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立法事実から見た条例づくり

2016.11.10 政策研究

伊勢志摩サミット開催時の対象地域及び対象施設周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する条例─同時進行的な立法事実の検討に基づく時限条例─

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5 条例の評価

(1)条例の必要性
 すでに条例案の策定のところで触れたとおり、本条例案の策定過程の時点では、改正航空法も禁止法も成立してはいなかったが、伊勢志摩サミット開催の際には、両法とも成立・施行されていることを念頭に置いていた。したがって、本条例は禁止法による規制が及ばない施設を補完的に規制するものとの位置づけがなされていた。しかし、禁止法の成立がずれ込むことになり、本条例を制定する必要性は高まった。特に、ドローン等の規制を含む伊勢志摩サミットの警備は、警察法60条に基づく三重県公安委員会による援助の要求と、これを受けて各地から派遣される警察官による三重県警察の管轄区域内における職権行使として行われることが予定されている(5)。このため、ドローン規制に関する制度を、各地からの警察官に十分に周知することが求められるため、伊勢志摩サミット開催までに間に合えばいいというわけではなく、事前に一定の期間を要することにもなるだろう。条例案の策定時点では、禁止法の成立の見込みをはかりつつも、条例制定に向けて動き出さなければならなかったといえよう。
 また、参照されていた禁止法の法案においても、伊勢志摩サミットとの関連ではやや不十分と考えられていた事項もあったようである。すなわち、禁止法案においては、土地の所有者等が当該土地の上空において行うドローン等の飛行については、飛行禁止規定は非適用とされており、この場合には、その土地を管轄する公安委員会等への48時間前までの通報を行うことにより飛行を行うことが可能とされていた(参照、成立後の禁止法8条・禁止法施行規則(平成28年国家公安委員会規則9号)2条1項、海域につき、国土交通省関係禁止法施行規則(平成28年国土交通省令41号)2条1項)。しかし、禁止法の対象施設が多く集まる都市部とは異なり、賢島周辺等をはじめとしたドローン規制を予定していた地域は、開催前の報道で懸念も示されていたように地理的に入り組んでおり、48時間という期間では短すぎるものとして捉えられていた。
 他方、すでに存在していた航空法も、「航空機の航行の安全及び航空機の航行に起因する障害の防止を図るための方法を定め」(航空法1条)るものであり、必ずしも伊勢志摩サミットのような要人が集結するイベントに際しての警備を主眼としたものではない。したがって、成立した改正航空法においてドローン等が航空機として位置づけられた(「無人航空機」)とはいえ(改正航空法2条22項)、飛行が禁止されるのは航空機の航行の安全に影響を及ぼす空域と、人又は家屋の密集している地域の上空とされている(改正航空法132条)。またその他の規制も、無人航空機の飛行を前提とした、爆発物等の輸送や物件の投下、多数の者の集合する催しが行われている場所や日没から日出までの飛行等の、飛行方法に関する規制がなされているにとどまっている(改正航空法132条の2)。
 さらに、都市公園条例のような既存の条例で伊勢志摩サミットでの規制に用いる可能性のあるものも存在していないように思われる。
 このように、伊勢志摩サミット開催との関係では、国の法令や既存の条例による対応も困難な状況にあったことが認められよう。

