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2017.07.10 議会改革

地方自治法等の一部改正と住民自治(下) ――議会による活用の可能性を探る――

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山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭

 前回は、地方自治法等の一部を改正する法律の概要を紹介しながら、それらに「住民自治の根幹」としての議会がどうかかわるか、それらの活用によって首長等と政策競争する議会をどうつくれるか、について確認してきた。今回は、その改正の論点について、より詳細に検討する。その自治法等の改正の検討に当たって、総務省等の紹介概要とは順番が異なるが、文脈上理解していただきたい。なお、前回と重複するが、それぞれの論点の前に囲みで改正の概要を再度掲載している。この概要は、すでに指摘したように参議院資料に総務省資料を加味したものである。

2 自治法改正の論点

(1)監査制度の充実強化

〈監査制度の充実強化〉
ア 監査委員が監査等を行うに当たっては、各地方公共団体の監査委員が策定する監査基準に従うものとし、総務大臣は、地方公共団体に対し、監査基準の策定について、指針を示すとともに、必要な助言を行う。
イ 監査制度の充実強化として、見直しの実施(勧告制度の創設、議選監査委員の選任の義務付けの緩和、監査専門委員の創設、条例により包括外部監査を実施する地方公共団体の実施頻度の緩和)。

 監査委員制度の改正については、監査基準をそれぞれの監査委員が定めること、勧告制度の創設、監査専門委員の創設など、基本的に監査の透明性を増加させ、監査の充実強化を図るものだといえる。ただし、議選の監査委員の選択制(条例による)、及び監査基準を定めるに当たって国が指針を提出すること(参酌)、及び制定改正に当たって大臣が「助言」する義務を課すことについて留意すべき事項がある。確認しておこう。

ア 議選の監査委員の選択制
 監査委員制度は地域経営にとって極めて重要な制度である。監査委員制度の設置以降、抜本的な改正である「議選監査委員の義務付けの緩和」、いわゆる選択制についてまず考えたい。
 議選の監査委員について、独立性・専門性になじむのか、単なるポストの1つとみなされ、任期が4年にもかかわらず短期で変更していて意味があるのか、あるいは今日、政務活動費等、議会にかかわる住民監査請求が多く上がっていて、これでは審査できない、といった問題が指摘されていた(例えば、第29次地制調答申)。そこで、議選の監査委員制度の廃止が長年、検討されていた。
 今回の改正は、監査制度の意義・役割、専門性・中立性を堅持した制度とはいかなるものか、そして、これらを踏まえた議選の監査委員の役割について再確認するよい機会である。筆者は、いわば「用心棒」説を採用していた。監査委員制度が生まれた際に、その説明では、識見だけではなく、力を持った議選がいるからこそ充実した監査ができると、その必要性がうたわれた。
 政治的感覚を持って監査に当たることも必要である。実際には、こうした役割を実践している議会は少ないかもしれないが、行っている議会もある。
 ただ、そうであっても今回の選択制は評価している。どのような監査委員制度を設置するかは、それぞれの自治体、そして議会で議論する機会として重要だからだ。つまり、議選制度があるから議選の監査委員を置くのではなく、必要だから置く、あるいは議選制度を廃止するならば、どのように監視機能を強化し、監査委員と連携するのかを模索する必要がある。なお、監査委員の属性を条例で定めるべき(議選の監査委員を置く場合も条例で定める)、といったより自由度を高める議論はここでは行わない。
 議選の監査委員を配置するかしないかはともかく、識見を有する者の配置は議会の同意が必要であり、どのような人を配置するか慎重に議論し、同意・非同意を決めることを強調したい。
 議選制度を廃止したからといって、監査委員の専門性・中立性が確立されるわけではない。議選制度の廃止に伴う3つの留意点、今後の検討課題を確認しておきたい。
 1つ目は、監査委員制度が設置された際、議会の監査機能、具体的には実地検査権が監査委員に移行した。議選制度をなくす場合には特に、実地検査権を議会に戻す必要がある。また、議会による監査委員の選挙(さらには、有権者による選挙)は今後の検討課題である。
 2つ目は、監査委員の担い手、監査委員事務局の充実という課題である。監査制度の充実といっても、大規模自治体ならともかく、小規模自治体では監査委員事務局が設置されていない(未設置市9、町村578、共同設置2(2016年4月現在)、事務局職員定数1~2人が多数ある)、設置されていても総務課や議会事務局職員と併任などの問題、識見を有する人がいないなどの問題もある。規制緩和・廃止の時代だが、せめて市町村でも議会事務局とともに、監査委員事務局の必置が必要だ。また、小規模自治体では、議選の監査委員だけではなく職員OB、議員OBの活用方法を住民自治の中に位置付ける必要がある。
 そして3つ目は、今後の検討課題である。そもそも、自律性がありながらも監査委員は執行機関である。議員が執行機関と兼職するというのは極めて異質なものである。歴史上の妥協点であり、議選制度は次善の策だった。とはいえ、今後はそれらの整合性が期待される。その意味で、今回の議選の監査委員の選択制も次善の策だといえよう。

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