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立法事実から見た条例づくり

2017.02.10 政策研究

補助金等の交付に関する条例と立法事実(下)

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ひろしまね自治体法務研究会 澤俊晴

5 条例の立法事実の検討

(1)条例の必要性
 本条例の必要性は、補助金等に係る事務の執行手続を統一的に規律する必要性と、それを条例として定める必要性の2つに分けることができる。
ア 統一的規律の必要性
 個別の補助金等の交付要件や補助金額、補助率等は、当該補助金等を所管する部局課が「○○補助金等交付要綱」などといった形式で定めることが通例である。
 「補助金等に係る事務の執行手続を統一的に規律する」とは、そのような補助金等に係る交付の根拠となる規程を指しているのではなく、部局課で統一なく行われてきた補助金等の交付申請、交付決定、補助事業等の遂行の監督、補助金額の決定(確定)、補助金等の交付などの手続を全庁的に統一し、それらの法律関係を明確にすることを意味している。このような統一的な規律は、補助金等に係る事務執行の公正性や透明性を確保し、不正を防止する観点から、必須であると考えられる。
 なぜなら、部局課が、統一なく、それぞれの前例を踏襲して事務を処理することは、京都市の監査報告が端的に指摘しているように、いつしか職員に「補助金等の支出に当たり行うべき基本的な手続についての相当の理解」が不足することになるからである。そのため、「市全体での補助金に関する基本的事項に係る規程」を定めて、これを部局横断的に周知徹底することには、大きな意義があると考えられる。
イ 条例制定の必要性
 前述のとおり、自治体では、補助金等の交付に係る通則的な手続は、「規則」(補助金等交付規則)で定めるのが通例である。例えば、政令指定都市では、京都市が条例立案していた当時(平成21年)、京都市と神戸市を除く18市中17市が「規則」で、1市(札幌市)が「訓令」で補助金等の交付に係る通則的な手続を定めていた(なお、神戸市は平成27年に規則を定めており、政令指定都市20市全てで規程が整備されている)(10)
 京都市は、規程の未整備という周回遅れの状態から、通則的な手続を定める規程の策定を検討することになり、その検討の結果、他の政令指定都市を含め多くの自治体が「規則」を選択しているという状況や「補助金の予算の執行に関する基本的事項を補助金交付規則など市全体として制定」すべきとして「規則」を例示した監査報告にもかかわらず、「条例」という法形式を選択している。なぜであろうか。
 本条例案の提案説明において、この点は「補助金の対価を伴わずに特定の個人あるいは事業者に金銭を交付すると、こういう性格を考えまして、実態面、手続面の適正がより強く求められるという観点から、議会による統制が掛かる条例という根拠によることが適当」であり、「また、他任命も含めて全庁共通のルールということになりますと、条例が適している」と説明されている(11)。しかし、対価性がないという補助金の性格や、全庁的な共通ルールの必要性は、他の自治体と京都市とで違いはない。そのことを踏まえた上で、なお、「条例」を選択したことが、京都市の独自性ということになるであろう。
 つまり、これまでの京都市における補助金事務に不適切な点が見られたことから、「条例」という法形式を選択し、それによって補助金等の交付(不交付)決定、交付決定の取消しとそれに伴う返還命令などを「処分」と構成することで、補助金等の交付(不交付)決定等に不服がある者に対する行政不服審査や行政訴訟による権利救済の途を開くとともに、反射的に補助金等の交付の決定の適正化や、公正性・透明性の確保を図るということであろう(12)。さらに、「処分」と構成することで京都市行政手続条例(平成8年京都市条例15号)を適用させ、それによって補助金等の交付決定に係る手続の更なる適正性と透明性の確保に万全を期すことも目的としているのであろう(13)
 以上のことを背景に、京都市は「条例」を選択したものと思われるが、前述のとおり、そのような選択は、政令指定都市で唯一、自治体全体でも圧倒的少数で、自治体実務の現場では主流ではない。ただし、「条例」の制定を支持する論者はいる。例えば、行財政改革の一環として補助金等のカットを進める際に生じる「不合理な政治リスクを少しでも軽くするために、条例化のメリットは大きい」とする考えや補助金等の交付を受けられなかった者の権利救済の観点からは、「行政不服申立制度の活用の可能性や、行政事件訴訟としての取消訴訟中心主義を考えれば、むしろ交付決定手続及び不服審査手続を条例に定めておく方が望ましい」とするものである(14)。また、従前、要綱で定めていた内容を条例化した芦別市は、「開かれた補助金行政の確立と行政改革の実行手段の一つとして」、つまり、「補助金の交付という行政行為について、その透明性と公正性を確保する必要性」と、行政改革の一環としての「補助金等の整理合理化」のために、条例を制定したとする(15)
 このように、補助金等の交付の適正化、透明性・公正性の確保、行政改革の推進、補助申請者の権利救済といった観点から条例化が支持されている。しかし、自治体の現状は、例えば、本条例制定後、すでに6年以上経過するが、各自治体が補助金等交付規則を条例化するといった動きは広がっていない。
 これは、侵害留保原則によれば、権利を制限し、義務を課するものについて、「条例」が求められるところ、補助金等の交付については、「契約」として構成し、補助金等の交付申請を契約の申込みと、補助金等の交付決定を契約の承諾と捉えることが可能であり、多くの自治体はそのように解しているためと考えられる。
 また、補助金等に係る事務執行の統一についても、予算執行権限を有する首長の規則と、(予算執行に関しては首長とは独立した権限を有する)公営企業管理者の公営管理規程を同一内容で定めることにより、一応の目的は達成されるため(16)、「条例」で定めるまでの必要性がないことも要因のひとつとなっていると思われる。
 なお、国が交付する補助金等については、補助金等適正化法が適用されるが、国が「法律」という法形式を選択している理由は、「補助金等の交付手続の統一化を図ることにあったというよりも、補助金等の不正な申請や不正な使用の防止を図ることにあった」(17)ためである。つまり、補助金等適正化法は「補助金等に係る予算の執行にあたり、その交付を受ける相手方が努力を行わず、国民の血税からなる貴重な財源を浪費するような事態があれば、それが直ちに反公益的なものであることを明らかにし、違反行為に対しては刑事罰をもって厳正に対処」(18)することを主目的に制定されており、罰則規定を設けることから、法律による必要があったということである。
 それに対し、自治体では、罰則による不正の排除という発想は乏しく、「条例」を制定している自治体においても、罰則規定を設けているものは、大網白里市の補助金等に係る予算の執行の適正化に関する条例(昭和30年大網白里市条例4号)が目につく程度である(19)
 なお、立法実務としては、重要な行政活動に条例の根拠を求める重要事項留保説によって条例制定を行っている自治体もあるが、それらの自治体であっても、補助金等の交付に係る規律は、「条例」で定めていない。実際、京都市も、不正流用事件を契機に条例を制定していることから、そのような事件が起こるまでは重要事項ではないと判断していたと思われる。

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