7 おわりに
きっかけは、補助金の不正流用であったとはいえ、他の自治体では「規則」で対応しているにもかかわらず、京都市では、その「規則」さえ制定していなかったことを奇貨として、補助金等の交付に係る規律を定める形式について、「条例」を選択した。
政令指定都市である京都市が「条例」を選択したことによる他の自治体への影響は予測しがたいが、私見では、「規則」による規律で十分であり、「条例」を制定する必要性はさほど高くないため、追随する自治体はほとんどないと考えている。
ただ、京都市が補助金等の交付決定等を「処分」と構成した結果、「契約」と構成をしている他の自治体とのバランスは、崩れることになる。例えば、ある者が、補助金等の不交付決定を争う際に、京都市が相手となる場合は行政争訟によることになるのに対し、「契約」構成をしている自治体が相手となる場合は民事訴訟での対応となる。さらに、補助金等の交付請求権などは、京都市が相手となる場合は5年の消滅時効により絶対的に消滅する可能性があるのに対し、「契約」構成をしている自治体が相手となる場合は消滅時効10年で援用を要することになる。
個々の自治体の自主性・自立性を尊重し、自治体ごとの差異は当然とする考え方もあるが、補助金等の交付決定という同一の行為について、例えば、同じ京都府内で、一方は「処分」とし、他方は「契約」とするといったように構成が異なることの合理性をどう考えるのか、悩ましい問題である。しかも、京都市は、京都府下で人口・面積で最大にして、京都府人口の過半を占めるだけに、その影響は大きく、近隣又は包括自治体にとっても、無視できないと思われる
(10) 札幌市補助金等の事務取扱に関する規程(昭和36年札幌市訓令24号)、仙台市補助金等交付規則(昭和55年仙台市規則30号)、さいたま市補助金等交付規則(平成13年さいたま市規則59号)、千葉市補助金等交付規則(昭和60年千葉市規則8号)、横浜市補助金等の交付に関する規則(平成17年横浜市規則139号)、川崎市補助金等の交付に関する規則(平成13年川崎市規則7号)、相模原市補助金等に係る予算の執行に関する規則(昭和45年相模原市規則23号)、新潟市補助金等交付規則(平成16年新潟市規則19号)、静岡市補助金等交付規則(平成15年静岡市規則44号)、浜松市補助金交付規則(昭和55年浜松市規則17号)、名古屋市補助金等交付規則(平成17年名古屋市規則187号)、大阪市補助金等交付規則(平成18年大阪市規則7号)、堺市補助金交付規則(平成12年堺市規則97号)、神戸市補助金等の交付に関する規則(平成27年神戸市規則38号)、岡山市補助金等交付規則(昭和48年岡山市規則16号)、広島市補助金等交付規則(昭和36年広島市規則58号)、北九州市補助金等交付規則(昭和41年北九州市規則27号)、福岡市補助金交付規則(昭和44年福岡市規則35号)、熊本市補助金等交付規則(昭和43年熊本市規則44号)。
(11) 平成21年12月3日・経済総務委員会(第18回)理事者答弁。
(12) ただし、行政争訟の実情を考えると、「処分」と構成することが一概に権利救済に資するとはいえない。
(13) なお、そのほかにも、京都市はこれまで、市民の権利義務に直接影響しないものであっても市政に関わる重要な事項を条例で定めてきており、補助金等の交付も、申請者の利害に影響すること、市政の幅広い分野に関わること、住民訴訟などの対象となる可能性が高いことから、条例で定めることが望ましいとの判断があったと思慮される。
(14) 田中孝男=都築岳司「政策条例NAVI第20回 補助金制度を条例化しよう」自治体法務NAVI 19号(2007年)32頁。なお、「不合理な政治リスク」は、条例化により議会の関与が強まることによって、より一層、高まる可能性もある。
(15) 高橋俊之「条例紹介2 芦別市補助金等交付条例」法令解説資料総覧248号(2002年)116頁。
(16) 意思決定権者が異なるため同一内容となる保障はないが、実務上、両者の間で規定内容についての調整が行われ、また、万一、調整がつかなくても、公営企業管理者が交付する補助金等は限定されているため、影響は軽微であろう。
(17) 小滝敏之『補助金適正化法解説〈全訂新版(増補版)〉』全国会計職員協会(2013年)6頁。
(18) 大鹿行宏編『補助金等適正化法講義』大蔵財務協会(2011年)3頁。
(19) なお、新聞報道によれば、岩手県が、業務上横領事件を受けて罰則規定を盛り込んだ条例制定を検討していたようだが、見送りが表明されている(河北新報ONLINE NEWS 2015年10月3日記事)。
(20) あえていえば、乳幼児医療費助成のような個人向けの補助金等については、個人情報保護の観点から、名前を伏せた公表をするといったことであろう。
(21) 川崎市http://www.city.kawasaki.jp/230/page/0000075957.html、相模原市http://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/22640/022679.html(平成28年9月12日確認)。
(22) このときの条例改正により、条例設置の附属機関になった補助金等の交付等の審議を行う審議会は13であった(平成25年10月21日・経済総務委員会(第10回))。
(23) なお、この問題については、稲葉馨「自治組織権と附属機関条例主義」小早川光郎=宇賀克也編『行政法の発展と変革〈下巻〉』有斐閣(2001年)、碓井光明「地方公共団体の附属機関等に関する若干の考察〈下〉」自治研究82巻12号(2006年)、兼子仁「市民参加会議『要綱』設置の違法解釈判決について」自治総研398号(2011年)などを参照。
(24) 碓井光明『公的資金助成法精義』信山社(2007年)41頁・42頁。
(25) 平成24年度「補助金等の財務事務等の執行について(関連する団体を含む。)」包括外部監査結果報告書(平成25年3月監査公表677号)。
(26) 前掲注(25)139頁。
(27) 前掲注(25)157頁。
(28) http://www.city.kyoto.lg.jp/gyozai/page/0000206116.html(平成28年10月21日確認)。