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立法事実から見た条例づくり

2016.11.10 政策研究

伊勢志摩サミット開催時の対象地域及び対象施設周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する条例─同時進行的な立法事実の検討に基づく時限条例─

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(4)立法事実の変化と対応
 本条例の制定過程で特徴的なのは、条例案の策定過程において、国会で禁止法の制定が遅れるという立法事実の変化が生じたという点があるが、これに加えて、本条例の制定・施行後に、禁止法が成立・施行されたということも特徴的である。
 小型無人機等の飛行を禁止することで、対象「施設に対する危険を未然に防止し、もって国政の中枢機能等及び良好な国際関係の維持並びに公共の安全の確保に資することを目的とする」禁止法は、相当程度に本条例と目的・手段・内容等を共通させていたが、その制定により直ちに本条例の適用が除外されるものとは考えられていなかった。禁止法が国内全域を飛行禁止にするものではなく、指定等の行為を介在して対象が設定される仕組みになっているからであろう。少なくとも地域の重複がない限りは、禁止法と条例との抵触は生じないものとして理解されていた。
 本条例の規制対象区域は、条例自体に規定された賢島周辺と、三重県知事により指定された2か所の対象施設の周辺区域であった。
 他方、成立した禁止法では、その5条において外務大臣が「対象外国公館等」を指定することができるとされており、この対象外国公館等の周囲おおむね300メートルの地域が禁止法の規制対象区域とされることになっている。この規定に基づき、各地で開催された大臣会合の会場施設等が、対象外国公館等として外務大臣による指定を受けていたが、外務大臣は伊勢志摩サミットに関連する4か所も、対象外国公館等として指定した(平成28年5月20日外務省告示173号)。そしてこのうち3か所が、本条例の対象と重複していた。
 この対象区域が重複する場合については、当該区域の重複する期間では本条例ではなく禁止法による規制がなされることとして、県と国との間で整理がなされ、両者の共通了解とされていたようである。したがって禁止法との重複区域については、本条例においては外務大臣による指定の効果が生じる直前までの規制が行われるものとして、時間的な適用関係の整理が図られることになった。その一方で、地理的な特性に配慮して指定されていた知事の区域設定に沿う形で、外務大臣による規制対象区域の指定がなされている(10)

6 条例の施行状況等

(1)条例の周知
 本条例の規制は、ドローン等の規制という従来にないものであったがゆえに、その周知の必要性が存在していた。また同時に、本条例が周知されることにより、地域住民の目を通じた条例違反やそのおそれのある行為の認知がなされうることが意図されてもいた(11)。このため、すでに触れたとおり、質問への入念な回答が行われていたことがうかがわれるほか、条例に関する周知のためのリーフレットが作成され、配布等がなされた。さらに3月下旬には、会場近辺の商業施設において広報啓発キャンペーンも行われた。

(2)許可件数等
 本条例の下での許可申請の件数はゼロ、また条例違反の件数もゼロであった。平成28年5月28日に、本条例は失効した。

7 おわりに

 本条例は、伊勢志摩サミット開催という継続的に生じるわけではない事情への対応を目的とした、かなり特殊な条例と見ることができるだろう。しかしながら本条例の策定に際しては、一方ではドローン等に関する振興政策が展開されていながら、他方で規制の必要性が生じていることの認知、国の法令が形成する法環境の分析(や予測)、地域の特性(特に本条例では、地理的な特徴)の考慮といった、他の条例づくりにおいても要求される立法過程の検討がなされていることを確認できる。また、その具体的な制度設計では、生じうる影響の検証に基づきながら、策定中の条例案を支える立法事実が存在しているかという視点の下に検討がなされており、その下に、時限条例という選択に至ったという過程を経ている。
 国による法的規律が検討・設計されつつある中で、並行的に条例による対応を行う局面は、本条例のような場面に限定されるわけでもない。この点では、上述のような特殊な条例でありつつも、他の条例づくりにとっての有用なモデルともなる条例であったと思われる。


(1) 本条例の要点に関する解説として、久田将樹「伊勢志摩サミット開催時の対象地域及び対象施設周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する条例」自治体法務研究45号(2016年)65頁がある。併せて参照されたい。
(2) 参照、中崎尚「ドローン規制の現在」NBL 1061号(2015年)26頁。
(3) 東京地判平成28年2月16日(平成27年(刑わ)1109号・平成27年(特わ)1341号)D1-Law.com判例体系ID28241013。
(4) 平成27年第2回三重県議会定例会会議録第6号(平成27年6月12日)340頁。
(5) 参照、久田・前掲注(1)68頁、田村正博『全訂警察行政法解説〈第2版〉』東京法令出版(2015年)419~420頁。
(6) 平成27年第2回三重県議会定例会会議録第11号(平成27年9月24日)709頁。
(7) 久田・前掲注(1)70頁。
(8) もっとも、本条例の制定に関わる時間的な制約等からすると、恒久条例を支える立法事実が存在しないという判断がなされたものと理解することは必ずしも適切ではないだろう。
(9) 本条例は、行政手続条例の適用除外とはされていない。この点からは、すでに触れた10条の命令も口頭による不利益処分に関する条例の規定による手続的統制が予定されていたものと考えられる。
(10) ただ、本稿筆者としては、小型無人機について本条例がすでに制定・施行されている下で、それを排除する形で禁止法による規制にシフトするまでの必要性があったかという点に関しては、やや疑問を禁じ得ない。本条例が有人の飛行を対象としていないのに対して、禁止法は、「小型無人機等の飛行」の定義として「特定航空用機器を用いて人が飛行すること」を挙げて、一部有人飛行が可能なものを含みうるように規定されていた(2条4項・5項2号)。開催の直前である5月20日の禁止法施行規則の改正(国家公安委員会規則12号)で、特定航空用機器として気球やパラグライダー等が列記されたことからは、有人での飛行を規制する意図で、禁止法による規制にシフトしたということであろうか。
(11) 参照、久田・前掲注(1)70頁。

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