日 衆議院総務委員会)
「したがいまして、単に地方公共団体の問い合わせに応答するということにとどまらず、総務大臣の責務として、各地方公共団体が監査基準を策定する際に参考となる指針を示して助言を行うということにしているものでございます。ただ、この場合であっても、先ほど来御答弁申し上げておりますように、指針、助言には法的拘束力がなく、義務づけているのは総務大臣に義務づけているというだけでございますので、地方公共団体の自主性、自立性や監査上の裁量権を損なうということになるとは考えていないところでございます。」(近藤議員に対する安田自治行政局長答弁、2017年5月18日 衆議院総務委員会)
「まず、今回の改正案による改正後の百九十八条第五項に基づく助言でございますけれども、これは二百四十五条の四に基づく技術的な助言と同じ内容、同じものでございます。今回、わざわざつくったということでございますけれども、これは、地方公共団体の監査のあり方に関する認識を共有しながら、全国的な監査の質の向上を図るという観点から、総務大臣に助言を行う責務を課するという意味で、この新しい条文を設けているということでございます。したがって、内容の点におきましては、助言は技術的助言と相違はないわけでございます。」(同)
「それで、先ほど、本来の技術的助言と助言の違い、実質的には違いはないんだけれどもという説明が局長からございましたけれども、やはり技術的助言として大臣に任意の権限を与えている助言と違って、今回は総務大臣にむしろその責務を課す助言でございますので、地方公共団体で参考にしていただきながら、あくまでも地域の実情に応じた監査を可能とするものでございます。」(近藤議員に対する高市総務大臣答弁、2017年5月18日 衆議院総務委員会)
「現行制度におきましても、技術的な助言というものは各大臣が任意で行うことができることとされておりますが、今回の改正案では、監査の質を高めること、住民の監査に対する信頼向上を図るため、総務大臣の責務として、監査に関する考え方を指針として示し、これに関連した必要な助言を行うということにしています。この指針や助言には法的拘束力というものはありませんので、各地方公共団体の監査委員の方々は、この指針や助言を踏まえつつ、地域の実情に応じた監査基準を定めていただくということが可能でございます。むしろ大臣に対して責務を課したものであり、大臣による関与が強まるというものではなく、また、地域の自主性、自立性を損なうものとは考えておりません。」(田村議員に対する高市総務大臣答弁、2017年5月18日 衆議院総務委員会)
② 大臣による助言の範囲
「こうした趣旨から、指針の内容は、各地方公共団体が監査基準を策定する際に参考となる、監査を行うに当たって必要な基本原則を定めることを想定しております。具体的には、例えば、監査の目的でございますとか監査委員の役割、責任、監査結果の報告等々について定めるということでございます。改正案の規定に基づきまして監査委員が定めることとしております監査基準につきましても、監査の手順といったマニュアルではなくて、監査を行うに当たっての必要な基本原則を定めていただくということを想定しているものでございます。」(近藤議員に対する安田自治行政局長答弁、2017年5月18日 衆議院総務委員会)
「ただ、先ほど申し上げましたように、この助言は個別の監査、こういうものについて助言するものではございませんし、あくまで助言でございますので、これに拘束力はないわけでございます。」(近藤議員に対する安田自治行政局長答弁、2017年5月18日 衆議院総務委員会)
「例えば、監査の目的ですとか監査委員の役割、責任、監査の実施に当たってどういう点を重視すべきか、監査結果の報告に当たってどういう点を記述すべきかといったような内容でございます。」(田村議員に対する安田自治行政局長答弁、2017年5月18日 衆議院総務委員会)
〔参考文献〕
◇阿部泰隆(2016)「地方制度調査会における住民訴訟制度改正の検討について」自治研究92巻1号(2016年1月号)
◇阿部泰隆(2017)「住民訴訟改革のあり方――地方制度調査会答申、懇談会、法案の問題点」自治総研462号(2017年4月)
◇天池恭子(2017)「地方公共団体におけるガバナンス強化等に向けて――地方自治法等の一部を改正する法律案」立法と調査388号(2017年5月号)
◇安念潤司(2017)「地制調答申と監査制度」自治実務セミナー2017年1月号
◇今井照(2017)『地方自治講義』ちくま新書
◇江藤俊昭(2016)「第31次地方制度調査会と住民自治(上・下)」議員NAVI 2016年4月11日、4月25日
◇金井利之(2017)「住民訴訟制度と首長へのガバナンスのミライ」ガバナンス2017年1月号
◇木田弥(2016~)「議選監査のすゝめ 第1回〜」議員NAVI 2016年12月12日~
◇後藤・安田記念東京都市研究所(2016)「特集2 第31次地制調答申から考える『ガバナンス』」都市問題107巻10号(2016年10月号)(特に石川恵子、飯島淳子両論文)
◇清水涼子(2016)「地方公共団体のガバナンスの一層の向上に向けて」地方自治821号(2016年4月号)
◇高橋良一(2017)「自治体監査の現場から―監査委員監査の今日的課題―①」実践自治Vol.71(秋号)
◇町田祥弘(2017)「地方公共団体における内部統制の制度化について」地方自治831号(2017年2月号)
〔報告書・意見書等〕
◇総務省(2009)『内部統制による地方公共団体の組織マネジメント改革~信頼される地方公共団体を目指して~』(地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会)
◇総務省(2014)『地方公共団体における内部統制制度の導入に関する報告書』(地方公共団体における内部統制の整備・運用に関する検討会)
◇地方自治研究機構(2017)「市区町村等の内部統制型リスクマネジメントに関する調査研究」
◇日本弁護士連合会(2017)「地方自治法等の一部を改正する法律案中監査制度の見直しに関する意見書」