(2)時限条例としての制定
 本条例は平成28年5月28日までの時限条例とされていたが、制定をめぐっては、県内全域を対象とすることのできる、恒久的な条例とすることも検討されており、議会においてもこうした点に関する議論も見られた。恒久条例としての制定の主張は、初のドローン等の規制条例ということも背景に、「ポストサミット」の在り方として、各種の重要イベントの際に条例による規制を行う用意がなされていることが、県にとっての強みになり得るといったものであった。
 こうした議論に対しては、県からは考慮すべき事項として、①小型無人機の規制と振興のバランス、②伊勢志摩サミット終了後に規制するという大義があるかどうか、③禁止法の法案の附則(成立後の禁止法附則2条)にあった、重要な施設に対する上空からの危険の未然の防止の在り方、小型無人機の安全な飛行の確保の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるという規定の下で、国がどのような考え方をとることとなるか、という3点が示されていた(6)
 最終的には、県内全域を対象とした許可制度の導入は、住民の生活を過度に制約することになるという懸念もされたことから、まずは伊勢志摩サミットに限定した条例制定として、その後の議論に応じて検討を行うという方針がとられ、本条例は「とりあえずの措置として」(7)、時限的に制定されることとなった。
 この検討の過程は、ドローン等の規制条例について、背景に存在するドローン等のビジネス活用を進める動きや、恒久条例としてのドローン等規制条例を支える「大義」の有無、国のドローン等の規制方針に伴う今後の法環境といった立法事実の検証がなされた上で、時限条例という選択がなされたことを示している(8)

(3)制定過程と条例内容の合理性
 本条例の制定過程では、規制内容が住民の生活に大きな影響を与えることが意識されていたことがうかがわれる。その影響を受ける者の範囲をはじめとした影響の評価については、公式の大規模な調査がなされたわけではないが、担当者によって取扱店での声を聞くといった作業もなされたようである。
 飛行禁止により影響を受ける対象者としては、まずは、無人ヘリを利用した農業者と、航空写真・映像を撮影するマスメディアを想定していたという。放送局等の一次的な反応は、規制に反発を示すものであったとのことであるが、丹念な説明により納得を得られたという。他方、農作業への影響については、飛行許可の基準設定で考慮されたという。
 また、ドローン協会等の関係団体との間で、公式の協議等の場が設定されたわけではないが、関係団体からは本条例案に関する質問がたびたび寄せられ、これが条例により生じる影響の把握の機会ともなり、これらへの回答を通じて精到な説明がなされていたようにうかがわれる。
 条例案の策定過程での関係機関との協議において、条例の内容に関して強く意識されることになったのは、適用に係る条例の明確性、特に規制対象となる区域の明確性であった。これは、規制を受けることになる者に対して禁止区域を明らかに示す必要があると同時に、本条例の執行に当たる警察官にとっても分かりやすいものとしなければならないという両面に係るものであった。特に対象として想定される区域に斜面が多かったという地形的な要因も影響していたようである。規制範囲の指定は、地番のみによって指定を行うのではなく地理的な特徴に応じた指定がなされうるようになっている。
 禁止法の法案にも存在していた即時強制の制度(参照、成立後の禁止法9条)も本条例では採用された。同じく即時強制の規定を置く愛知県条例(愛知県条例7条3項)では明示的には損失補償に関する規定は用意されていなかったが、本条例では規定が置かれている。愛知県条例の規制対象区域は多くが海域であるという差異に起因するものであるか、あるいは明示の規定がなくとも損失補償の請求を行うことができるものと考えたことによるものか理由は不明であるが、本条例の方は、措置による第三者への損失発生にも明示的な対応を行っている。
 また本条例では、住民等への影響を考慮する一方、届出のような拒否処分が介在し得ない制度を回避する(9)ため、許可制度が採用された。申請に係る費用が設定されていないのは、無許可で小型無人機を飛行させることを防止し、本条例の規定する制度枠組みの下に引き込むことを意図した工夫であるという。
 もっとも、すでに見たとおり、この許可の申請は40日前までに行わなければならないが、その一方で、知事による対象施設の指定は、要人の居場所を明らかにすることになり、その施設が標的とされるおそれが高まることになることから、指定の時期は実際の開催日程に相当程度近いタイミングで行うこととなる。このため、指定がなされた時点ですでに申請可能な期間を徒過していたということも起こりうる制度になっている。とはいえ、指定による実際上の飛行禁止は1週間程度であり、さしたる混乱等は生じなかった。
 以上のように、本条例の制定に際しては、住民をはじめとした影響を受ける者に関する情報収集に基づき、また地理的な特性に応じた内容となっており、加えて、創設された制度の機能条件を整える工夫もなされていたという評価を与えることができるように思われる。

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