(6)ごみの片付け等の本人支援の法的根拠も創り出す
京都市条例の第2章は、行政当局が自治組織や関係機関と協力して、ごみ屋敷状態を解消するための、ごみの片付け等の本人支援を行わなければならないとする規定を置いている。支援の方法として、本人の意思に従うこと、廃棄物とその他の物を分別すること、有料ごみ袋の代金その他支援にかかる費用は本人が負担することを規定している。また、要支援者については、その抱える生活上の諸課題を解決するための保健福祉の施策につなげていくことも規定が置かれている。
特筆すべきことは、こうした本人支援を、下記(7)の勧告や命令等の措置を規定する中でも、基本に据えるとする宣言的な規定を置いていることである。
なお、大阪市条例には、こうした本人支援を直接規定する条文は見当たらない。ただし、下記(9)の経済的支援や下記(10)の対策会議の規定によって代替されると理解されているようである。
(7)指導、勧告、命令及び行政代執行の措置が骨格
大阪市条例も京都市条例も、ごみ屋敷状態を解消するために、原因者本人に対し、指導→勧告→命令→行政代執行という強制的な措置に向かう手順を規定している。このことによって、ごみ屋敷状態の解消は法的に担保される。条例の骨格部分である。大阪市条例は、命令を発する前と行政代執行の手続をとる前に、委員7人で組織される審議会の意見を聴かなければならないとするのに対し、京都市条例は、命令を発する前に必要があると認めるときは学識経験者等の意見を聴くものとしている。京都市条例については、パブリックコメントでも議会審議でも、審議会のチェックが必要ではないかとする意見があった。これに対し、常設の審議会は委員の数が限定されるため、必要に応じた幅広い知見を求めるためには実際的でない、事案が積み重ねられていく中で判断基準が確立されていき、行政だけで判断できる可能性が出てくるといった考え方が示されている。議会では、審議会に頼らない責任ある行政の姿勢であると評価する声もあった。京都市条例は、命令に従わない場合には氏名等の公表を行うことも規定している。
なお、行政代執行法による行政代執行は、条例に規定がなくても行うことができるとされていることから、京都市条例には、代執行の規定を置いていないが、廃棄物とその他の物を分別することや、代執行の費用の額は上記(6)の本人支援による片付けの場合と同様とすることを定めている。
(8)即時執行も可能とする
京都市条例の第3章では、ごみ屋敷状態に起因して人の生命、身体または財産に危害が及ぶことを避けるため緊急の必要があると認めるときと、堆積している物の撤去等軽微な措置をとることによりその状態を解消し、または改善することができると認めるときは、命令による行政上の義務の賦課とその不履行という過程を経ることなく、即時執行(8)という手法で、ごみ屋敷状態の解消ないし改善を図ることができることとしている(9)。特に軽微な措置によって、市職員がごみ屋敷を訪問した際に、腐敗し、または腐敗しかかっている物を撤去したりすることができ、本人の健康のためにも、有意義な措置であると考えられている。大阪市条例にはこうした規定はない。
(9)経済的支援の規定も
大阪市条例は、原因者本人が、ごみ屋敷状態解消について命令を受けたにもかかわらず正当な理由なく命令に従わない場合を除いて、経済的理由によりその解消を行うことが困難であると認められるときは、本人の申出により経済的支援を行うことができると規定している。経済的支援の要件や内容は要綱等で定められていて、支援の限度額は100万円とされているが、本人から同意と誓約を取り付けて、市が主体となって、解消のための業務を民間事業者に委託したり、地域関係者等の協力を得て堆積物を撤去したりする方法をとることとされている。民間事業者には委託料が、地域関係者等には謝礼金が支払われることとなっているが、この支払いを市が本人に代わって行うとし、このことをもって経済的支援としている。なお、経済的支援を行う前に審議会の意見を聴かなければならないことも規定されている。京都市条例には経済的支援の規定はない。
(10)対策会議にも法的根拠
大阪市条例は、ごみ屋敷状態の解消の役割を担う区役所の区長は、地域住民、関係機関の代表者その他関係者から多角的な意見を聴くために対策会議を開催することができると規定している。この対策会議は、地域福祉の関係機関も参画することから、既存の保健福祉制度の利用につなげる機能も有していて、本人に対する福祉的支援の一環を成していると考えることができる。条例制定前から開催されていたものであるが、区長の権限を明確にする意味もあって、制度上のものとして位置づけられたものと理解することができる。大阪市のごみ屋敷対策は、この対策会議による福祉的アプローチが起点となっているようである。
なお、京都市においても、区役所の主催で、地域あんしん支援員や地域関係者等が参画して対策会議が開催されているが、このことは、京都市条例に規定されていない。
(11)罰則も規定
京都市条例の第5章は、正当な理由がなくて、ごみ屋敷状態解消のために発せられた命令に違反した者には5万円以下の、立入調査を拒否したり質問に対して陳述せず、または虚偽の陳述をしたりした者には3万円以下の過料に処するという罰則規定を置いている。パブリックコメントでも議会の審議でも厳し過ぎるのではないかとの声があったところではある。大阪市条例には罰則規定はない。
(1) セルフ・ネグレクトの実態については、岸恵美子『ルポ ゴミ屋敷に棲む人々 孤立死を呼ぶ「セルフ・ネグレクト」の実態』(幻冬舎新書、2012年)が参考になる。
(2) 岸・前掲注⑴11頁による。
(3) ドキュメンタリーの内容は、NHK「無縁社会プロジェクト」取材班『無縁社会“無縁死”三万二千人の衝撃』(文藝春秋、2010年)にまとめられている。
(4) 番組の概要は、http://www.nhk.or.jp/professional/2014/0707/にまとめられている。
(5) 大阪市事務分掌規則(昭和24(1949)年大阪市規則第133号)1条の2参照。
(6) 区長会議設置規程(平成25(2013)年達第37号)5条参照。
(7) 政令指定都市では「市会」という言い方がされているが、本稿では、地方自治法の用語法に従って「議会」または「市議会」の語を用いる。
(8) 「即時執行」は、発動の急迫性を要素とする伝統的な考え方である「行政上の即時強制」に対し、相手方の義務を介在させないことに重点を置く考え方であるとされている(塩野宏『行政法Ⅰ〔第5版補訂版〕行政法総論』(有斐閣、2013年)253頁参照)。
(9) 岡田博史「いわゆる『ごみ屋敷』対策のための条例について~軽微な措置による即時執行に焦点を当てて~」(自治実務セミナー2014年12月号46頁)参照。岡田氏は、法制課長として、京都市条例の立案において中心的役割を担っていた。