イ 判断過程合理性
本条例は、不正流用事件に端を発し、監査報告に対応して再発防止策を講じたという制定の経緯や、議会(常任委員会)で修正案が提案されるほどの議論が行われたといったことから、条例制定に至る判断過程に不合理な点は見られない。
また、本条例の制定過程において、補助事業者に対して意見聴取をした様子はうかがえないが、そもそも補助金等は、単年度の予算で措置されるものであり、本条例案の作成時に、次年度以降に補助金等の交付を受ける補助事業者が定まっていないため、個別に意見聴取が行われなかったことには合理性がある。しかも、本条例案におけるパブリックコメントの内容は詳細であり、将来の補助事業者からの意見聴取も兼ねたものとも考えられ、制定過程の透明性は高いといえる。
(3)非法令抵触性
補助金等は、その交付主体に応じて、適用される規制規範が異なる。国が国以外の者に対して交付する補助金等には、補助金等適正化法が適用され、自治体が当該自治体以外の者に対して交付する補助金等には、その自治体が定める補助金等の交付に関する規程(条例、規則、訓令など形式は様々)が適用される。そのため、京都市についても、通常は、補助金等適正化法と本条例が抵触することはない。
しかし、補助金等の中には、国の補助金等を財源として自治体が補助をするいわゆる間接補助金という形をとるものがある。この間接補助金の場合には、補助金等適正化法と本条例の両者が適用されることになる。ただ、その場合も、補助金等適正化法は、立入検査等の規定(23条1項)を除いて、例えば、間接補助事業者(京都市が国の補助金を財源として補助する団体)が不正を働いた場合には、直接補助事業者(京都市)への補助金等交付決定を取り消す(17条2項)といったように、原則として、国は、間接補助事業者に対しては、直接補助事業者を通じて間接的な規制を及ぼしているにとどまっている。そのため、本条例が補助金等適正化法との関係で何らかの抵触を生じる可能性は、極めて低いといえる。
ところで、補助金等の交付を「条例」により規律することは、自治法との関係で問題となる。自治法では、財務会計行為は、首長の専管事項であり、地方自治法施行令(昭和22年政令16号)173条の2は「この政令及びこれに基づく総務省令に規定するものを除くほか、普通地方公共団体の財務に関し必要な事項は、規則でこれを定める」としている。そのため、補助金等の交付手続などについては「規則」による必要があるという理解があり、自治体実務はおおむねそれに沿っていると考えられる。しかし、この点については、地方自治法施行令173条の2は「財務に関する事項は最低限規則によらなければならないとする趣旨であって、……条例による規律を排除するもの……ではないと解される」(24)とする有力説があり、京都市もこの説によったものと推察される。
6 条例制定後の取組
京都市では、本条例の施行後2年を経過した時点で、補助金等の財務事務等の執行を対象とした包括外部監査を受け、その中で、本条例の施行効果が報告されている(25)。それによれば、「補助金条例の施行により、従来、要綱のない補助金が多い状況だったが、ほぼ全ての補助金について要綱が整備され」(26)、「実際に、ほとんどの補助金の財務事務の執行等について、現行の法令を遵守して、補助金等の諸規定とおりに整然と処理され、全市的に所管課の意思も統一されている印象を受けた」(27)とされており、条例制定の目的が一定程度達成されたことがうかがえる。また、本条例8条による毎年1回の補助金等の交付状況の公表も、京都市のホームページ上で着実に行われている(28)。