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立法事実から見た条例づくり

2016.12.12 政策研究

補助金等の交付に関する条例と立法事実(上)

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ひろしまね自治体法務研究会 澤俊晴

1 はじめに

 補助金は、行政が一定の行政目的のために資金を給付し、給付を受けた者がその資金を定められた用途に使用し、その行政目的が達成された場合には、返還を求められないものである。「補助金」という名称が付されているか否かは問わない。
 また、補助金には、国、都道府県、市町村といった交付主体による区分のほか、直接補助金と間接補助金、義務的補助金と奨励的補助金、運営費補助金と事業費補助金、相手方が最初から特定されている特定団体補助金と公募型補助金といった区分があるが、相当の反対給付を受けることなく、税金を原資として金銭を交付し、交付を受けた相手方の利益になるものである点では相違がない。
 そして、補助金のこのような性質から、その交付の適正を図るため、様々な「規制規範」が定められている。例えば、地方自治法(昭和22年法律67号。以下「自治法」という)232条の2は、「普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる」と規定し、補助には公益性が必要であるとしている。
 また、日本国憲法89条は「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」とし、公の支配に属さない慈善、教育又は博愛の事業に対する公金支出を禁止している(1)
 さらに、補助金を交付することの根拠が別に定められていることを前提に(2)、補助金事務の適正な執行を図るため、補助金交付の手続を通則的に規律する規制規範として、国は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律179号。以下「補助金等適正化法」という)を、自治体は、通例、それぞれ補助金等交付規則(名称や形式は自治体によって相違がある)を制定している。
 補助金等適正化法や補助金等交付規則では、補助金等の交付の申請、交付の決定、補助事業等の遂行の監督、精算等に関する手続を定めている。京都市補助金等の交付等に関する条例(平成21年京都市条例32号。以下「本条例」という)は、これらの手続を「条例」で定めた全国的に珍しい事例である。管見の限りでは、このような補助金交付に係る通則的な手続を条例で定めている団体は、極めて少数であり(3)、条例づくりにおける立法事実の観点からも興味深い事例であるので、今回取り上げることとした。

2 条例制定の背景

 本条例は、平成21年2月に発覚した社団法人京都市保育園連盟(以下「連盟」という)の市補助金不正流用問題を契機として制定されている。この事件は、税務調査によって連盟の常務理事による市補助金の私的流用が発覚したことを端緒に、京都市保育課が積極的に関わった形で連盟への市補助金に多額の余剰金を発生させ、それを目的外に流用させていたことが判明したものである。
 この事件を受けて、京都市長は、平成21年2月25日付けで自治法199条6項及び7項の規定により、監査委員に対し監査要求をしている。監査委員の監査結果報告(4)(以下「監査報告」という)によれば、京都市は、保育士の配置基準の引上げや保育園職員の給与水準をはじめとした処遇の向上など、国が定める最低基準を上回る保育の水準を確保するため、民間社会福祉施設援護費として連盟に補助金を支出し、その補助金を連盟が各保育園に支出していた。また、各保育園への支出額は、京都市保育課が算定し、当該支出額を連盟の銀行口座から各保育園に支出することを京都市保育課長が文書により決定していた。その際、京都市から連盟への補助額と、連盟から各保育園への支出額には、算定方法の相違から、差額が生じていた。本来、補助額が過大であれば京都市への返還が行われるべきところ、連盟への補助については精算が行われず、その差額は連盟の口座に累積し、余剰金が発生していた(5)。そして、京都市保育課は、連盟に対し、この余剰金を財源に、妊婦勤務緩和対策費などの予算外の援護費や、個別の保育園の課題に対応するための経費などを支出するよう依頼していた(そのほかにも、連盟の前常務理事が京都市保育課の了承を得て連盟の経費として支出したものもある)。なお、監査報告では、これらの京都市保育課が関与した支出額以外にも、6億円を超える使途不明金が指摘されている。
 つまり、京都市保育課は、連盟を経由して、各保育園に市単独の補助を行うとともに、連盟への補助額と各保育園への支給額との差額を市へ返還させず、連盟に多額の余剰金を発生させ、その余剰金を原資に、連盟に依頼して、京都市での予算要求では確保できなかった事業を実施していた。
 ありていにいえば、京都市保育課と連盟とが表裏一体となった事業運営が行われ、余剰金の不正流用や多額の使途不明金を発生させる温床になったと考えられる。なお、京都市では、この事件発覚後、連盟を経由した補助を各保育園への直接補助へ切り替えている。
 このような連盟をめぐる京都市補助金の不正流用問題を受けて制定されたのが、本条例である(6)

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