3 条例制定過程
京都市では、従来、補助金交付に係る通則的な手続を定めた規則等を制定していなかったことから、監査委員は、監査報告で「補助金の交付の申請及び決定や、実効性のある補助金交付条件の履行状況の確認手続など、補助金の予算の執行に関する基本的事項を補助金交付規則など市全体として制定することが、事務の改善に有用であると考えられる」(傍点筆者)との意見を、自治法199条10項の規定により付している。
この監査報告を受けて、また、過去にも支出手続の適正さが問題となった事件があったことから、京都市内部での検討の結果、補助金交付に係る通則的な手続を「条例」で定める方針が固まり、監査報告が公表されて約1か月後には、早くも「京都市補助金等の交付に関する条例(仮称)案骨子」(以下「案骨子」という)が作成され、平成21年9月11日から同年10月9日までの約1か月の間、パブリックコメントが行われている。
案骨子では、「条例制定の目的」のほか、条例に盛り込むべき事項として、「市長等の責務」、「補助金等の交付に当たって明確に定めるべき事項」、「補助金等の見直し」、「補助金等の交付状況の公表」、「補助金等の交付の申請及び決定」、「補助事業等の遂行」、「補助金等の返還等」、「財産処分の制限」などを定めるとしていた。
このパブリックコメントに対し、「補助金等の見直し」、「補助金等の交付状況の公表」、「補助金等の交付の申請及び決定」、「補助金等の返還等」などについて14人26件の意見があった。例えば、「補助金等の見直し」については「補助金等の削減を前提とした条例にならないようにすべき」といった意見や、「条例化後どのように見直していくのか具体化すべき」といった意見、「補助金等の交付の申請及び決定」については「補助金の申請に当たって申請理由を文書化して提出させること」といった意見、「補助金等の返還等」については「補助金の返還や加算金・延滞金の徴収は地方税の滞納処分の例により行うこととすることができないのか」や「財産の処分制限について、審議会の意見を聴いて処分を認める途を認めることにしてはどうか」といった意見など、実務にある程度精通していると推察される者からも意見が寄せられており、幅広い層から関心を寄せられていたことが分かる。
京都市では、このパブリックコメントに対する意見を踏まえて、「京都市補助金等の交付等に関する条例案」を作成し、京都市会(平成21年11月定例会)に提案している。
なお、この案件については、京都市会の関心も高く、パブリックコメント実施中の平成21年9月の京都市会本会議においても、本条例の制定によって補助金の削減などが行われることへの懸念が示されている(7)。
本条例案は、議会提案後、常任委員会のひとつである経済総務委員会に付託され、経済総務委員会では、理事者側から、本条例の提案に至る経緯、本条例の目的及び概要についての説明があり、それに対し、議員からは、これまで補助金適正化を求めてきた議会意見を軽視したような提案経緯に対する指摘、市長等の権限で恣意的に補助金の削減や廃止が行われることへの懸念が示されるとともに、補助金の交付状況の公表及びチェック体制の必要性、来年度の予算編成への影響や補助金等に関する現行の規則等の改廃の有無などについての質疑が行われた(8)。また、別の常任委員会(教育福祉委員会)でも本条例案が取り上げられ、条例として制定することの必要性について質疑が行われている(9)。
さらに、本会議では、日本共産党議員団から、市長等が補助金等の有効性及び効率性の検証等をし、必要があると認めるときは、補助金等の新設、充実、統合、廃止その他適切な措置を講じるとする規定(本条例案7条)について、市長等の恣意的な基準の設定ができること、行政の都合で第三者の意見も聴かずに補助金の存廃を決めてしまうこと、他の条文で十分対応できること、財政の効率性だけで補助金を削減しようとしていること、京都市財政の財源不足対策として補助金を削減しようとしていることを理由に、当該条文を削除する修正案の提案が行われている。そして、修正案が賛成少数で否決された後に、本条例案は、平成21年12月10日、原案どおり可決されている。
このように常任委員会で活発な議論が行われ、本会議において修正案が提出されるなど、議員の関心は非常に高いものがあった。
なお、本条例は、平成21年12月22日に公布され、翌年4月1日から施行されている。
4 条例の概要
制定時の本条例の概要は、次のとおりである(条名は、制定時のもの)。
(1)目的(1条)
本条例の目的は、補助金等交付の申請、決定等に関する事項や予算の執行に関する基本的事項を定めることにより、補助金等に係る予算の執行及び補助金等の交付の決定の適正化を図ること、並びに公正性及び透明性を確保することとされている。
(2)定義(2条)
「補助金等」、「補助事業等」、「補助事業者等」、「市長等」の定義が定められている。
例えば、「補助金等」の定義は、特定の事務又は事業を助成し、育成し、又は奨励する目的で、京都市が京都市以外のものに対して交付する補助金その他の金銭的給付で、その交付に対し相当の反対給付を受けないものとされている。この定義により、負担金や奨励金、利子補給金など補助金という名称を用いないものも「補助金等」に含まれることになる(この取扱いは、国や他の自治体においても同様である)。
また、「市長等」の定義は、市長と公営企業管理者とされている。行政委員会が含まれていないのは、行政委員会に係る予算執行権限が市長にあるためである。
(3)適用除外(3条)
本条例は、他の条例の規定に基づき交付する補助金等には、適用しないとしている。例えば、京都市会の会派及び議員に対して交付する政務活動費については、京都市政務活動費の交付等に関する条例(平成13年京都市条例66号)にその対象や交付額、交付申請や交付決定などの規定が定められていることから、本条例の適用はされないことになる。