(2)条例内容の合理性
ア 実体的合理性
本条例の規定内容は、おおむね補助金等適正化法に倣ったものとなっており、補助金等の交付申請、交付決定、実績報告、支払、交付決定の取消し、補助金等の返還、財産処分の制限といった補助金等の事務に関する一連の事項が、過不足なく規定されている。しかし、補助金等適正化法と比較したときに、補助金等適正化法にない条項もある。それは、補助金等の有効性及び効率性の検証等(7条)と補助金等の交付状況の公表(8条)の規定である。
まず、7条の補助金等の有効性及び効率性の検証等の規定については、補助金等の削減や廃止につながるのではないかという懸念から、パブリックコメントで意見も出され、議会審議においても議論となったところである。しかし、社会経済情勢に応じて、補助金等の有効性及び効率性の検証等を行っていくことは当然のことであり、条文そのものに不合理な点はない。問題は、運用がどのように行われるかであろう。
次に、8条の補助金等の交付状況の公表の規定については、行政の透明性向上の観点から積極的に進めるべきであり、これも否定する理由は見当たらない(20)。実際、補助金等の交付先も含めた交付実績を公表している自治体も多い(例えば、政令指定都市では、川崎市、相模原市がウェブサイト上で公表している(21))。
そのほかにも、本条例の6条2項では、市長等は、補助金等ごとに、①交付の目的、②補助事業等、③補助金等の交付の対象者、④補助金等の額の算定方法を、あらかじめ定めるとされている。この項も補助金等適正化法にはない規定である。実務的には、交付が1回限りで、伺い定めで十分といった例外的な場合を除き、個別の補助金等について、上述の①から④までを規定した要綱あるいはそれに類似した規程を定めることが通例である。そのため、わざわざ条例でその旨を規定し、周知徹底を図る必要はないと考えられるが、おそらく京都市は、そのような規定を必要とする状況(要綱の不備)にあったということであろう。
また、前述したように、本条例には、不正に補助金等の交付を受けた者などに対する罰則規定がない。不正流用事件という条例制定の経緯に鑑みると、罰則規定がない点をどう評価するかは難しいところである。しかし、補助金等適正化法は、行政手続法の適用を除外する条項(24条の2)を設け、本条例と類似する高知市の補助金等の交付に関する条例(昭和29年高知市条例19号)も、高知市行政手続条例(平成9年高知市条例3号)を適用除外(19条)としている。それに対し、京都市は、京都市行政手続条例を適用させている。それによって、補助金等の交付決定に係る手続の公正性や透明性を確保し、そのことが不正防止に資すると判断したのであろう。
なお、ここで本条例による補助金等の交付決定やその取消し等と、京都市行政手続条例との適用関係を整理しておく。まず、補助金等の交付申請については、個別の補助金等を所管する部局課ごとに京都市行政手続条例6条の規定により審査基準を定めることとなる。実際には、本条例6条2項の規定により定める①交付の目的、②補助事業等、③補助金等の交付の対象者、④補助金等の額の算定方法が、審査基準に相当すると考えられる。そして、これらは通常、補助金等交付要綱等で定められることから、それらの要綱等は、京都市行政手続条例6条3項の規定により、事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておく必要があることになる。
また、京都市行政手続条例7条の規定により、補助金等の交付申請から交付決定までの標準処理期間を、補助金等ごとに設定するとともに公にし、京都市行政手続条例8条の規定により、補助金等の交付申請に対する審査開始義務が生じ、京都市行政手続条例9条の規定により、補助金等交付申請を拒否する際の理由提示も求められることになる。
さらに、補助金等の交付決定の取消しといった不利益処分をする際には、京都市行政手続条例13条の規定により、あらかじめ処分基準を定め、公にしておく必要がある。なお、本条例22条に補助金等の交付決定の取消しを行う際の基準が規定されていることから、当該基準が処分基準に該当することになると考えられる。そして、補助金等の交付決定の取消しに際しては、京都市行政手続条例14条の規定による聴聞が必要となり、京都市行政手続条例15条の規定により、補助金等の交付決定を取り消す理由の提示も必要となる。
最後に、京都市行政手続条例39条には、何人も、違反行為等が行われている場合には、権限を有する行政庁に対して、その是正を求めることができる旨が規定されているが、補助事業者による補助条件違反などについても本条は適用されるため、第三者等から補助金等の交付決定の取消し等を求められた場合には、必要な調査をし、その結果、必要があると認めたときは、交付決定の取消し等を行うこととなる。
そのほかにも、補助金等の交付決定を「処分」として構成することにより、補助金等の不交付決定や交付の取消しに際しては、行政不服審査法と行政事件訴訟法に基づく教示も必要となる。
なお、本条例の制定後、市長の諮問に応じて、補助金等に関する事項を調査、審議する委員会を設置することができることとする改正(平成25年京都市条例52号)や、返還すべき補助金等の未納額の延滞金の割合を改定するなどの改正(平成25年京都市条例74号)、委員会の委員の任期を2年以内で市長が定める期間に短縮する改正(附属機関の適正な運営を図るための関係条例の整備等に関する条例(平成27年京都市条例37号))などが行われている。このうち、平成25年京都市条例52号による委員会設置を可能とする改正は、京都市が全庁的に整理して行った、いわゆる「事実上の附属機関」の条例化に伴って、従来、要綱等を設置根拠としていた審議会等を条例設置に切り替えるために行われたものである(22)。この規定は補助金等適正化法にはないものであるが、自治法における「附属機関」の論点に関わるものであり、議論が広がりすぎるため、本稿では取り上げない(23)。